シュテルンビルド学園の保健室。そこには美人で綺麗な保健師など存在しなかった。
居るのはただ、三十過ぎのオジサンだけ。

「今日も暇だなー…」

誰でも気軽に利用できる癒しの空間。それが保健室である。
ここシュテルンビルド学園には、所謂お金持ちの息子や娘が多い。
気が強かったり、逆に気が弱かったり、ボーイッシュだったり…。
そんな多数の生徒が集まる中でも、特に虎徹を困らせている生徒がいた。

「虎徹さん…っ!!」

ああ、来たな。と虎徹は思った。廊下を早歩きでこちらに向かってくる音ですぐにわかる。
分かってしまう自分も自分だが。虎徹ははぁ、と大きく溜息を吐く。

「バニー、今日も来たのか」

「虎徹さんに会いに来ました」

「あのな、何度も言うように、ここは保健室だから、怪我をしたヤツだけが来るんだ。分かるか?」

「僕は虎徹さんに出会って心を傷つけられました。それも愛という凶器に…!」

「ハイハイ。お前は頭の病院行った方がいいんじゃねーか」

彼は学年一のハンサムでイケメンで頭がいい、ブルックス家の一人息子のバーナビー。
最初は虎徹の事なんか興味がなさそうだったのに。
朝、良く体調が悪いとかで保健室に通うようになり、虎徹と知り合った。
ツンケンしていたバーナビーも虎徹の柔らかな物腰に、いつしか絆され、そして好きになっていた。

「虎徹さん、僕は真剣なんですよ!好きなんです、虎徹さん…!」

「だぁーから、俺は男だし、お前も男。年齢も違うし、俺は…ほら、結婚してるし…」

「愛に性別も歳の差も関係ありません。それに、僕は虎徹さんが結婚してても構いませんから」

「良くねぇだろうが…」

虎徹には妻が居るが、彼女はすでに五年前に病気で他界していた。
その寂しさを紛らわすためにも仕事に専念していた訳だが。
こうなってしまうと誰が予想しただろう。

「ほーら、チャイム鳴るぞ。教室戻った方がいいんじゃねーの?」

「僕は成績優秀ですから、授業を聞かなくても大丈夫なんです。それに、ちょっと体調が悪いので保健室に行ってきますとも伝えましたし」

「へーへー、そうですか…。体調悪いなら、ベッドで寝るか?」

「虎徹さんは添い寝してくれますか?」

「しませーん」

不機嫌になるバーナビーに虎徹はまた溜息を吐く。大人ぶってるわりに、中身は子供だ。
窓の外から見える空は青空なのに、虎徹の表情はどんよりと曇っていた。

(はぁ、早く勤務時間終わらねぇかなぁ…)


続く!!





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