「どうか、その手で」
冬になって寒くなり始めた屋上で、少女は静かに手を擦り合わせる。
まだ高校生だというのに、口には煙草が挟まれており、足元には空っぽになった缶ビールが転がっていた。
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「美羅、ここにいたのか」
「赤司…どーしたん?」
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少女が息を吐くと、灰色の煙が空へと放たれる。
それを見て、赤司は呆れた表情をした。
「煙草と酒、やめろと言ったはずだが」
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オッドアイの瞳が美羅を捕らえる。
美羅は何一つ表情を変えないで言った。
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「別にいいじゃん。…それで、何か用あるの?」
「…………授業に出ろ」
「ヤだね」
「僕の言うことが聞けないのか?」
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そう言ってポケットからキラリと凶器を覗かせる。
赤司がいつも持ち歩いている赤色の鋏だ。
そんな彼の瞳は真剣で、本気で。
何か発言を間違えれば、いかにも刺されそうな勢いだった。
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「毎回言っているだろう?僕に逆らう奴は、親でも―――――」
「じゃあ、殺してよ」
みんなの上に立っている貴方には分からないでしょうね。
何のために私が酒を飲んだり、煙草を吸ったりしてると思うの?
親に捨てられ、みんなに嫌われて…。
この世界に、私が求めてるものなんてないんだよ。
私が死んだって、誰も悲しまない。
辛いんだよ。辛いんだよ。
どうしたらいいの?
苦しいよ。
こんな辛くて苦しい思いなんてしたくない。
助けて、助けて。
どうか、その手で…
君は優しいから、叶わないんだろうけど…ね。