トレーニングルームに行くと、ザワザワとざわめいていた。
遠目から見ると、おじさん以外は全員居る。何かを囲むように群がっているようだが。

「皆さん、どうかしたんですか?」

「あら、ハンサムじゃない!ちょうどいい処に来たわね」

「は?」

「ちょっと、コレ、見なさいよ!」

ファイヤーエンブレムさんが“コレ”と言って差し出してきたのは、十歳ぐらいの少年。
誰だろう。見覚えのあるような、ないような。

「この子供は誰です?迷子かなにかですか?」

「…アンタ、気付いてないの?タイガーよ、タ、イ、ガ、ア!」

嘘だ。それは勿論最初に思った。だってあり得ない。
おじさんがこんな子供な訳ない。頭は年がら年中きっと子供のままなんだろうけど。
僕の目の前にいる子供は眉間に皺を寄せて僕を睨みつけている。警戒しているようだった。
大体、おじさんは僕にこんな目を向けない。

「どうやら彼、記憶まで子供の頃に戻っているらしいの」

「……どうしてこうなったんですか」

「んー、それがねぇ〜…どうやら斎藤さんとやらの薬を誤って飲んだらしくて…」

あのマヌケなおじさんなら斎藤さんの薬を誤って飲むなんて事十分に有り得る事だ。
なんで他人にも迷惑をかけるんだあの人は。本当に、もう…。
おじさん…と呼んでいいのか分からないけど、彼の目線に合うようにしゃがんで、いつもの営業スマイルを向けてみた。

「…アンタ、誰」

「…僕はバーナビー。君は…虎徹、くん…で、いいんだよね?」

「そうだけど…」

まるで何かに怯えているようだった。いつも見ていたあのおじさんはどこにもいない。
くしゃりと皺を寄せて笑う姿も、猫みたいな髭を生やしたお節介な彼は、どこにもいなかった。
サラサラの綺麗な髪をして、目はクリクリしてて。僕が見た事のない、おじさんだった。

「…で?薬の効果はいつ切れるんですか?まさか一生このままじゃあるまいし…」

「試作品だったらしく、一日で切れるらしいわよ」

それには安堵した。あのお節介なおじさんがいなくなるのは構わないのだが、仕事上パートナーな訳だし。
ずっとこのままなんて、冗談じゃない。はぁ、と溜息を吐いた。

「…今日は、仕事の要請があっても行きませんので」

「ああ…彼の面倒をみるのね?優しい処あるじゃないの〜」

「僕達はバディですから。このままだと仕事に支障が出るので、仕方なくです」

「あら、可愛げのない事言うのね。タイガーをあんまり悲しませちゃダメよ?」

僕達が会話をしている間に、ブルーローズやドラゴンキッドにおじさんは遊ばれていた。
今はスカイハイさんの能力の風で宙に浮いている。驚いた顔をしているけど、楽しそうだった。
それが少し羨ましくなって、思わず視線を逸らした。

「楽しそうにしてるじゃない。自分が彼にあんな顔をさせられない事が悔しいの?」

「…何言ってるんですか。そんな訳…。大体、なんで僕が…」

「顔に思いっきりそう書いてあるわよ。でも、タイガーがあんな可愛い男の子だったなんで知らなかったわぁ〜!ちょっとぉ〜、アタシも混ぜて〜!」

ファイヤーさんは乙女走りでおじさんに…ああもう!メンドクサイから虎徹くん呼びにしよう。
今は彼はおじさんじゃないんだから。
ファイヤーさんは虎徹くんに抱きつくとグリグリと頬ずりをしていた。物凄く嫌がっている。
ふと見れば後の方でブルーローズが羨ましそうな顔でそれを見ていた。
ああ、そう言えば彼女はおじさんに恋心を抱いているんだったっけ。

「ファイヤーエンブレムさん、彼女もやってみたいそうですよ」

「へっ!?ちょ、アンタ何言ってんの!?わ、私は別に…!」

「あらぁ?んふふ、いいわよ〜。ほら、この子ったら抱き心地良いのよー」

ファイヤーさんに無理矢理押し付けられる形で虎徹くんを抱きとめるブルーローズ。
顔が真っ赤だ。虎徹くんは虎徹くんで、一瞬の出来事に何が起こったか分かってないようだった。
彼女は恐る恐る虎徹くんに触れると、一気にぎゅっと抱き締めた。
顔が物凄く必死なのが凄く分かる。

