いつも通りの仕事を終えた日。すっかり夜中になってしまいさっさと帰ろうという時に。
虎徹はバーナビーの腕を掴み、言った。

「なぁ、これから星を見に行かないか?」

相変わらず突然すぎる。バーナビーはげんなりして溜息を吐いた。

「…おじさんって、計画性とか無いですよね」

「う、うるせーな!いいだろ別に!」

「…僕じゃなくて、他の人を誘ったらどうです」

素っ気なく言えば虎徹は急に笑顔になり。

「お前がいいんだっての」

そう言って虎徹は笑った。それが少し嬉しくて、柄にもなく胸が弾んでしまった。
ドキドキと高鳴る胸を抑えバーナビーは半ば呆れたように。

「仕方ないですね。少しだけですよ」

綻ぶ顔を押さえて、そう言った。



星が見えるオススメの場所があるんだと言われ歩く暗闇の道。
時々抱え込んだ孤独や不安に押しつぶされそうになる。
でも、そんな時に限って。

「大丈夫かバニー?怖かったら言えよ?」

「な!ば、馬鹿にしないでください!僕は男です!子供扱いしないでくださいよ!!」

「はいはい。俺にとってバニーちゃんはまだまだ子供だっての」

まるで独りで抱え込むなよ、というように虎徹はバーナビーの腕を掴み引っ張っていく。
連れて行かれた高台からは、真っ暗な夜空はまるで星が降っているかのようだった。

「はー…やっぱこっから見る星は綺麗だなー」

「……………」

「な?綺麗だろ?」

「…そうですね…。おじさんにしては良い場所を見つけたんじゃないですか?」

「かァー!!可愛くねーなぁ!」

いつからだろう。アナタの事を追いかける自分がいた。
最初は時代遅れのおじさんだと思っていたのに。
ズケズケとバーナビーの内側へ入り込んでは荒らす事なくただ居座るだけの虎徹。
天敵である虎から仲良くなりたいんだ、と手を差し出されても兎は怖くてその手を掴めなかった。
信じる、という事が出来なかったのだ。このまま放っておけば虎も諦めるだろうと思っていたのに。
彼はそうしなかった。自ら攻撃の意志が無いのを示し、傍にいた。
ただ、それだけだ。それだけなのに、いつの間にか警戒心を無くし、好意を寄せていたのだ。

(…この気持ちを伝えたら、おじさんはきっと、驚くんでしょうね…)

「なぁバニー、あの星、なんて名前か知ってるか?」

虎徹が指差すのは夏の大三角。バーナビーは眼鏡を掛け直すと虎徹に向かって威風堂々と言い放つ。

「ええ、知ってますよ。あれがデネブ、アルタイル、ベガ」

「………」

「悔しいって顔してますね」

「当たり前だろ!俺が教えてやろうと思ったのに…」

虎徹は口を尖らせそっぽを向く。そんな彼が愛おしくてそっと笑った。
楽しそうに星を見る虎徹をバーナビーはただ見つめる事しか出来なかった。
本当はずっとどこかで分かっていた。
例え星を見つけたって届きはしないって事。この想いもあの人には届かないという事を。
駄目だ、泣くなと。自身にそう言い聞かせた。

強がっているのは臆病な証。必死に興味がないようなふりをしていた。
だけど、胸を刺す痛みは増していって。そこで改めて自覚させられた。
“好き”になるって、こういう事なんだなと。

「さて、そろそろ戻るぞバニー」

「………」

「バニー?」

どうしたい?と心が問う。あの人の隣がいい。でも、眼を引くのは虎徹がしている左手の薬指の指輪。
ああ、真実は残酷だ。

「…なんでもないです。ほら、帰るんでしょう?明日寝坊しても知りませんよ」

言わなかった。言えなかった。言えるはずがなかったんだ。
言ったらきっと、今まで通りの関係には戻れない。

そんな夏の日。煌めく星達。
笑った顔も、怒った顔も。全部全部。

「…大好き、でした…」

「あん?何か言ったか?」

「…いえ、何も。おじさんの空耳じゃないですか?ほら、おじさん、もういい歳ですし」

「ちょ!俺ぁまだまだ現役だっての!!」

可笑しいな。分かってたのに。涙が溢れそうだ。
アナタの知らない、僕だけの秘密。
零れそうになる涙を堪える。そんな時、虎徹が指を刺す。

「あ!流れ星!おいバニーちゃん!流れ星だぞ!消えない内に三回願い事唱えないと!」

「はぁ?」

「えーと、えーと…ああ!願い事が多すぎて悩む…!!」

「これだからおじさんは…」

「あ!じゃあ、これからもバニーちゃんと仲良く相棒でいられますように!」

「え…」

突然のその言葉に驚いた。裏表がない虎徹の事だから本当にそう思っているのだろうけど、本気で驚いた。

「これなら叶うだろ!さすがに!」

「……三回言わないと駄目なんじゃなかったですか?」

「あ」

「じゃあ、その願いは一生叶いませんね」

スタスタと歩きだすバーナビーに虎徹は急いで着いていく。
虎徹の願い事には驚いたが、バーナビーは嬉しくて緩む顔を抑えられなかった。

Story that you do not know

(あ、バニーちゃんの願い事ってなんだ?)
(僕の願い事は一生叶いませんから。お願いしても無駄なんです)
(………??)

―――――
『君の知らない物語』って曲は兎→虎だと思ったので。つい…。
片思い兎。


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