「楓さん」
ほら、今日も現れた。神出鬼没のあの男。
新宿で情報屋とか言うのをやってる、正体がつかめない男。私が嫌いな男。
ああ、憂鬱だわ。
「何しに来たの?」
「何って…此処は喫茶店なんだから、お茶を飲みに?」
「お茶を出したって貴方は飲まないじゃない」
「代金はちゃんと払ってるけど」
「飲まないんだったら、それはお茶の無駄だわ。帰って」
そう言ってもこの男、折原臨也は帰ってくれない。
はぁ。本当に憂鬱。今日もどうせこの男しか来ない。
勝手に喋って、そして勝手に帰って行く。今日もどうせそんな日常。
変わらない。何も。何も…。
「楓さん、やっぱり俺と一緒に暮らそうよ」
「嫌」
「こんなチンケな喫茶店じゃなくて、もっと大きな、セキュリティ万全の家で、」
「私は此処が好きなの。勝手に話を進めないで」
「こんな誰も来ない店、やってたって意味ないんじゃないの?」
「この場所でやるから意味があるのよ」
私がそう言うと、臨也は少し不機嫌な顔をした。此処は私にとって想い出の場所。
私はこの場所から離れられない。決して、死ぬまで。
「俺は楓さんの事、愛してるよ」
「私、浮気する人嫌いなの」
「浮気なんてしないよ。俺は楓さん一筋」
「嘘。貴方は人間皆を愛しているじゃない。私は、私一人だけを愛してくれる人がいいの」
この男は私一人だけを愛すことなんて、絶対に出来ない。私は私一人を愛してくれる人がいい。
私を裏切らない。私に、私だけに愛をくれる人がいいの。
貴方じゃ役不足だわ、臨也。
「…そんなにこの場所が好きなら、俺此処壊しちゃうかもしれないよ?」
「そんな事をしたら、私は貴方を嫌いになるでしょうね」
「それでもいいけどね。好きになって貰えないなら、いっそ恨まれるっていうのも中々の快楽だよ」
「貴方、変わってるわね。よく人からウザイって言われない?」
「俺は全くそんなつもりはないんだけどなぁ」
どうしたら良いのかしら。毎日毎日。春夏秋冬。朝昼晩。
私の前に現れて。こうやって私の事を好きだ、愛してるだの言って。
こんな根暗な女の何処が良いのかしら。趣味悪いんじゃない?
しかもどうやらこの男は一日中私の店に居座るつもりらしい。
迷惑な客だけれど、どうせ今日もこの男しか客は来ないだろう。
まったく、仕方ないわね…。
折れるのはいつも私の方が先
(…お茶、出すからそれ飲んだら帰りなさい)
(俺コーヒーがいいな。勿論ブラック)
(じゃあ砂糖をたっぷり入れてあげるわ)
(あはは、相変わらず楓さんは意地悪だなぁ)
―――――
初、Drrr!!で夢。多分女の子率の方が高くなるかもしれない…。