「せんぱーい!先輩先輩先輩、平和島せーんぱーいッ!!」
池袋、サンシャイン通りにけたたましい声が広がる。名を呼ばれた平和島静雄はずれたサングラスをカチャリと掛け直す。
少し後ろを見てみれば、満面の笑みでこちらにドスンドスンと音を立てて向かってくる長身の男。
静雄は大きく溜息を吐いた。どうして毎回こうなるんだ。
「あーッ!先輩やっと止まってくれましたね!もー!先輩歩くの早いっすよ!」
「一応聞いとくが…何の用だ雅哉」
「何の用って…そりゃ平和島先輩に愛の告白をする為に決まってますよー!やだなー!あははは!」
先ほどの大男は笹塚雅哉と言う名で、静雄の高校時代の後輩だった。
しかし雅哉が入学する時には静雄はもう卒業していたのだが。
初め、雅哉は自分に憧れて来神(今は来良学園と名を変えている)に入学したのかと思っていたのだが。
「え、違いますよー!来良学園なら平和島先輩の高校生活の傷痕が残ってるかなって思って!先輩が壊したゴミ箱とかフェンスとかサッカーゴールとか!あわよくば持って帰りたいなぁー、なーんて思って来良に入っただけです。あ!でも俺、先輩が壊した学習机の一つが家にあるんすよ!凄くないっすか?殆ど処分されちゃうのに残ってたんすよ!だから俺、勝手に学校から持って来ちゃいました。見つからないように運ぶの大変でしたよー」
何とも思っていないのか、楽しそうに笑っていた雅哉。静雄は飽きれてものも言えない。
ストーカーの領域を超えていないだろうか。
「先輩の事は勿論憧れてます。ただその憧れが在らぬ方向へ曲がっただけですって」
ケラケラと笑う雅哉。どこか高校時代の同級生の嫌なヤツを思い出すのは何故だろう。
「俺、先輩みたいになりたいんです!強くてカッコ良い男になりたいんです!!」
言い忘れていたが、雅哉という男は静雄の身長をゆうに超えている。
静雄は雅哉と話をする為に顔を上げなければならない。いつも他人を見下ろしていたのに、見下ろされると妙な感じになる。しかも年下に、だ。
「先輩っ、先輩はこれからどうするんですか?お暇でしたら一緒にお茶でもしませんか?」
「そういうのは女に言ってやれよ」
「えー?やですよー!だって俺、先輩でしか勃たないんですもん」
笑顔で言われた。彼には悪気はないのだ。ただ頭が正直なだけなのだ。…そうだと思いたいと静雄は思う。
「あいにく俺はこれから用事が…」
「そんなぁー…、じゃあ年中無休で暇そうな臨也先輩でも誘うかー」
「おいちょっと待て」
「わん!」
「…なんで犬の真似してんだお前…」
「だって先輩今、『待て』って…」
「その待てじゃねぇ。つーか、今臨也って聞こえた気がするんだが、俺の空耳か?」
ニコニコと犬の真似をしながら俺に微笑む雅哉。本当に何を考えているのや。まったく考えが読めない。
「臨也先輩って言いましたけど、…それがなにか、わん?」
「お前…ノミ蟲とも知り合いだったのか?」
「一応。あっ、浮気じゃないですよ!俺は平和島先輩一筋ですからね、わん!」
「その変な犬の鳴き真似を止めろ。イライラする。…ノミ蟲とはどこで知り合った?悪い事は言わねぇ…アイツとは関わるんじゃねぇよ」
「無理ですよー、わん」
「あ…?」
「だって俺、臨也先輩の所でバイトしてるんす。ザ・雑用?みたいな?報酬が平和島先輩のマル秘レア写真なんですよー。雑用するだけで平和島先輩の写真が貰えるなんてそんな願ったり叶ったりな事ないっすから!わん!」
