第2Q「兄妹ですけど」



なんだかんだで入学式から数日。
クラス発表し、クラス組織もつくり、だんだんグループが出来始めてきた時期だ。

それでも美羅は、1人でいた。
人から話しかけられることはある。でもその会話は長く続かなかった。
気づけば話しかけてくれた人は違う場所にいて、気づけば自分はまた1人になって。
気づけば違う人が話しかけてくれて、気づけば自分はまた1人になっていた。

そんなことを繰り返し、だんだん声をかけてくれる人も少なくなり、
美羅は静かに窓の外を見つめた。

「ね、高尾さん、」

窓を見ていた視線を声の主へと移動させる。
そこに立っていたのは、オレンジ色の髪をした女の子。

「初めまして、だね」
「はい」
「私、橙山なず。よろしくね^^」
「高尾美羅です。よろしくお願いします」

なずの笑顔に美羅は魅力された。
素敵な笑顔だな…。

どうやら2人は意気投合したようだ。
今までとは大違いに会話が弾んでいく。

「私、帝光中出身なんだ!」
「あの帝光中ですか!?」
「うん。って言っても帰宅部だけどねw」
「帝光中と言ったら、バスケの超強豪校ですよね」
「そーそー、全中優勝のときとかめっちゃ取材来てさ、関係ない私までインタビューされたよ」
「本当にすごいですね…!」
「美羅はどこ中出身なの?」
「陽南中です。ご存知ですか?」
「知ってるよ!そこもバスケの超強豪校じゃん!」

時間が経つのも忘れて、楽しそうに会話する2人。
そして2人の話題は部活動へと変わっていく。

「そういえば、なずちゃんはどの部活に入るんですか?」
「んー…まだ決まってないんだよねー…。美羅は決まってる?」
「はい。その推薦で、秀徳ここに来ましたから」
「え、推薦!?美羅すごーい!」

なずの驚きの声が響く。
それと同時にチャイムが鳴った。

「部活の時間なので、行ってきますね」
「うん。美羅頑張ってね!」
「はいっ」



そう言って美羅は教室から出て行った。









1年生にとってはまだ仮入部期間。しかし、推薦で来た美羅は関係ないようだ。

美羅は体育館に入るなり、挨拶してさっそく部室に向かう。
その途中、男バスのコートを通る。
美羅の瞳に入ったのは…。

(大きい…!)

同級生だと言うのに、全国に名前が広がっている男の子。
バスケ界で知らない人はいないだろう。

(キセキの世代、No.1シューター…緑間真太郎、さん…)

中学生の頃、何回も聞いて…見てきた人だと言うのに。
ほんの半年会ってないだけで、彼は別人になっていた。
中学生の頃とは全く違うオーラを感じた。

次に、そんな彼の隣でケラケラと笑っている男の子が瞳に入った。
その男の子もまた、自分の知っている男の子と少し違う気がした。
全く同じ人だと言うのに…オーラが違うと言うか、雰囲気が違うと言うか。

そんな考え事をしていると、緑間の隣にいる男の子が手を振ってきた。
……本人も気づかないほどに見つめていたのだろう。
そう思うと途端に恥ずかしくなってきた。
それでも男の子は手を振り続けるので、美羅も笑顔で手を振る。
男の子の表情はより一層明るくなった。

その笑顔を見たら何だか嬉しくなってきて。
美羅も少しウキウキしながら部室へと向かった。



「失礼します」

そう言って部室のドアを開けると、先客がいた。
先輩かも…と思ったが、女子バスケ部の監督のようだった。

「ああ、高尾か」

気の強い言い方で美羅に話しかける女監督。
「こんにちは」
「…どうだ?元陽南中女バス部長から見た、うちの女バスは」

いきなりそう言われて、美羅は少し驚く。
そしてほんの数秒で真剣な顔つきになった。

「…良いと思います。でもどこか…お互いを信頼してないような気がします」

はっきりと美羅がそう言うと、女監督は嬉しそうに笑みを作った。

「…さすがだな。入学式の日の挨拶と今日、ほんの少ししか見ていないのに…そこまで見抜くとは…」

女監督はまだ嬉しそうに微笑んでいる。
そして何か決めたように美羅を見た。


「高尾美羅、今日からお前は秀徳高校女子バスケットボール部の主将だ!」











時は戻り、男バスは…



男バスの方も仮入部期間だが、スポーツ推薦で入った緑間には関係の無いこと。
先輩たちに混ざって黙々とシュート練をしている。
ちなみに、今日は顧問が出張のためシュート練中心のメニューだ。

そんな緑間に引っ付いているは、高尾和成という男。
どうやら緑間と同じクラスらしい。

「やっぱ強豪校は違うねー、真ちゃん」
「その呼び方をやめろと言っているだろう」
「つーかさ、秀徳ここって女バスも強いんしょ??」
「……シカトか。」

緑間の言葉などお構いなく話し続ける高尾。
そんな2人の傍にやってくるは先輩たち。

「お前等真面目にやれよ、マジ轢くぞ」
「……宮地、いきなりそれはないだろ」
「すまんな。こいつはそんな奴なんだ」

話しかけてきたのは、秀徳高校男子バスケ部主将である大坪泰介、
そして見事レギュラー入りを果たした3年の宮地清志と木村信介だ。

「ちぃーすっ」
「…………どうも」

軽く挨拶する2人。
その態度に宮地はまた怒りを露にする。
そして言葉を発しようと息を吸ったとき、


「…高尾、何をしているのだよ」
「え?何って、手ぇ振ってんだよ」

高尾がそう言い、4人の目線は高尾が手を振っている相手へと向かう。
そこには1人の女の子が立っていた。

どうやらその子は入学式のとき、新入生代表挨拶をした子のようだ。
黙って5人を見つめている。
そして、5人が見ているのに気がついたのか、可愛らしい笑顔で手を振ってきた。

「お前の知り合いか?」
「まあ、そんなもんっスかね」

高尾が嬉しそうに微笑むと、女の子はさらに笑顔になって女バスの部室へと去っていった。
それが合図になったのか、先輩たちはシュート練へと戻っていく。

「確かアイツは、4組の…」
「あ、真ちゃんも知ってるカンジ?」
「当たり前だろう。それに、中学の時に何度か見かけたのだよ」
「ふーん…でも、真ちゃんだろうと絶対渡さねぇから」

高尾の一言に、思わず緑間は目を見開く。


「……高尾、お前、アイツのこと…」
「あぁ、好きだぜ」






兄妹ですけど、ね。

それでもまだこのことは――――――秘密のままで。














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