気付いたら薬指の指輪ばかりが眼に入るようになった。

――妻は五年前に病気で……――

そう彼が言ってから、僕は彼の薬指から眼が離せなくなってしまった。
叶わないこの恋心を、さらにどん底へ落とされたような気分。
敵うわけ、ないじゃないか。彼には妻がいて、でももう亡くなっていて。
指輪を外さないのは彼がまだその妻の事を愛しているからで。

(…そんなの、敵うはず、ないじゃないか…)

僕はあの人が好き。愛してる。でも、それは僕の勝手な片想い。
僕は男で彼も男で。愛してもらえるはずが無いって、分かってたのに。

「…最悪だ」

「何が?」

突然背後から話掛けられて自分でも驚くぐらいビクリと身体が跳ねた。
心臓が煩く鳴る。キョトンとしている虎徹さんに気付かれないように冷静を装う。

「…別に。なんでもありません」

「ええ〜?そんなふうに言われたら余計気になるっての!ほら、おじさんに教えてごらーんっ」

からかうように笑う。ああ、好き、好きです。
出来る事ならその指輪を外して欲しい。でもそんなの無理に決まってる。
僕の勝手な感情で虎徹さんを困らせてはいけない。
僕は、貴方の傍にいられるだけでいいんだから。

「なんでもないって言ってるでしょう。そうやってしつこいから娘さんにも嫌がられるんですよ」

「んなっ!?ううー、バニーちゃんの意地悪…」

ごめんなさい。ごめんなさい。素直になれなくて、すみません。
まだ僕にはそんな勇気がないんです。

「俺はバニーと仲良くなりたいだけなのに…」

知ってる。でも、僕はきっと貴方をそんなふうには見る事が出来ない。
こんな相棒、嫌でしょう?僕だったら軽蔑する。
嫌われたくないから、僕は自分の心を閉ざす。

「僕は別に貴方と仲良くなろうとは思ってません」

「俺達パートナーなんだぜ?やっぱ相手に心を開くべきなんだと俺は思うんだがなぁ…」

「僕は貴方のそういった処が嫌いなんですよ」

嘘です。嫌いだなんて、嘘です。気付いてください。
心の中で呟く。好きなのに、嫌いと言わなければいけないなんて。
嗚呼、僕はなんて臆病なんだろう。



心の中でそっと涙を流した

――――――
また片思い兎。

虎兎は片思い多いな…;

『Chien11』様よりお題をお借りしました。


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