「…臨也」
グチャ、と何かが鳴った。暗い暗い路地裏。俺は佇んでいた。
俺の目の前には臨也がいた。
臨也はくるりと俺の方へ向くと、ニコリと笑顔になった。
「シズちゃん!!」
「…何やってんだ?」
俺がそう言えば、臨也は顔を歪ませて何かをグチャリと踏みつぶした。
暗くて良く見えないが、ソレは多分…。
「ああ、“コレ”?だって、コレ…シズちゃんに傷を付けたんだ。だから、コレにシズちゃんの痛みを知って貰おうかと思って」
「そうか。ありがとうな」
「うん」
人だった。臨也が笑いながら潰しているのは、確かに人だった。
そう言えば、服に見覚えがある気がする。昼間、俺に喧嘩吹っ掛けて来て、ナイフで俺の事を切りつけてきたヤツだ。
「…羨ましい」
「ん?シズちゃん?どうしたの?何が羨ましいの?」
「だって、ソレ、臨也に触られてる。俺も触られて、愛されたい」
「シズちゃん…。大丈夫だよ。もう少ししたら終わるから、そうしたらいっぱい愛してあげる」
「ん、」
グチャグチャと肉が鳴る。臨也の行動は異常だけど、俺はそんなの気にしない。
臨也の格好はいつも黒いから分からなかったけど、その服は赫く染まっていた。
ただたたその光景を見つめていたら、奥の方で何かが動く音がした。
臨也の顔がくしゃりと歪む。苛々しているようだった。
「あれぇ…?」
「ひ、ひィ…あ、が…」
「なーんだ。まだ居たんだ。シズちゃんを傷付けた悪い奴」
「は、ぁ…あッ、ぐぇ…」
男はガタガタと身体を震わせ、声にならない悲鳴をあげている。
臨也が近づく前に、俺が先にソレへと近づく。
駄目だろ?なんで逃げるんだ?折角臨也が教えてやってるのに。
「なぁ…、なんで逃げるんだ?臨也が俺の痛みを教えてやってんだ。お前らもそれをきちんと受け取るべきだろう…?」
俺がソレの腕を掴んだら、簡単に腕の骨が折れてしまった。最近力の加減が分からねぇんだよな。あーあ、なんて思って、逃がさないように掴んでいたら、気が付いたらソレは動かなくなっていた。ああ…、間違えて顔まで潰しちまった。
「悪い臨也、コレ…壊しちまった」
「ううん。平気だよ。だってシズちゃんは俺の為にソレを捕まえようとしてくれたんでしょう?」
「だって、臨也が折角俺の痛みを与えようとしてるのに、臨也の愛から逃げるから…」
「何を言ってるの?俺が愛してるのはシズちゃんだけだよ?」
「臨也…」
俺と臨也は真っ赤になった路地裏で抱き合う。真っ赤になった臨也はまた一段と愛しい。
「臨也は、赫が似合うな」
「シズちゃんの方が似合うよ」
真っ赤になった手で臨也の頬を撫でる。そうしたら臨也の顔は赤く赤く染まった。
その頬を、俺は舐めた。…苦い。
「苦い…」
「それはシズちゃんの血じゃないから。シズちゃんの血は凄く甘いんだよ」
「臨也の血は甘いのか?」
「さぁ…俺は自分の血なんて飲んだ事ないからなぁ」
そう言って臨也は俺の頬を撫でた。
恋病に狂う君は血液に浸した薔薇の様に美しい
いっそこのまま真っ赤に染まってしまおうか。
―――――
静雄を傷付けた輩が許せない臨也さんとそれを見て喜ぶ静雄
すみません、ちょっと修正しました。6/8