黒子のバスケ
「彼になりたかった」





昼休みの教室。
芸能雑誌を広げてきゃあきゃあ言ってる女子と、走り回ったりまるで小学生のような男子。
2重の煩さにはもう慣れたと思うけど、
彼が来たときの煩さだけは…どうしても慣れなかった。

「あ、黄瀬君!」
「黄瀬君どこ行ってたの〜?探したんだよ?」
「黄瀬君、この雑誌にも載ってるよ!さがすだね^^」


雑誌見てたり会話してた女子が一斉に教室のドアへと向かう。
我がクラスのアイドル、黄瀬涼太が来たからだ。
…………さっきの何倍も煩いから、ホントにこれは慣れない。

クラスの女子に一斉に囲まれて、一気に話しかけられる。
黄瀬君は優しい微笑みをかえした。
その笑みを見て、クラスの女子のテンションはさらに上がる。


「黄瀬君ってホント、綺麗に笑うよねー」

隣を座っていた友達がそう言った。


「美羅もそう思わない?」
「…………全然。眼科行ったほうが良いよ」
「何それヒドイっ!」

眼科行ったほうが良い、は言い過ぎだったかもしれないけれど、
彼の微笑みが綺麗だと思ったことは1度もない。
確かに、彼はモデルをやってるし、顔も整っているから
他の人に比べたら輝いているのだろうけど、あれのどこが綺麗なのか全然分からない。










無理して笑ってるだけじゃないか。





職業的なことも踏まえて、彼はたくさんの人に囲まれる。
部活でもとても活躍しているし。
男子ならば、女子に囲まれるハーレムなんて最高…とか
考える人のほうが多いかもしれないけれど
少なくとも彼はその内の1人には入らない。

逆に、何でみんな…彼が無理して笑ってると気づかないのだろうか。
私の知っている「黄瀬涼太」は、人に囲まれるのが好きな人ではない。


「…………………ほら、泣きそうな顔してる」
「え?」

私はそう呟いて席を立ち、彼の元へと向かう。
そして、彼が私を見たタイミングで、囲んでいる女子にも聞こえるように言った。



「黄瀬君、赤司君が部室でミーティングやるって言ってたよ」
「……あ、分かったっス」


赤司君の名前を出せば、誰も何も言わない。
囲んでいた女子も静かに道を開けた。
彼が教室から出て行ったのを確認すると、自分の席に戻る。
席に座ったと同時に、携帯にメールが受信された。



《 毎回スイマセンっス。……今日もありがとう 》



絵文字もない、ただの文章。
でも、このメールを見ると安心する。
また今日も……彼を救うことができた、と。















1年生の頃から、彼とはずっと同じクラスだった。
入学したばかりの時から私は彼に対して違和感を持っていた。
その違和感の正体を知ったのは中1の夏。
たまたま見た雑誌に写っていた彼の微笑みが、学校の人たちに向ける笑みとまるっきり同じだったのだ。

彼は学校の笑みを雑誌の撮影の時もしているのではなく、撮影の時の笑みを、学校でもしている。



つまり―――――、作り笑い。





中2の時に、彼はバスケ部に途中入部した。
そして少し経ってから、1軍になって…スタメンになった。
彼が1軍になったときに、バスケ部の主将である赤司君に言われたのだ。








『黄瀬を助けてやってくれ』●●●●●







赤司君は、私が彼を見抜いたことを知っていたみたい。
部活の時は自分たちがどうにかするから、教室にいるときは頼むと言われた。

私は強くない。
だから、こうやって嘘をついて彼をその場から遠ざけることしかできない。

彼が好きだから、だから、彼が無理しているのを見たくなかった。
私が代わってあげられたら…そう何回も思った。

違和感の正体を知ったあの時から、ずっと――――――








痛みも、苦しみも、悲しみも、全て代わりに受け止めることができるのに。


















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