「あっ、ありがとう!もういいわ!ほ、ほら!折紙の処へ行ってきたら?」

急に名前を出されて驚く折紙先輩。もの凄く慌てている。
一方虎徹くんは、浮かない顔のまま。それに気付いたスカイハイさんは、彼に優しく話掛ける。

「どうしたんだい?そんな浮かない顔をしたら気分まで暗くなってしまうよ」

「……ぃの?」

「ん?」

「皆は、俺が怖くないの?俺、NEXT…だし…光ってる時に俺に触ると、皆怪我するんだ…」

虎徹くんは服の裾を力強く握って、恐怖から耐えているようだった。
今じゃNEXTなんてHERO TVのお陰で差別はあんまり受けないけど、昔は凄いって聞いてた。
気付いたら、僕は自分から虎徹くんに話をしていた。

「ここに居る皆は、全員NEXTなんだ。勿論、僕もね」

「そ、う…なのか?」

「誰も君をいじめたり、怖がったりしない。絶対に」

そう言えば、安心したのか、虎徹くんは笑った。ああ、笑った顔は昔と変わってないんだと思った。
ふと、物凄い視線を感じて周りを見渡せば、皆が僕を見ていた。ニヤニヤと。

「ハンサムがそんな事言うなんて意外だわぁ…」

「私も…アンタが絶対そんな事言うなんて思ってなかった…」

「バーナビーくん!素晴らしい!そして、とてもエクセレント!!」

「いつもなら絶対ツンツンしてる事しか言わないのに…うわ、ボク今鳥肌が…」

「コイツも成長したって事だろ。うん」

「拙者も驚いたでござる…」

「ちょっと、皆さん言いすぎですよ」

何を好き勝手言ってるんだ。言いすぎにも程がある。
ただ、おじさんなら、きっとこういう風に言ったに違いない。僕もどうやら随分と彼に影響されたらしい。
それから虎徹くんは僕に随分心を開いたようで、僕が歩くとまるで親鳥を追いかける雛のようにひょこひょこ付いてくる。可愛い…。
このままおじさんの家に行く訳にも行かず、今日は僕の家で泊らせる事にした。
僕の家へ着くや否や、彼は僕の部屋の大きなテレビに感動したり、窓から見える景色に感動していた。
そういえば、一番初めに彼がやって来た時もあんな反応をされた覚えがある。
ああ、彼は昔から何も変わっていないんだ。

「バーナビー、バーナビー!街が!凄く光ってる!」

今思えば、僕はずっと彼を見て来ていた。お節介な処も、言葉よりも身体が先に動いてしまう事も。
キラキラ光る、あの瞳も。…僕も落ちたもんだな。

「綺麗でしょう?それより、夕飯、何が食べたいですか?」

「えっとー…なんでもいいよ!マヨネーズがあれば!」

マヨネーズ好きは子供の頃からか。はぁ、と彼に聞こえないように溜息をする。
彼がよく勝手に座る椅子に、虎徹くんも座っている。身体を前後に動かしギシギシと椅子を揺らして楽しんでいた。
おじさんも、いつもああしてお酒を飲んでいたっけ。自然と頬が緩むのが分かる。
ああ、駄目だ。なんでこんなに心が晴れやかなんだろう。

「本当に、貴方にはいつも驚かされてばかりだ…」

「バーナビー?何か言った?」

「ふふ、いえ…なんでもないですよ」

明日にはまたいつもの煩いおじさんに戻っていまうんだろうけど。今日だけは可愛い少年で居て下さいね。



(バニー…俺、昨日の記憶が一切無いんだけど…どうしよう、記憶喪失かな?どうしよう…!)
(大丈夫ですよ。昨日のおじさんはとても可愛かったですから。いろんな意味で)
(え、何それどういう事!?ちょ、バニー!なんで笑ってんの!?怖いって!教えてくれよ!!)

―――――
虎幼児化で愛されで兎虎要素有りとリクを頂きました!
兎虎要素が思いのほか少ない、だと?す、すみません…!

リクエストありがとうございました!


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