その人は、とても不思議な人だったと思う。出会ったのは中学の時。俺がまだ一年坊の頃だ。
相変わらず懲りずに俺に喧嘩を吹っ掛けて来る輩を追い払って、
その時少しだけ切り傷や擦り傷を作ったから消毒をしようと保健室に向かった。

「…すみません、誰か…いますか?」

シンッ…、と静まり返る保健室。先生はいないのだろうか。また出直して来るか、と後へ振り返った途端。

「あれ、こんな処でどったのー?怪我でもしたか?」

それが、亜川湊という人との出会いだった。


****


湊さんは俺より二個上で。俺から見てもイケメンだった。

「へー、喧嘩ねぇ…。ほどほどにしとけよ?ただでさえこの学校は短気な奴らが沢山いるんだからな」

ま、俺もその中の一人だけど。
そう言って笑いながら俺の傷の手当てをする湊さん。俺にはそうは見えなかった。

「…俺じゃなくて、あいつらが勝手に俺に喧嘩吹っ掛けてくるんす」

「あー、君有名だもんねー。えっと…平和島静雄くん、だっけか?」

「なんで…俺の名前…」

「だから有名なんだって。一年のくせに喧嘩がめちゃくちゃ強いってな」

ビクリと俺の身体が震えたのが分かったのか。湊さんは少し困ったような顔をして笑った。

「安心しな。俺はお前に喧嘩吹っ掛けたりしねぇよ。だってこんな男前な顔が歪んじゃせっかくのイケメンが台無しだもんな!」

湊さんはそう言ってケラケラと笑いながら俺の頭を撫でる。不思議と嫌な気はしなかった。

「俺は自分が男のくせに、イケメンやら男前な奴らが大好きだ!あれは男の鏡だ!もう俺にとっては尊敬していると言っても過言ではない!」

「………はぁ」

「静雄くん、君今俺に対してドン引きしてるだろう?君はイケメンだし、男前なんだからもっと自信を持て!」

第一印象はカッコイイ。第二印象は、変な人。いや、変人。
俺からみてもカッコイイのにどうして言う事は変なんだろう。ちょっと残念だと思った。
そんな時、ガラガラと保健室の扉が開いた。そこに居たのは俺が尊敬している田中トムさんだった。

「トムさん!」

「あっれ、田中っちじゃん。こんな処まできてどったのー?」

「静雄!…と、なんで湊が居るんだ…」

「今日は保健室の先公がいねぇっつーから、授業サボろうとおもったら静雄くんがボロボロの姿で現れたから手当てしてやってたのー」

ケラケラ。湊さんはそう笑いながらトムさんと会話をする。知り合い、なのかな…。

「静雄くん、俺は田中っちと同じクラスなの。だから不思議な事なんてどこにもないのだよーむふふ」

まるで俺の考えていた事が伝わったように湊さんは言う。
だけど言う事に一々苛々するのはなんでだろう。

「そうか…ありがとな、湊」

「うっわ!田中っちにお礼言われちゃった!流石俺の中で男前ランキング一位の田中っち!カックイー!」

「…トムさん、この人…」

「あー…コイツは亜川湊っつって、ちょっと変わってるやつなんだよ」

「ちょ!自己紹介ぐらい自分で出来るし!馬鹿にすんなし!つーことで俺は湊!よろしくな!」

その人との出会いから俺の生活は変わった。
毎日のように俺に喧嘩を吹っ掛けてきた奴らは、まるでどこかに行ったように喧嘩を吹っ掛けてこなくなった。
それはそれで良かったのだが。昼休み、俺とトムさんの秘密の場所であった屋上に湊さんが現れるようになった。

「よ!」

「…どうも」

「おいおいなんだよつれねーなぁ!男前な顔が台無しだぜ!」

(…うぜぇ…)

今日はたまたまトムさんが風邪で休みだった。いつも一人で煩いのに今日はストッパー役のトムさんが居ないからか更に煩さが増す。
せっかくの昼休みが台無しだ。この人は一見飄々しているけど、本当は違うとトムさんが言ってた。
よく授業をサボったりもするが勉強はちゃんと出来るし、喧嘩をすれば辺り一帯が無になるとも言ってた。
そんなふうには見えないのに。この男は一体なんなんだろう。

「そういや静雄くんさ」

「…?」

「彼女とかいねぇの?」

思わず飲んでいたイチゴオレを吐き出してしまった。と、突然何を言い出すんだこの人!?

「いやだってさ。静雄くん男前だしイケメンだし。モテるっしょ?」

「…お、れは…」

思わず言葉に詰まってしまった。俺はこんな力を持ってるから誰にも近寄られない。
だから、いつも独りだ。黙っていたら湊さんが変に思うかもしれない。
何か。何か言わないと。けど、何を言ったらいいんだろう。

「…俺は。俺は、お前が好きだよ。一人の人間として」

それは、愛の言葉のようにも聞こえた。けれど、きっとそうじゃない。
湊さんは俺の事、そうは思ってない。だってそうじゃないと、この胸の高鳴りをどう説明したらいいんだ。
だって、俺は男だぞ。その男の俺が湊さん相手になにをこんなにドキドキしてんだよ…!

