木漏れ日、眩しいです
「……っざけんなよ」
高宮輝、あと一ヶ月で齢18。
だのに、なんでこんなところにいるのか。
ちちち、とかわいらしい鶏のから揚げ……混ざった、鳥の鳴き声。鳥から唐揚げを即座に連想したあたり、俺は腹が減っているのかもしれない。
周りは木。あと雑草。現代日本にあるまじき豊かな自然のまっただなかに、俺はほうり出されていた。
「どこだよここーまじでー」
棒読みぎみにつぶやいてみたが、返事はない。というかあったらちょっと怖い。
雑草に背中を預けて仰向けに寝転がってみれば、木の葉の間から漏れる光と青空。
ぽかぽかとしていて、気持ちいい。
「あー……このまま寝そ……だ……」
ああなんて俺は馬鹿なのか。あろうことかどことも知れぬ森の中で、大の字にぶっ倒れて昼寝をはじめてしまった。あー……日光ってこんな気持ち良かったっけー……。
ぐっすりすやすや、あげくの果てにどでかい鼾までぶっこいていた俺は、誰かに揺さぶられて目を覚ました。あれ、なんか周り暗い。そして寒い。
「ちょっとちょっと、こんなとこで昼寝とか正気?」
「ばーっちり正気っすー……酒もクスリもやってませーん……」
寝起きの俺とは、正直な話誰も会話を成立させることはできないだろう。なんたって話がハチドリの如く右往左往するうえ、凄まじいマシンガントークを発揮するのだから。ついてこれる奴がいたら俺が勲章をやろう。折り紙製のな。
「あー酒のみてーあと二年?三年?待てっかゴルァ酒買ってこいや姉貴ー……漫画返せーゲーム返せー俺の携帯の待ち受けエロゲ仕様にしやがってあんにゃろーエロゲやりたいエロゲ、おかずじゃなくても泣きエロゲやりてえー姉貴持ってねえかなー『沙○の唄』とか『祝○のカン○ネラ』とかー……あれ、カン○ネラってエロゲだっけまあいいや冷蔵庫に入れてた俺のスポドリ飲まれてないよなー喉渇いたなーポ○リ飲みたいし隠してたミルクレープ食った方が……」
そこまでほぼノンブレスで呟いて、俺ははたと俺を起こしてくれた心優しいお兄さんに気づいた。うわーいイケメンだー。
橙色の派手な髪に、全体的に迷彩な色合いの服装。イケメンなのに、顔に泥がついてた。
「ちょっとおにーさん、顔に泥ついてるぞ」
「は?……これ泥じゃないからね」
「そーなの。顔に落書きとは、にーさん変わった趣味だなー。M?」
「……そのえむ、ってのが何かわからないけど、俺様危ない趣味は持ってないから」
おっと話が脱線した。俺の悪い癖だ。ぐっと上半身を起こして、凝り固まった身体をほぐす。イケメンにーさんの空気が固くなった気がするが無視無視。俺は無罪だ。なんもやってないよ俺。
「ふへぇ、よく寝たわー」
「……あんた、いつからここにいたわけ」
「んーと……」
寝転がった時に、木漏れ日が眩しかったのは覚えてる。俺は仰向けだったから、太陽は真上にあったはずだ。つまり。
「……ちょうど、真っ昼間?」
「馬鹿だろ……」
あっ、ひどい。ちょっと傷ついた俺。ガラスのハートにヒビはいったぞ今!
迷彩にーさんは、すごく怪しいものを見る目つきで俺を見ている。そりゃそーだ、森の中でいびきかいて熟睡してる奴なんてそうそういない。てか、
「にーさんにーさん聞いていい?ここどこ?」
「は?」
ぽかんと口を開けてにーさんは俺を見つめた。イケメンが台なしだぞ、Mのにーさん。
でも俺が今一番知りたいのはそれだ。現代日本にあるまじき、青々とした森林。もしかして屋久島だったりするのかここ。俺テレポーテーションしちゃった感じなのか。
しかし、仮にここが現代日本、屋久島だったとしよう。そうすっと、目の前のにーさんの、びみょーに時代錯誤な服装に説明がつかないわけで……。
「どこって……甲斐に決まってんじゃん。いい歳して迷子?」
「甲斐ぃ?」
甲斐県てあったかな。いやいやいやんなもん四十七都道府県探し回っても存在しない。俺の貧相な知識を掘り起こしてみると、甲斐って昔の山梨県の地名、だった、ような……。
「……嘘ォ」
Welcome to 戦国時代! 誰か夢だと言ってください!
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