黒子のバスケ
「キミは誰?」





「私」の中にはたくさんの人が住んでいる。
話し相手によってコロコロと変わり現れるその「人」は、
「私」にとってはとても都合の良いものだった。

でも、話し相手にとっては反応がそれぞれで、
「1人目」しか知らない人は大人しい子だと
「2人目」しか知らない人は明るい子だと
「3人目」しか知らない人はツンデレな子だと
「4人目」しか知らない人は色っぽい子だと
「5人目」しか知らない人はボーっとしてる子だと
「6人目」しか知らない人は男勝りな子だと
「7人目」しか知らない人は噂好きな子だと
「8人目」しか知らない人はぶりっ子だと
「9人目」しか知らない人は泣き虫な子だと思っている。

もちろん、2人以上知っている子からは
性格が悪いだの良い子ぶってるだの言われるが、嫌われているわけではない。
自分の前では「私」でいてくれることに喜びを感じているのだろう。



でも残念。
「1人目の子」が住み始めてから、「私」は殆ど出ていない。
今じゃもう、何人住んでいるのか「私」ですら分からないくらいだ。

そんな「私」は今日も、
「私」のようで「私」ではないような「私」として生活している。









「まだそんなことやってるんか」

声をかけてきたのは、幼馴染の翔一。
………てか此処、「私」の部屋なんだけど。

「何で入ってきてるの?」
「まあ、えーやんか。そんなことより、俺の話無視せんといて」
「…………どういう意味?」
「お前はまだ他の奴等に喋ってもらってるんか」
「翔一には関係ないでしょ?……というか、『お前』って…」

いつから翔一は「私」のことをお前と呼ぶようになったのだろうか。
幼馴染なのに名前どころか苗字も呼ばないって……。

「何でお前なの?昔は美羅って呼んでたじゃん」
「せやな。昔はな。でも今はちゃう」
「昔も今も変わってないよ」
「なわけないやろ」

はっきりと否定される。
いつも気持ち悪いくらいにヘラヘラと笑っている翔一が、今は珍しく怒っている。







「何で美羅じゃない奴に、美羅って呼ばなアカンねん」






翔一の言葉に耳を疑った。
「私」じゃない?「私」が?
確かに、今こうして翔一と話している「私」も、
本当の「私」かと聞かれたら、断言はできない。

かと言って「私」でないと否定される筋合いもない。

「……………何でそう思ったの?」
「ずっとお前を見てきたんや。分からんわけないやろ」

真剣な目つきは変わらない。
何を考えているのか、分からない瞳。




「俺の前で美羅でいなかったら、いつ美羅になるんや?





 本当の美羅は何処にいるんや…?」







本当の「私」?
………此処にいるじゃないか。
それも「私」でないと言うの?
他に「私」がいるとでも言うの?











彼は知っていた。「私」の中にたくさんの人が住んでいる理由を。
恐かったんだ。怖かったんだ。
人から嫌われることが。
それを恐れて、話し相手から好かれる「人」を作り上げた。
でも、人間は十人十色だから、好かれる「人」の種類も違くて。

そんなことを繰り返していたら、
気がつけば「私」の中の「人」は、
自分でもどれくらいいるのか分からなくなってしまう数になっていた。

そして作りすぎた「人」のせいで、
「私」が表に出ることができなくなってしまったことも。

「私」自身を見失ってしまったことも。






「一緒に見つけようや。俺がついとるから」



差し出された手は、眩しくて、優しくて、温かくて。
自分でも知らないままに涙が流れていた。


一瞬だけ、私を見つけたような……気がした。















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