眼を開けたら目の前に自分の顔があった。スヤスヤと寝息を立てて寝ている。
どういう事だろう。なんで目の前に自分の顔があるんだ。
「あー…」
声を出してみた。いつもより低い声。明らかに自分の声ではない。
言い知れぬ不安感。隣で寝ている自分を起こさないようにベッドを抜けだす。
視界がいつもより高い気がする。腕をみた。自分の華麗な腕はなく、少しごつい。
洗面所に行って、自分の顔を見た。数秒の沈黙の後。
「えええええええええええッ!!!!」
ドタドタドタと慌てて寝室へ戻る。隣で寝ていた恋人を叩き起こす。
「し、シズちゃん!シズちゃん!起きて!あれ、この場合シズちゃんは俺だから、えーと…起きてよ俺!!」
「…っるせぇな。何訳分かんねぇ事言ってんだ。潰すぞ」
「うわぁ。俺がそんな汚い言葉を言うなんてなんか嫌だな…」
ベッドで寝ていた恋人は起き上がるや否や殴り掛ってきた。
だが、身体に違和感を覚えたのかポカンとしている。そのまま此方の方を向くと、口をあんぐりと開けたまま放心状態になった。
「ちょ、おーい!シズちゃん!現実を見て!逃げちゃ駄目だよ」
「だ…、おま、何で俺が目の前に…つーか、何だ?…俺、じゃなくて…臨也、なのか?」
「うん。…よく分からないけど、俺とシズちゃんは入れ変わっちゃったみたいだね」
「なんでだよ」
「知らないよ」
「お前が何か仕組んだんじゃねぇのか?」
「俺がそんな面倒な事する訳ないじゃないか。いや、でもこれならシズちゃんの事触り放題なんじゃ…」
そう言ったら拳が飛んできた。躯中に違和感が張り巡らされる。
気持ち悪い。意識は己なのに、身体は自分の物ではない。
「シズちゃん、俺の顔でそんな額に皺寄せないでよ。怖い顔になっちゃう」
「しょうがねぇだろ!なんかゾワゾワすんだからよ…つーか、お前も俺の顔でニヤニヤすんな。キモい」
「キモいって…シズちゃんの顔なんだよ?でも、参ったな…このままってのも俺の仕事上問題ありまくりだし…」
静雄も臨也も互いに仕事がある。このまま入れ変わったままだなんてどれだけ支障が出るだろう。
臨也はふと思い、近くにあったペンを握ってみた。するとペンはバキリと音をたて粉々に砕け散った。
意識は臨也でも、身体は静雄。あの怪力は静雄の身体に宿ったままであった。
「うわ、すっご…少し握っただけでこんなになるんだね…」
「…楽しいか?それ…」
「いや?普段からこんな力を持って過ごしているシズちゃんは凄いなぁと思ってさ。ごめんね、今度から少し優しくするよ」
「え、ぁ…そ、そうか…」
照れてる。俺が。臨也は複雑な心境でそれを見ていた。
このままでいいのだろうか。いや、言い訳がない。
臨也の姿の静雄が粟楠会などに出向いたらどうなるかなんて考えたくない。
静雄の姿の臨也が彼の上司である田中トムと取り立ての仕事に行く分にはまだマシだろう。
だいたいこうなる原因は分かっている。友人の闇医者だろう。
「シズちゃん、新羅の処に行くよ」
「なんで」
「こうなった原因は新羅しかいないだろ」
「まぁ…そうだな。アイツしかいないな」
「俺はもう暫くこのままでもいいんだけど…仕事が、ね」
「あ、俺も仕事…」
「でしょう?よし、池袋に行くよー、ぐえッ」
静雄の姿をした臨也は玄関に歩き出そうとしたが、それを臨也の姿をした静雄が止めた。
なんだろうと振り返ると、自分の顔が物凄い嫌そうな顔をしていた。
「何…?」
「こ、このまま…外に行くのか…?」
「当たり前でしょう?それ以外どうしろっての」
「や、だって…この姿じゃ…」
「いいじゃん。面白そうだよ。シズちゃんがアタフタしてるの楽しそう」
「…てめぇ、それが目的だろ。つーか、俺がアタフタしてるって事はお前がアタフタしてるのと同じ事だぞ」
「それには眼を瞑るよ」
「………」
はぁと溜息を吐いた。このまま此処に居ても入れ変わった経緯は分からないままだ。
静雄は意を決して扉を開いた。ああ、このまま友人の家にたどり着くまで何も起きないといいのだが。
入れ変わりパーティ
(うわー!ちょ、シズちゃん!なんか知らない男共が喧嘩吹っ掛けてくるんだけど!)
(今てめぇは俺の姿してるからなぁ…俺は知らねぇよ)
(ええ!?助けてよ!)
(自業自得だバァカ。安心しろ。俺の身体はんな柔じゃねぇから。殴られれば流石に痛ぇけど)
(ちょ、うわぁああッ!!)
―――――
入れ変わりのリクを頂きました!
な、なんだか中途半端に…;
す、すみません…!リクエストありがとうございました!!