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入口まで降りてきてようやく客が誰だかわかった志紀は、くるりと踵を返した。
驚く娘を尻目に、相手ががっつり志紀の肩をつかむ。
「わわわわわたしようじがあったのをおもいだしまして」
「嘘つくの下手だなお前」
昨晩の共闘者、竜の右目片倉小十郎その人に言われてしまい、志紀はがくりと諦めたように頭を垂れた。
「……何の御用でしょうか」
「政宗様がお前に礼がしたいと言ってな」
「勘弁してください!そんなエライ人のとこなんて行けませんよ!第一、もうわたしたちここから発たなくちゃならなくて……」
「構わないわよ?」
突然響いた莉斗の声に、志紀はがばりと顔を上げた。
いつの間にやら、柱にもたれた莉斗が浅く頷く。
「殿様の呼び出しを断ったらアレでしょう?それに、私たちは一緒に行けなくなってしまったし」
「へ?……どういうこと?」
「『彼』の手伝いよ。本来なら最後まで付き合うはずなのだけれど、仕方ないわ」
本当に残念げに首を振る莉斗の足元には、簡素すぎるともいえる小さな荷物。
ということは、今はこの場にいない緑も荷物をまとめているのだろう。
「いってらっしゃいな。協力が得られればそれに越したことはなし。次の目的地は甲斐、とだけ私からは伝えておくわ」
「えっ、ちょっと、莉斗……!」
「竜の右目、片倉小十郎殿とお見受けするわ」
「あ?ああ」
「この子をよろしく」
志紀の声をさらりと無視してすぱん、と一言でまとめられた莉斗の言葉。
それに呆然としている間に緑もやってきて、莉斗と共に宿を出ていった。
肩をつかまれたままの志紀を残して。
「……置いてかれた?」
「……なんというか、苦労してるみてぇだな、お前も」
ぽかんと口を開けたまま、わずかに目尻に涙が浮かんでいる志紀を見下ろして、小十郎はそう呟いた。
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