「ここが…星月学園……」





星月学園の昇降口前、1人の女の子が立っていた――――






そんな女の子に1人の男の子が話しかけてた。



「おぉ!やっと来たか、待ってたぞ」

「……一樹」



男の子の名前は不知火一樹。

星月学園3年の生徒会長だ。

そんな不知火を、女の子――紗夜は冷たい目線で見つめる。




「…何だよその目…」

「それで、私はどこのクラスなの?」

「あぁ、翼たちと同じ宇宙科だ」




不知火の言葉に紗夜は「ふ〜ん…」と呟いた。




「宇宙科、ね。…そもそも星自体に興味ないんだけど」

「まぁそう言うなって。…あ、先生たちが紗夜のこと待ってるぞ」



不知火がそう言っても紗夜はどうでもいいような表情をしていた。

そして、何か思い出したかのように不知火に話しかけた。



「…約束、覚えてる?」

「あぁ。『俺たちは他人の設定』だろ?」



紗夜の表情が少し和らぐ。




「絶対に話しかけてこないでよね」

「何だ、いまさら反抗期か?」

「…黙れシスコン」




そう言って紗夜は校舎へと向かっていった。







「…ったく、相変わらずな性格だな」



不知火は思わず苦笑する。




(紗夜は俺のこと拒んでるけど、話はしてくれる。目は合わせねーけどな…)

(初対面の奴との態度に比べれば、まだマシ方なんだよな…)



そんな彼の呟きは風に流され…消えていった。







*





「えー…転校生の不知火紗夜だ。女だが、仲良くしてやれよ」

「………よろしく」



紗夜の紹介がされた。

冷たい態度をとる紗夜を見て、クラスの男の子たちはひそひそと会話をする。



「…何か、女っぽくねーな」

「確かに。マドンナの方が断然…」

「何つーか…『女番長』だな」

「「確かに」」




紗夜の表情が不機嫌になる。

男の子たちの会話が聞こえたからだ。

そんな思いを打ち消して、紗夜は黙って席に着いた。





紗夜は静かに窓の外の空を見る。

雲1つない、鮮やかな青…



空を見つめる紗夜の表情は―――――どこか切なく感じた。
















時は過ぎ、放課後になった。

宇宙科の教室の前に1人の男の子が立っている。

不知火一樹だ。

不知火は深呼吸して、教室のドアを思いっきり開けた。



「紗夜!どうだ、新しい学校生活は?」



3年の不知火の登場に、クラスの男の子たちは騒がしくなる。

同じ生徒会の役員である天羽に用があるのかと思いきや、

転校してきた紗夜の名前を呼んだからだ。



そして、騒がしくなる理由がもう1つ。

不知火の声が聞こえるとともに、不知火の顔に筆箱が直撃したからだ。




「黙れカス」



紗夜の一言で、クラスはさらに混乱し始める。



「見たか?先輩に筆箱投げつけたぞ…」

「アイツ、常識って言葉知ってんのか…?」




(だから聞こえてるってば!!)



怒った紗夜は自分の机を思いっきり叩き、教室から出て行った。




「…アレは相当怒ってるな……」



不知火はそう呟いた。

彼の呟きを気にするほど、このクラスに余裕はないようだ。















…こんなんじゃない。

私の生活はこんなんじゃない。


もっと1人で…ずっと1人でいるんだ。

誰も何も言わない。

話しかけてくるなんてありえない。

ただ…私を「裏切り者」という目で見てるだけ。




なのにこの学校はなぜ…?

なぜ、私に構ってくるの…。

1人にさせてよ、1人が好きなの。

1人が好き。

独りは嫌い。




私は…私はっ…!



私はこんな感じになりたかったわけじゃない――――――!!!


















そう思いながら、ただ只管に廊下を走る。

もう放課後だ…。いつもだったら、誰も居ない教室で、1人っきりで……


そう考えながら、廊下の曲がり角を曲がったときだった。




ドン!

誰かにぶつかった。




「いって〜〜!」

「哉太、大丈夫?」

「ちゃんと前見てないからだ」

「哉太だからしょうがないよ」

「何だと!?……てか俺、ぶつかったよな。誰だったんだ?」

「そう言えば…。どこに行ったんだろう……?」







ただ、走った。

その場から逃げたかった。

消えたかった。



止められなかった。

止まらなかった。




見られたくなかった。

私のことも、存在も。










――――――――――泣き顔も