止めろと言った変な犬の鳴き真似は止めない。からかっているのか。そうではないのか。
雅哉はただただ、楽しそうに笑うだけ。
「雑用って…何してんだ?」
「えっとー、書類の整理、ご飯の用意、臨也先輩の情報集めのお手伝い、囮役、部屋の掃除、お風呂掃除、お買い物、夜のお相手…」
「待て」
「わん!」
「だからその待てじゃねぇ。よ、夜の相手って…まさか」
「夜の相手って言ったら一つしかないじゃないっすか。ま、俺は平和島先輩にしか勃たないんで関係ないんすけどー。臨也先輩が俺に迫ってくるんですもんー…。あ、でも臨也先輩の夜のお相手すると平和島先輩のもっとレアな写真とか物くれるんですよー!だから俺、頑張れるっていうかー…」
なんということだ。まさかこんな事になっていたなんて…。
俺の写真一つに後輩は同級生、しかも大嫌いな奴と…あ、あんな事をしているなんて。
なんだか申し訳なく思えてきた。無理矢理させられているみたいだし、これはなんとかしなければ。
「おい、雅哉」
「はい!」
「お前、これから暇か?」
「暇も暇!超絶暇です!暇すぎて干からびそうなくらい暇です!暇を持て余してもう逆に何していいか分からないぐらい暇です!!」
「……お前、いつもそんな感じなのか?」
「はい!」
臨也のやつ、よくこんな変な奴と仲良く出来るな…。俺だったら五秒でキレてる。
…と、そうじゃなかった。コイツを臨也から離さなければいけないんだった。と、言ってもどうすればいいんだ?
「…そういや雅哉、お前…臨也から俺の写真以外、金とか貰ってんのか?」
「貰ってませんよ?あ、でも時々お買い物のお釣りをくれる事はあります!十円とか、二円とか…」
(それはもうイジメに近くないか…?)
はぁ、と溜息が出た。この男は俺の写真の為だったらなんでもやるのか。一途なのは嬉しいが、少し重い。
「雅哉、ちょっとついて来い」
「ラブホですか!?きゃー!俺ってばとうとう平和島先輩の処女を奪ってしまう訳ですね!なんて罪な男なんだ俺は!!」
「誰がそんな所行くっつったんだよ!!黙れねぇなら、その口塞ぐぞ?」
「先輩のキッスで、ですか!?キャーキャー!」
大きな身体をドシンドシンとさせ喜ぶ雅哉。彼に悪気はない。
ただ、ちょっとオカシイだけなのだ。生まれてくる途中で頭のネジをどこかで落としてきたのだろう。
「なら先輩!俺いいホテル知ってるんすよ!さぁ、早速行きましょう!」
「は?まっ…!俺は行くなんて一言も…!」
「先輩とラブラブランデブー!フゥー!」
聞いてない。俺より大きな身体をしている雅哉に腕を掴まれ無理矢理歩かされる。
雅哉の腕を振り払おうとするのだが、ピクリとも動かない。どんどん不安が大きくなる。このままラブホテルに連れて行かれたとしても、俺はどうしたらいいんだろう。
正直、俺はそう言った情事には疎い。女とは勿論やった事もないし、自慰も数える程度でしかしていない。
だ、だって恥ずかしいだろ…!
「先輩!着きましたよ!いざ俺と先輩の愛の巣へ!!」
「お、おい!止めろって!俺は別にこんな場所に来たかった訳じゃ…!」
あれよあれよという間に俺はラブホテルの中へ連れられた。部屋の一室は至って普通の部屋で、こ、こんな所でヤるのか…?
