ここ、氷帝学園はお金持ちが通う学園である。
そんな氷帝の指導権を握っているのはもちろん理事長であるが、
生徒の中ではあの跡部財閥のお坊ちゃまであるのだ。
…と言っても跡部財閥など主人公には全く持って関係ないことなのだ。
なぜなら、主人公は途中で特別に転校してきたからだ。

これは、そんな庶民の主人公の物語である―――――



たった1人の、屋上
誰も居ない
まるで私の心の中のように
誰も入り込もうとしない。
…まぁこの学校の設備は最高だからね。
何も無い屋上に来る人なんかイチャイチャだけの目的で来るカップルくらいだ。
少女は今日もみんなの「記憶」から消えて、
たった1人の屋上で呟くのだった。

「……今日も世界は輝いている」

それに比べて、私は…
そんな少女の消えそうな声は風によってかき消されるのだった。
少女は目の前にキャンバスを置いた。
キャンバスが置いてあったところには完成したと思われる絵が置いてあった。
…どれもプロ並みの物だ。
いや、それ以上かもしれない。

少女は色鮮やかな絵の具をパレットに作る。
そして屋上から見える風景を描き始めた。
何度も何度も色を重ね、自分が思うその背景にあった色を作る。
薄く塗ったり、濃く塗ったり…

いつの間にか少女の頬には、雫が伝わっていた。



少女が絵を描き始めてからどれくらいが経っただろうか
頬を伝っていた涙は地面とスカートを濡らした。
筆を静かに置き、少女は自分が描いた絵と本物の風景を見比べた。
その絵は余りにも本物そっくりに描かれて、とても良い作品なのに
少女はどこか、悲しい表情をしていた。

「…もっと、もっと世界は輝いているの」
絵では表せれないくらい…に

まだ明るかった景色が、いつの間にか夕焼け色に染まっていた。
パコーン…パコーン…とボールを打つ音が聞こえる。
その音が聞こえるたびに、歓声が響いた。

ここは氷帝学園
お金持ちの人たちが通う学校だ。
そして氷帝が誇る男子テニス部は「ホスト部」とも呼ばれている。
それほど人気があるのだ。
少女はそんなテニス部が集まるテニスコートの方を見て、静かに涙を流した。

「世界はこんなに、輝いているのに…」
ああ、何で人の「心」は真っ黒に染まっているのだろうか。

少女の呟きは誰にも聞こえるはずが無く、
描いた絵だけが、少女が確かにココに居るんだ…と、証明させていた。



「あ、見ーつけたっ!」
すると、1人の女の子が少女に話しかけてきた。
女の子は嬉しそうに少女に近づく。

「ここに居たんだね!!いつも違うところに居るから、捜したんだよ?」
「あ…ごめん」
「べつに謝らなくても良いよっ^^…さっきまで絵、描いてたんだね」
「え…何で分かったの…?」

キャンバスもパレットも筆も…全部綺麗に片付けたのに

「顔に絵の具が付いてるから」
「!!」

少女は顔を真っ赤にして驚き、隠すために下を向いた。
そんな少女を見て、女の子はハンカチを差し出した。

「これで拭いて」
「…ありがとう」

少女は懸命に絵の具が付いたところを拭いた。
でもやっぱりどこに付いているのかは分からなくて…

「ココだよ、ここ」

女の子は自分の頬に指を指した。

「ここ?」
「あ、違う。逆」

女の子が拭いてあげれば楽なのに…そうすることはできない。
女の子は少女と仲がいいのだが、体に触れたことは1度も無い。
少女が反射的に避けてしまうからだ。
何があったのかは分からない。
ただ…少女が話したくないのなら、ムリに聞きだす権利は自分にはない。
距離感…というのも、大切なのだ。

「キャーーー!vV」

微かだけど聞こえる、女の子達の声。
悲鳴ではない、歓声だ。
…そう、氷帝テニス部(ホスト部w)のファン達が上げた声だ。

「テニス部は相変わらず人気だね…」

女の子がぽつりと呟く。
少女は歓声が聞こえたテニスコートを見つめた。

「もしかして…興味、ある?」

恐る恐る聞いてみる。
少女は答えた。

「……人よりも輝いて見える」

今にも消えそうな声だけど、確かにそう言った。
女の子は思わず笑みを零した。
そして少女のすぐ近くに真っ白のキャンバスを置く。
パレットや筆…絵の具も用意した。
少女は静かに椅子に座り、再び絵を描き始めた。



たいぶ時間が経つと、少女は筆を置いた。

「完成した?」
「うん」

少女は嬉しそうな表情をしていて、
どこか……悲しそうだった。

「テニス部の人、すごく…輝いているよ」
「そうだね」
「…分かる?」
「うん、最近分かるようになってきた。…ところでさ」

「何…?」

女の子の表情が一瞬固くなって、すぐに和らいだ。
その理由が分からず、少女は少し戸惑った。

「もっとさ、テニス部を見たい…って思った?」
「えっ…」

少しの沈黙が続く。
一緒に時を過ごしてきた女の子が…まさかのミーハーだったとは思ってなかったからだ。

「え!?ちょっと、私…ミーハーって勘違いされてる!?」
「え…違うの?」
「違うよ!私が言いたかったのは、『テニス部の絵をもっと近くで描きたいと思った?』ってこと」

言葉が足りなかったみたいだ。

「テニス部の…絵を…?」
「うん。きっといい経験になると思うんだけど…どう、かな?」

「…描いて、みたいな……」



屋根の無い屋上に風が吹いて、少女の髪がなびいた。
その姿は、不覚にも「美しい」と感じてしまう…


「世界は、どんなに周りから愛される人よりも…輝いているから…」








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