※ナツとルーシィは幼馴染で、現在は恋人設定。





「…コレか?」
「うん、たぶん…」
「もっと小さくなかったか?」
「だってあれからもう10年も経つのよ!成長するでしょ?あたし達だって…ね、」

ルーシィの言葉に、ナツはそれもそうだな、と納得したようで。
今度はその木の周りを一回りして確認すると、この辺りだったっけ?と足で落ち葉を適当によけていく。
そうして地面を露出させたところで、ナツはしゃがみこみ用意していたスコップで勢いよくその場所を掘り始めた。
湿気りやすい場所のせいか、土は思ったより軟らかかったため問題なく掘り起こしていく。
ナツの様子を見ながら、すぐ側へ寄りルーシィもしゃがみ込んで眺めていた。
動いていないと少し肌寒く感じる。

「…にしても、オレらもバカだよな」
「ん?どうして?」
「今時タイムカプセルって。誰もやらなくね?」
「そうかしら?んー、でもワクワクしない?」
「…あー、まあな。でもオレ、なに埋めたか覚えてねえや。…おまえ覚えてるか?」
「えーとね、確かお互いに宛てた“手紙”だったと思うけど…」

ルーシィの台詞に、手紙!?と笑いながら、ナツは手を動かし掘り続ける。
そんなに深く掘った筈は無いが、念のため。
少し深めに掘っては、少し場所をずらしてまた掘っていく。
ちゃんと出てくるのだろうかと、内心不安も感じていた。

「ねえ、ナツ…ちゃんと出てくると思う?」
「どうだかなー」

タイムカプセルと言えば、頑丈な缶とかに入れておくものだが――

なんせその入れ物は簡単に潰れてしまってもおかしくないガチャガチャのカプセルだった。
土に還ることも無いだろうが、ボロボロになってしまっているかもしれない。
プラスチックが土の中でどうなるかなんて知らない以上、とりあえずは掘り続けるしかない。

そうして、3つ目の穴に差し掛かった頃、スコップの先に、カツン、と軽い衝撃を受け、ナツは手を止めた。

「お!」
「あった?」

その声を合図にするかのように、ナツはスコップを足元に置き、両手で掘り起こすと。
まもなくして、目に入った青とピンクのガチャガチャカプセルが土の中から顔を覗かせていた。
良く見てみると、だいぶガタはきているものの、中の紙も無事のようだった。

ナツはそれを拾い、ルーシィの目の前にホレっと差し出す。
受け取ったルーシィが周りについている土を丁寧に払い、その隙にナツは掘った穴を埋めた。
終わった頃に、ルーシィがハイ、と青いカプセルをナツに手渡す。

土が混じって開けにくいそのカプセルを開き、雨水でボロボロになったその紙を、手に取った。

ルーシィの記憶にあるそれは、自分のお気に入りで特別キレイなものを選んだはずだったが――
水気を失ったかのようにかさかさになってしまったその紙を、ルーシィは破れないように注意して丁寧に開く。

――書いた内容は確か、
まだ、何も知らなかったころ。
世界は親と友達と、そしてナツしか居なかった頃。

「――なんて書いてあったんだ?」
「……ふふ、今と、同じよ」

ホラ、と言ってルーシィはその古ぼけた紙をナツへと差し出す。
拙い文字で、紙全体に大きく書かれたその文字。
ところどころ文字が霞んで、土で汚れて見えないけれど、クレヨンで書かれたそれははっきりと分かった。



     『ずーといつしよにいようね』



ナツは、その手紙を見て、思わず笑った。
幼いルーシィが、自分に宛てた手紙。

「ずーとてなんだ?…けど、おまえらしいなー」
「何よ、そういうナツはどうなの?」

そう言われてナツは自分の書いた手紙を、土を払いながら開けていく。
少し力を入れ過ぎたせいか、紙の端が破れるような音が耳に届いた。

「ちょっと、破けちゃうわよ!」
「おお!あっぶねえ…」

破れた部分は影響なく良かったとホッとしたが、目に入ったのはやはり下手くそな字で書かれていた幼い頃の自分の文字。
その一文字一文字を、たどるように読み上げると――、

「えーっと、けつ………――うあ!?」

そこまで読んで、ナツの動きがピタっと止まる。
ルーシィは気づいていなかったが、彼の耳は真っ赤であった。
赤いクレヨンで、やはり途中擦れてしまっている部分はあるものの、しっかり書かれているルーシィへの手紙。