「大丈夫ですって先輩。俺、優しくしますから!」
「はっ、!?」
雅哉は俺の腕を掴んでベッドに押し倒す雅哉はニヤニヤと笑って俺を見ていた。
俺の服に手をかけ、ボタンを一つ一つはずしていく雅哉。ドキドキしてきた。や、止めさせなきゃいけないのに、身体が動かない。サングラスを外されて、目尻にキスをされた。
不意にドキッと胸が鳴った。
「俺、ずっとずっと先輩とセックスするのが夢だったんです。何度も何度も夢に見ました」
「な、んで…俺なんだ…」
「憧れてるっていうのもあるんですけど、本当は一目惚れです。俺、最初はノーマルだったんですよ?でも、先輩に一目惚れしてからは先輩一筋です!!」
えへへ、と笑う雅哉。この男は俺が好きなんだ。嘘偽りなく。ただ、純粋に。
こんな俺でも好かれるんだなぁと嬉しくなった。
殆どの人間は怖がるか、関わらないようにするかのどちらかだ。
でも、雅哉はそんな事はなかった。
「や、優しく…するんだろうな…」
「!! も、勿論です!!」
これっきりだ。今日だけ。今日だけ特別に俺の身体を好きにしていい事にしよう。
そう割り切らないと、何だか今まで知らなかった感情に押し潰されそうになる。
「痛い所あったら言って下さいねー」
「お、おう…」
身体を弄られる。ぞわぞわとした感覚に身体が震えた。
「ん、ん…ッ」
「気持ちいいですかー?」
「ゃ、わからな…ッ!」
最初は上半身だけだったのが、今度は下半身の方まで腕が伸びてくる。
ベルトを外されてスラックスと下着を一気に脱がされた。
スースーと冷たい空気が触れてブルリと身震いをする。
雅哉の手が俺の一物を握り、上下に動き出す。それに合わせて俺の呼吸も荒くなる。
少し怖くて、シーツを握りしめた。
「ぁ、や、んんーッ!ぁふ、あ…」
「先輩、可愛い…。これは気持ちいいんですよね?ああ、先輩は数えた程度でしかシた事ないでしょうから、分からないですよね?大丈夫です。俺がきっちり教えてあげますから!」
今度は雅哉の指が俺の秘部を弄り始めた。少しの怖さに思わす身体に力を込める。
ずぷり、と入ってくる指。始めての感覚にどうしたらいいのか分からず俺はただ喘ぎ続けた。
「ひぅ、っひ、ふぁ、あ、ぐ…ッ」
「うーん、ココじゃなくて、もっと奥の…」
雅哉の指がソコに触れた途端、俺の身体に電流のようなものが流れた。
なんだ、これ。
「あは、先輩の前立腺みーつけた!!ココ、弄られると痺れるぐらい気持ちいいですよね?」
「ひゃ、あ!ぁああッ、そこ、ばっかッ…いじ、るなぁ…!!」
「またまたぁ!嘘ばっかり!そんな先輩には、指増やしちゃいまーす!」
グチグチと中にある雅哉の指が増やされる。
その指がバラバラに動いて俺の良い所を弄りるものだから、呆気なく俺は達してしまった。
しかもそれで終わりではなく、今度は指が引き抜かれ、はっとして見ればそこには自分の一物を出した雅哉の姿。
まさか、まさか。
「先輩、入れますよ?いいですよね?」
俺が良いとも言わずに
雅哉はソレを俺の中に捻じ込んだ。
痛くて痛くて、苦しくて。自分の唇を噛み締めた。
「あー…やっぱり、先輩の中は思ってた通りキッツイですね。あ、先輩って処女ですよね?きゃー!俺ってば先輩のハジメテを奪った男になりますよね?うわー!責任取らなきゃじゃないですか!嬉しいなぁ!!」
マシンガントーク。空気を読め。俺は死ぬ程苦しいんだぞ。
グリグリと俺の良い所を刺激される。
唇にはちゅ、ちゅ、とバードキスが降ってくる。その時の雅哉の顔は本当に嬉しそうにしていて、俺のは何も言えなかった。
「ふ、ふぁッ、ん、んんーーッ、は、ぁあ…ッ!」
「ッ、先輩…締め付きすぎ、ですって…それとも、それぐらい気持ちいいって事っすか?」
目の前の雅哉に抱きつく。身体の熱が引かない。
このまま俺は溶けてしまうのではないだろうか。そんな不安に襲われる。
すると、急に身体を起こされて、後ろから抱き抱えられた。
