「捕らわれたのは」
私の双子の兄はバスケ界で「悪童」と言われている。
初めて試合を見に行ったときに、衝撃すぎて私でさえ言葉を失ったくらいのプレイスタイルだ。
その1回以来怖くて見に行くことはできなかった。
そんなバスケの「彼」とは裏腹に、学校生活では優等生として日々を過ごしている。
彼の演技力…と言うべきなのだろうか、それにはとても驚かされた。
彼に一番近いと思われる私でさえも見抜けなかったから。
そして、そんな優等生の彼は成績優秀で部活の部長でもあるために、
異性からは熱狂的な好意を受け、同性からも熱い支持を得ている。
そんな完璧な彼の双子の妹である私は、あまりにも未熟すぎて。
同性・異性からの非難の声ばかりだった。
それでも構わないと、不覚にも思ってしまった。
あの人から愛されているから。
あの人が私を愛してくれるから。
「ちょっとアンタ、聞いてんの!?」
女の人の声が聞こえて、現実に引き戻される。
この人は彼と同じクラスの女の子。
2週間くらい前に彼に告白して、振られていた気がする。
「何ですか?」
「何ですかじゃねーよ!今日の昼休み、体育館裏来いっつっただろ!?」
……ああ、そう言えばそんなこと言われた気がする。
別に忘れる気はなかったのだが、いつの間に昼休み終わっていたのか。
「すみません。用があって…」
「言い訳なんていらねーんだよ!」
「そーよ、妹だからっていい気になってんじゃねーよ!」
気がつけば他に3人の女の子に囲まれていて。
廊下だったから、周りにいた生徒はなんだなんだと集まってくる。
いろいろ耳元で言われているけど、全く入ってこなかった。
少し時間が経ったら、周りがざわつき始めて。
「何してんの?」
聞きなれた声が聞こえた。ああ、彼がやって来た。
「は、花宮君…!」
「で、何してんの?」
「ごっ…ごめんなさいっ!」
そう言って女の子たちは走って逃げてしまった。
彼はそんなこと少しも気にならないのか、平然とした表情でこっちに来る。
そして私の目の前に立てば、大きな掌で優しく頭を撫でてくれた。
部員の人たちが見たら驚くだろうな…(笑)
「ねえ…真」
「ん、」
「私なんかで良いのかな…って思っちゃうんだけどさ…」
少しだけ彼が分からない。
この世界には何十億との女性がいるというのに、
こんなに平凡で…ましてや普通なら許されない、私を選ぶだなんて。
私がそう言うと、彼は鼻で嘲笑った。
「別に。俺は美羅が良いんだよ」
堂々と言う彼を見ていたら、私の悩みなんてどうでもよくなってきた。
彼は私を愛してくれる。
最初はただ仕方なく受け入れていたけど、
……最近、気づいたんだ。
この、禁断の愛の鎖に捕らわれたのは…
彼かもしれない、と。
私の方かもしれない。