05

 悪魔について聞いてみると、緑はおもむろに紙と筆と硯を取り出した。
 これまたどこから出てきたのか下敷きを敷き、筆に墨をたっぷりと含ませて紙の上を滑らせる。
 意外にも達筆で、漢数字の一から七を書いたところで緑は顔を上げた。

「……七匹、いる」
「うん」

 志紀は頷く。緑はまた顔を伏せ、一番下に書かれた七の隣に何かを書き付ける。

「……一番低級が、こいつ」

 七の隣に書かれた名前は「マモン」。さらに「狐の姿」と書き加えられた。
 リストの上にいくにつれて、悪魔の位も高くなっていくようだ。
 マモンに続き、ベルフェゴール、アスモデウス、レヴィヤタン、ベルゼブブとカタカナの名前が次々書き込まれていく。
 最後に来た名前は、悪魔に詳しくない志紀でも聞いたことがあった。

「……最後に、ルシファーと、サタン」

 一の横に「サタン」と書いて、緑は一息ついた。
 志紀はリストの上に書かれたとんでもない名前を凝視する。

「緑さん……サタンって、悪魔の親玉じゃ、」
「……そうだな」
「……こんなの不可能じゃない?」

 ふるふると緑は首を横に振った。いや、でもさすがに魔王は、と志紀は返そうとしたが、

「……以前、捕まえたのは……俺たちだ」

 緑の爆弾発言に、喉まできていた言葉はあっという間に逆流して腹の中に収まってしまった。
 相変わらず無表情を貫き通す緑だが、嘘を言うような性格にも思えない。
 爆弾発言も含め、悪魔について志紀はさらに緑を問い詰めた。

 曰く。
 俗に言う悪魔とは、主に人にとり憑きその精力を啜る。俗に言う、というのは、一部の悪魔を使役することを生業とする人々は精霊、妖怪、はたまた神などもひっくるめて悪魔と呼ぶ事があるそうだ。
 そして志紀がやらねばならないのは、大物悪魔七匹を屈服、使役できる状態にすること。
 悪魔を使役するには、その悪魔が作り出す精神世界でガチバトルを繰り広げるか、その精神世界で意志の力を直接ぶつけて、悪魔をビビらせるしかないらしい。
 かつて緑たちが悪魔を捕らえた時は、まだ緑たちは人間から妖の存在になったばかりで意志の力が強く、悪魔に対抗できたから捕まえられた、とのこと。
 それも約4000年前の話だと言うから、志紀の目の前で眠たげに、たどたどしく言葉を紡いでいる男は、やはり人間ではないのだと実感する。

「……意志の力は、人間が一番……強い。今の俺たちは、人じゃない、意志の力も、あまりない……だから、無理だ」
「なるほど……」

 長々と面倒な話をした緑はしゃべり疲れたのか、部屋に置いてあった水を浴びるように飲んだ。これが酒だったらただの飲んだくれだ。

「その、悪魔を使役する仕事をしてる人たちの協力は得られないのかな。そっちのが本職だし、私がわざわざ選ばれるような意味がよくわからないんだけど」
「……そういう生業の人間は、制約に引っ掛かって、連れて来られない。……それに、この時代の連中は、腑抜けだ。……大正くらいにならないと……サタンや、ルシファーを使役できる奴が、いない」
「あ、そう……」

 本職の人より志紀は意志が強いのか。
 長い話が一段落ついて、ようやく志紀はもう夜になっていると気づいた。明かりがいつ点いたのかもわからない。それだけ、説明を集中して聞いていたのだろう。

「……今日は、寝ろ。疑問があれば……できるかぎり、答える」
「わかった。ありがとう、緑さん。……おやすみなさい」

 緑が戸を顎で指し、志紀も素直に頷いて挨拶する。
 部屋に戻って布団に潜り込んでからも、志紀は悪魔の話を反芻していた。

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