なんだ、どうした。
「先輩、後ろからいきますよー?」
「は…?ぁ、あ!ちょ、…ふか、ぃい…ッ!」
雅哉に後ろから抱き抱えられ、自分の体重で雅哉のをずぷずぷと飲み込む。苦しい。痛い。でも、気持ちいい。
無我夢中で雅哉の腕にしがみついた。
「ぁ、…せん、ぱ…もう、出て…、ッぁ…っ!!」
「ひぅ!ぁッ、あぁーッ!あ…、あー…、ぁう…」
ドクンと脈打ったかと思えば次の瞬間、俺の腹の中が熱くなる。
雅哉が達したのか。ああ、とうとう後輩とヤっちまったのか。
これからどうする。何も考えてない。
「先輩…あの、今日は…ありがとうございました…。もう、俺は満足です。無理矢理連れてきたみたいで、本当…すみません、でした…」
さっきとは打って変わり、雅哉の態度が違う。なんだかこっちが虐めたみたいな…。
いや、俺は悪くない。悪くない…。
「ぁ、じゃあ…俺、これから臨也先輩の所でバイトなんで、行って来ますね…平和島先輩、今日は本当にすみませ、」
ノミ蟲の所へ行くのか。それがどうしようもなくムカついて。
さっきまでお前とヤってたのは俺だぞ。なのに他のヤツの所にぬけぬけと行くのかよ。
なんだよ、それ。苛々する。
「ダメだ。ノミ蟲の所になんか、行くな」
「で、でも俺のバイト代が…」
どうせそれは俺の写真だろ。本物は此処にいるだろうが!!
「雅哉…お前、これからノミ蟲と関わるな」
「いや、だからそれだと俺のバイト代が…」
「ッ〜〜!!だから!これからは俺が一緒に居てやるから、それなら写真なんていつでも撮れるだろ!!」
言ってて、気づいた。俺、もしかして臨也の野郎に嫉妬していたのか?
こいつは俺の事を想ってて、でも臨也のヤツと仲が良いから嫉妬して。
俺以外のヤツなんか見るな、なんて思ってしまう。
何時の間にか、雅哉のアプローチに俺は落ちていたのか。
「それ、…マジ、ですか?俺と付き合ってくれるって事ですよね?平和島先輩?」
「そ、そうだって言ってんだろ!あ、あと…その平和島先輩って、止めろ。静雄で、いい、から…」
「ぇ、え…し、静雄せんぱぁああい!!やった!俺の念願の夢が叶った!!うわぁい!!よし、これからは臨也先輩なんて知らないぞ!!アドレス消しちゃおーと!静雄先輩と付き合えるなら臨也先輩なんてもう用無し!!あ、でも先週のバイト代貰ってないからそれだけ貰いに行くか…」
相変わらず一人でベラベラ喋る男だ。
でもこれで雅哉が臨也と関わる事が無くなる訳だ。良かった。
これ以上アイツに関わらせちゃいけないんだからな。何か危ない事に駆り出されたなんて知ったら、俺はきっと周りが止めない限りアイツを殺すだろう。
こんな俺を、一途に想ってくれるヤツがいるんだから。
その想いを大切にしないと。一人には慣れたつもりだってけど、やっぱりどこかで温もりを
欲していたんだ。
「雅哉」
「はーい!なんですか静雄せんぱ、」
ぎゅ、っと抱き締めてやった。壊さないように。優しく。
そうすれば雅哉は笑って抱き返してくれた。
愛情表現が苦手で、ごめんな?
これからは、きちんと大切にするから、俺の事嫌いにならいでくれ。
俺とお前のランデブー
(ぁ、あのよ…そういやお前、アイツの夜の相手って…何してたんだ?ま、まさか…)
(ああ…。マッサージですよマッサージ。あの人Mなんですかね?俺が痛くすると嬉しそうに喘ぐんです。俺、正直Mは苦手なんですよねー。あの人、きっとドが付くMですよ。あ、なら静雄先輩が自販機投げ付けたら臨也先輩喜ぶんじゃないですか?)
(そう、だな…そうする)
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すみませ…!大変遅くなりました!!
静雄より背がデカイ後輩な夢主、の設定が最初しか生かされない、だと?
ひゃああ(>_<)すみませんでした…!!
久しぶりの夢小説で張り切りすぎて長文に…。
この度はリクエストありがとうございました!!