「けつ……なに?」
「――なんでもねえよ!」
「えー!何よ、見せてくれないの!?」
「いいだろ別に!…オレだぞ?大したこと書いてねえよ!」

ナツの言葉に、ルーシィが頬を少し膨らまして、むぅっとする。
今ではグーンと背が伸びて、身長差を感じる程の距離。
大きな瞳で見上げてくるルーシィの視線から逃れようと背中を向けるナツ。
見せたくない手紙を持つ手に力を込めて、いつの間にか下りていた前髪に手を掛けた。

――…もう、ズルい!約束したのに。

そう、ナツに聞こえるように、嫌味っぽくルーシィは口にする。

「えいっ」
「おわ!!」

咄嗟に伸びてきた手を、すんでのところでナツは避け、桜色の前髪が大きく揺れた。
避けようとするナツの態度にルーシィがますます機嫌を悪くするが、それでも見せるわけにはいかない。

だってよ。
これはあまりにも。

――……恥ずかしすぎるだろ。


「ナツのばか!…もう、いじわるなんだから!少しは成長したと思ってたのにやっぱり勘違いだわ!相変わらずよね、アンタは!」

どうしても見せることができない彼の気持ちなど知る由も無く、ルーシィは文句を言い続ける。
それはいつもなら、可愛いらしく思えたりもするが、今ばかりはそう感じられない。

(しょうがねぇだろうが!ありえねえもんは…!)
(なんでこんなの書いたんだ、オレ…!)

分かっている。
理由なんて分かっているが、それでも過去の自分を責めずには居られない。
こんなの、ルーシィに見せられるはずが無い。
しかしそういったところで、彼女が納得をするはずも無く。
ナツは一つ、深く溜息をついて、諦めたように口を開いた。

「――わかった。
 わかったけど、――また、10年後に見せてやるから!」
「えー?」
「それで勘弁してくれ!」

なっ!?と、両手を合わせて頭を下げて、目の前で呆れ顔のルーシィに懇願する。
彼女もさすがにそこまでされては、イヤ、と言えるはずも無く。

「〜〜っもう、今度こそ約束だからね、ナツ!」
「おう!ありがとな!やっぱいい奴だよな。おまえはルーシィなんだって感じるぞ!」

なに言ってるのよ!と胸を叩くルーシィの拳を受け止めて、ナツはホッとした。
手に持っていた紙を改めて丁寧に折り、青いガチャガチャカプセルの中に戻す。
それを上着のポケットに突っ込みながらギュッと握った。

ルーシィも自分の鞄へ、ハンカチでそれを包んで大事にしまい込んでいる。
ルーシィはこの色好きだろ?…だから、とナツに渡されたピンクのガチャガチャ。
ずっと、大切に持っていようと、心に決めた。

「ねえ、ナツ…約束、忘れないでよね?」
「おお…」
「今度は絶対よ!?」
「分かってるって!好きなだけ見せてやるぞ!」

――10年後なら。
きっと、笑い話にもなるだろう。

(大体、こどもは、たくさんほしいって)
(なんでそこまで具体的なんだよ…!)

幼い頃の自分が何を考えて書いていたのかって、…そりゃ、ルーシィのことだけどよ。
自分のことが憎らしくも思う。
たぶんずっと、目の前で笑っている彼女のことを想っていたのかもしれないと、それは認めざるを得ないから。
隣に並んでいるルーシィが愛おしくて、風に揺れる長く伸びた金髪に触れたくなるんだ。

「んじゃ、帰るか」
「うん」
「今夜は泊まってもいいか?」
「……」
「…ルーシィ?」
「い、良いけど。…ゆっくり寝かせてよね!それが条件!」
「んだよ!いつも最後には嬉しそうにすり寄ってくるじゃねえか…」
「そ、そんなことないわ!…ナツが離してくれないんでしょ?だから、あたしは…」

ルーシィが言い切る前に、ちゅっと音を立てて唇にナツが触れてきた。
かあっと頬を染める彼女の後頭部へ手を添えて、更に力を込めてグッと引き寄せる。
ナツは一度唇を離して、驚きのあまり大きく見開いているルーシィと見つめ合う。

寒さを増した秋風に肩を震わせたルーシィを、ナツの体温で包み込んだ。




――今はまだ、無理だけど。
いつか。きっと。

そうしてナツは、過去の自分に苦笑して、未来の自分に思いを馳せた。



☆★☆★☆

※ナツがルーシィ宛に書いた手紙の内容は…ご想像にお任せします。





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