「でさ」

「…?」

「ものは相談なんだけど」

「…なんスか」

「今日俺ン家来ねぇ?」

いやー実は今日家に誰も居なくて暇でさー!暇で暇で仕方なくてよぉー!田中っちもいないし、つまんねぇじゃん!
さっきまでの雰囲気はどこへやら。もしかしたら俺に気を使ってくれたの…かもしれないな。
一気に話しが飛び過ぎているのは置いといて。

「…まぁ、いいっすけど」

「マジ!?わーい!ありがと静雄くん!」

少しだけなら、いい…よな。湊さんは悪い人じゃないし。
トムさんは気を付けろって言ってたけど。俺にこんなにも親しく接してくれたのはトムさんと湊さんだけだし。
そう安心しきっていたのが間違いだったのかもしれない。


****


「ぅ、あッ!や、んンー…ッ!湊、さ…ッ」

「しず、お…くん、ッ…」

どうしてこんな事になっているんだろう。
俺の上には息を荒くさせた湊さん。
頭が、可笑しくなりそうだ。


事の始まりは数時間前に遡る。
学校が終わって湊さんの家に遊びに行った。初めは普段と変わらずに話しをしたり。
お菓子を食べたり。時々ゲームもした。誰かと遊ぶ事がこんなにも愉しいなんて知らなかった。
湊さんが隣にいるって事も含めてドキドキと胸が高鳴ったけど、それはなんとか必死に誤魔化してた。けど。

「静雄くん、見てみ」

「…?」

湊さんが俺に見せてきたのは、所謂エロビデオ。
なんで持ってるんだよ湊さん。どうやら一緒に見ようという事らしい。
やっぱ男同士こういうのは見るべきだろー!なんて湊さんは笑ってるけど俺の心境はそれどころではない。
妙な胸の高鳴りで俺の心臓はバクバクと激しく脈打っていた。
テレビの向こうから女の厭らしい声が聞こえる。俺は初めてみるその光景に思わず喰い言っていたが。
ふと我に帰る。どうしよう。下半身が気持ち悪い。興奮、してるんだ。
どうしよう。隣には湊さんもいるのに。羞恥と興奮で頭が真っ白になる。そんな時。

「知ってっか静雄くん」

「な、何を…ですか?」

「セックスって男同士でもできんだぜ?すげぇよな。女とヤるよりも気持ち良いって話しだけどよ…マジかなぁ」

あ、そういうつもりでお前を誘ったわけじゃないからな!そこんとこ理解しとけよ!
と湊さんは慌てて自身の言葉を取り消す。けど。けど。
俺の胸にはその言葉が引っ掛かって。…それは、俺にでもできるのだろうか。

「…湊、さん」

「ん?」

「お、俺!出来ます!」

「…おいおい唐突だな。なにを出来るんだ?」

「だ、だから…お、男同士の…!俺と、湊さん、で…ッ」

「…それ、マジ?」

俺は必死に頭を縦に振った。俺が湊さんにしてあげられる事はこれぐらいしかない、はず。
こんな俺と仲良くして貰って…。何か、何か返さないと。そう思った。
湊さんは少し迷ってから、期待の眼を膨らませ、俺の服に手を掛けた。


****


「う、ぁぁあ…ひぃ、んッ」

「…辛い、か?やめる?」

「ん、…だ、いじょうぶ、です…ッ、だから、続けてくださ…!」

俺の孔に湊さんのモノが入ってくる。初めて感じる違和感。気持ち悪さ。
排泄しか用が無い場所に大きな物体が入ってくるんだ。苦しくないはずが、ない。
ぐりゅぐりゅと湊さん自身が入ってきて、その途中カリッと俺の中にある部分を掠った途端。
俺の身体は電流が走ったみたいに痺れた。脳天が、痺れた。なんだ、今の。

「ぅ、んン!ふ、ぁああー…!あ、んぁ!」

変だ。目の前が涙で霞む。痛いとか、苦しいとか。そういう事なんか思ってないのに。
湊さんが俺の頭を撫でる。俺の金髪がカッコイイって言ってくれたのは湊さんが初めてだ。
トムさんからの進めでやったものだけど。初めてこんなにも嬉しいと感じたのはあの時が初めてだった。

「静雄くん…君、すっごい可愛いよ。泣き顔も男前だね。羨ましいよ」

「はぁあんッ!あ、あ、…湊さ、…湊、さんッ…!」

嬉しい。嬉しい嬉しい。なんでこんなに頬が熱いんだろう。
嬉しくて嬉しくて涙が出る。意味分かんねぇけど。やっぱ、嬉しい。

「ひぁ!ゃ、だ、…ダメ、ダメですッ、…湊さ…俺、もう、イッ…!」

「いいよ、イって」

「ッ!…あン!あ、ぅ、…んんぁーーッ!」

湊さんにしがみ付いて俺は呆気なく達した。この気持ちはなんなんだろう。コレは俺にはきっと程遠い存在だったんだろうけど。
今、ソレは俺のすぐそばまで来ている。さあもっと傍まで、来い!

「湊さ、湊さん…!好き、好きです、ッ…!」

「…ありがとう。俺も静雄くんが好きだよ。この世の誰よりも」

俺は男だけど、静雄くんの事大好きだからね。
優しい優しいその声は、俺を犯す甘い甘い媚薬のように思えた。




それはきっと、愛というモノだろう。


―――――
あひー。完成しました!遅くなってすみません涼夜様!
長ったらしくてすみません…!無駄に長くなったよなんでかなぁー!←
リクエストありがとうございました!
『Aコース』様よりお題をお借りしました。



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