それは、一目惚れというやつだったのかもしれない。
この僕が心を奪われるなんて、馬鹿げている。しかもその相手が抹消すべき鬼だなんて。


僕は、陰陽師。街に悪さをしようとする鬼を退治する事や、悪霊を祓うのが仕事だ。
ある時、僕は街の外に鬼退治へ出かけた。その帰り森の中で鬼の不意打ちにあった。
そのまま僕は山を転がるように落ちていき、気を失ってしまった。
眼を覚ませば。

「よぉ、大丈夫か?」

ニカリと笑う、男。マジマジと男の顔を見る。
自分よりは年上だろう。浅黒い肌、牙のような髭。
そして額から覗く、角。それを見た瞬間慌ててその男から離れた。

「お前ッ、鬼…!?」

「あれ?げ、…角隠すの忘れてた!」

男の正体は陰陽師と敵対している鬼だった。人間のような格好をしている鬼。
弱っている僕を殺しにきたのだろうか。急いで符を取りだそうとしたが。

「いッ…!」

「あっ、ほら…お前怪我してんだがら…無理すんなって!」

「さ、触るな!」

振り払おうとした腕を掴まれる。破けた服の間からは転がった時に傷ついたであろう傷。
止めどなく血が流れていた。それを見た男は自分の着ていた服を歯でちぎって破くと、それを僕の腕へ巻き付けてきた。
手当てのつもりなのだろう。

「あ、俺の名前、虎徹な。よろしく。お前は?」

「だ、誰が鬼なんかに…」

「手当てしてやってんだろ。それに、あのまま放っておかれて他の下級の鬼に食われても知らねーぞ、コラ。俺の親切無駄にすんなよな」

「くっ…」

変な鬼だった。人語を理解しているようだし、喋っている。まるで人間のよう。

「ほら、これで終わり!もう大丈夫だろ」

「あ、あの…ありがとう、ございました…」

「ん、いいって事よ!困った時はお互い様ってな!お前、陰陽師だろ?こんな処で何してんだ?」

これまでの経緯を男、虎徹さんに説明する。おかしな男だと思う。
いつの間にか彼の雰囲気に呑まれている。

「あー、それで…。なら、ここを下ってくと、街に出るぜ」

「え、…」

「あ?おい、何驚いてんだよ」

「だって、貴方、…僕を殺さないんですか?見た処上級の鬼のようですけど…」

「はぁ?俺は殺生は好まねーの!娘も親友も居るしさ。ほら、さっさと行け!もう下級の奴らに襲われんなよー!」

「よ、余計なお世話です!!」

その日以降、僕はあの人を忘れた事がなかった。
あんなに優しくされたのは初めてだったから。あの人の笑った顔が、脳裏から離れなくて。
どうしたらあの人をモノに出来るんだろう。どうしたら、どうしたら。

「それなら、使い魔にでもすればいいんじゃない?」

同じ陰陽師の誰かが言っていた。使い魔、そう言えばまだ居なかった。
なら、あの人を使い魔にしよう。それならでも契約を結ばせるにはどうしたら、どうしたら。

(そういえば、…)

あの人、娘がいると言っていた。その娘を捕まえて脅せば使い魔になってくれるだろうか。
きっとあの人の事だろうから、愛娘を人質に捕えれば簡単に降伏してくるだろう。
彼が僕の使い魔になった姿を想像して、ゾクリと身体が歓喜に震えた。

(ああ…、愉しみだなぁ…)

早くあの男を手に入れたい。その後はただその衝動だけで僕は楓ちゃんを捕え、虎徹さんを脅した。

「僕の使い魔になれ。断るのなら、貴方の愛娘を殺す」

卑怯だと思った。けど、あの人をこの手にするにはこの方法しかないと思ったから。
もう引き返せない。嗚呼、早く僕のモノになればいいのに。

―――――
兎さん視点でした^^





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