「臨也君、臨也君」
「…なに」
「暇」
臨也は大きく溜息を吐いた。どうしてこうなったのだろう。
何十年ぶりに帰って来た兄はニートになって帰って来た。
初めは帰って来てくれた事が嬉しくてニートなんでどうでもいいなんて思っていたけれど。
これほどまでにうっとおしいとは思わなかった。
毎日毎日、ゴロゴロとして、テレビでお笑い番組やらバラエティを見て笑って。
弟としていい加減仕事をして欲しいと思うようになってきた。
「…あのさ、暇なら仕事すればいいじゃん」
「えー、やーだー」
「追い出すよ」
「えええー、臨也君の意地悪!俺拗ねちゃうよ!波江さんに抱きついちゃうよ!」
「最後の関係ないよね。波江に抱きつく理由無いよね」
「…私を巻き込まないでくれるかしら」
臨也はまた溜息を吐いた。どう足掻いても兄は仕事をする気はないようだ。
このまま無理にさせたらさせたで長続きはしなさそうである。
「じゃあゆっくりで良いから仕事探して」
「臨也君の仕事手伝ったら給料くれる?」
「…どうしてそんな話しになるの?」
「あ、時給はいくら?俺頑張るよ!臨也君の為ならなんでもするから!」
「話しを聞いてよ。湊には俺の仕事手伝わせないからね。何するか分かったもんじゃない…」
「そんな…!臨也君少し合わない間に冷たくなっちゃったね…!お兄ちゃん悲しいよ!」
泣き真似までし始める兄を一体どうしたらいいのか。
幼い頃の自慢の兄は何処へ言ってしまったのだろう。できるなら戻って来て欲しいが今更無理だろう。
「臨也君が冷たいから、俺波江さんのお手伝いする」
「は?」
「それは助かるわ。貴方の弟は人の使い方が荒くて」
「何だって…!?じゃあ俺が精一杯お手伝いします!」
正直、焦った。今まで自分に向いていた意識が他人に向く。
それがこんなにも嫌だなんて思った事は無い。嫌だ。こっちを向いてよ。
「湊…!」
「ん?」
「…す、少しだけなら手伝っても、いい、から…」
「……本当?」
「…二度も言わないよ」
「これだから臨也君の事大好きだよ!ありがとう!」
今度は抱きつかれた。何年ぶりだろう。こんなに兄を近くで感じた事は無かった。
安心する匂い。懐かしい。少し変わった処もあるけれど、そこは眼を瞑ってやろう。
「臨也君、俺頑張るよ!臨也君に迷惑かけないように努力する!」
「その言葉が無駄じゃない事をちゃんと証明してよ。じゃないと本当に追い出すから」
「…う、うん…。もし追い出されたら俺、静雄君の家にお泊りするよ」
「それだけは絶対駄目!!」
天敵の名を出されたものだから思わず声を張り上げてしまった。
何で。何でよりによって彼の家なのか。臨也はドクドクと唸る鼓動を抑えきれない。
湊は静雄とも中が良い。それはまるで恋人同士じゃないかというぐらい仲が良い。
本人達はそうは思っていないが、傍から見ればそう見えてしまうほどだ。
臨也は昔から湊と静雄が仲が良い事が気に喰わなかった。
自分の天敵である静雄と、実の兄である湊が自分達以上に仲が良い事が許せない。
だって、湊は自分の物なのに。なんだか取られた気がしてならない。
「…何でシズちゃんの家なのさ」
「静雄君が泊ってもいいって言うから」
「…そんなのいつ言ったの?」
「この家に来る前。駅前で偶々会ってさー。いやー、変わってないもんだね、意外と」
臨也君は冷たくなっちゃたけどー。
なんてブツブツと呟く湊を尻目に臨也は別の事を思っていた。
(何で俺が会う前に湊と会ってるんだよシズちゃん…。これだから君の事は嫌いだよ。湊は俺のなんだから、良い気になるなよ)
絶対に渡さない。これが嫉妬なんだと臨也が気付くのはもう少し先のお話。
「シズちゃん家は絶対駄目。泊るんだったら精々新羅の家にしなよ」
「だって、あそこは新婚ラヴラヴ生活を送ってるんじゃないのかい?」
「新婚って…まだ結婚なんてしてないよ。同棲してるだけ」
ていうか結婚とかありえない。
そういうと湊はなんだか納得したような顔で頷いていた。
これで一先ず安心だろう。静雄の家に行くのだけは何としても阻止しなければ。
臨也は心に決めた。
ちなみに湊はセルティとも面識がある顔の広い男なのだ。
見えない嫉妬心
(湊、初仕事。コーヒー入れて来て)
(臨也君、俺コーヒーの入れ方分かんない)
(…じゃあお茶でいいから)
(お茶も分かんない)
(…………(どうしようもない兄だな本当に…))
――――――
続いちゃったよ!愉しいな、これ…。
もっと書きたい。