〜『初恋以前』のルーシィに最近悩みが…!?〜







朝がつらい・・・・・

「ルーシィ!いい加減に起きなさい!!また遅刻する気!?」

布団の中が温かくて、寝起きの悪いあたしは毎朝ママに起こされる。

「う〜〜〜〜」

眠くて眠くてしかたがないの。

「ルーシィ!!起・き・な・さ・い!!」
「〜寒い…」

早く春がくればいいのに……。






……キーンコーンカーンコーン――


はあ、はあ…
大きく腕を振り、学校へと向かって走るルーシィ。

予鈴が聞こえる。
校門前では、風紀委員が待ち構えている姿が目に映った。

――完全にアウトだわ。
あたしこの遅刻で罰掃除になるのよね。
やだなあ、どうしよう。
そーだっ。
中庭の壁越え、もはやこれ以外手はあるまい。

死角になる壁の近くに植えられている何本かの大きな木を見て、こういうこともあろうかと密かに目を付けていた。
それに手を掛け、難なく登って行く。
降りる前に確認をして、

よーし、誰もいないな。

ぱっと、地面に着地。
やったー成功!

――……と、思いきや“ぎゅむ”足元から伝わってくる柔らかい何かを踏みつけてしまった。

その瞬間、

「ぶぎゃ!!」

大きな鳴き声。

「え…」

フーッ!!と目の前に青い色をした猫が、涙を流して威嚇してくる。

「あっ、ご、ごめんね…」

ルーシィはびっくりしながらも、ゆっくりと近づいてくるその猫を宥めようとするが相当痛かったのだろう、勢いよく飛び掛かってきた。

「きゃ、やだ――!!」
「ん?」

青い猫が暴れて戸惑うルーシィの声とその騒がしさに気付き、駆け寄った少年がカバンの中からあるものを取り出しながら、咄嗟に叫ぶ。

「うあ、やめろ。ハッピー!!」

その声に反応して、バリバリと力強く動かしていた前足を止め、少年の肩に飛び移った。
爪で引っ掻かれて、地面に蹲る金髪の少女を見つめている。

「……おまえ、ハッピーに何かチョッカイ出したのか?」

両腕を胸の前で組み、問い掛けてきた。
ルーシィはがばっと起き上がり腕を伸ばして肩に乗っている猫を指差し、

「その猫の方から飛び掛かってきたのよ!!」

少女が大きな声を出したことで、ガラッと校長室の窓が開いた。

「誰かそこにいるのか?」

少年はもがっと少女の口を両手で塞ぎ、屈んで植木の隅に隠れる。身を顰めて気配を失くそうとする二人と一匹。
危なく見つかる所だったが、危険を逃れる。

その時、少年に近寄った為ふわっと何か香ってきた。
あれ?この人のにおいって――

「変だなあ…ハッピーは何かされない限り、人に飛び付いたりしねえんだけど」

ルーシィは、はっと思い出して、口元に右手を添えた。

「あっ、そうだ。あたし…着地の後、尻尾踏んじゃって…」
「着地…って。まさか、あれを越えたのか?」

簡単には乗り越えられない高さのある壁を指差し、こちらを見ながら唖然としている。

「ちょっと、ここを越えるやつは野郎でもいねえぞ!」

壁は高ぇし、目の前は校長室だしな・・・とぶつぶつ言っている。

「だって、あたし…もう後がないんだもん」

ふと少年の言葉に対して、感じたこと。
もしかして、ご同類…?

「ここにいるってことは、あなたも壁を越えたの?」
「おう、まーな…」

自分と同じことを考え、行動していることに若干共感を得たが、ハッピーを肩に乗せたままルーシィに背を向ける少年。
すると、校舎の角を曲がったところで、右腕に“風紀”を付けた群れに会ってしまい、その一人に声を掛けられた。

「…ナツ。おまえ、今日の週番」
「なっ、なんだよ。してたぞ!裏門はってたんだ」

ほらっとどこから出したのか“風紀”の腕章を見せて、

「ほい。裏門より遅刻者一名!」

ぐいっと肩を引き寄せられて、驚くルーシィ。

「へっ?」

えぇ!!?
ちょ、ちょっとぉ!!

「あっ、またおまえか。ルーシィ・ハートフィリア!!」

名前を書かれて、見つかりたくなかった風紀委員に怒鳴られてしまった。
その背後では腕章を口に咥えて目を合わそうとしない少年が、機嫌を良くした青い猫の頭を撫でている。










2年8組の教室。

「んもー!くやし――っ!!あのナツって猫男のせいで、罰掃除よ!今日から一か月!!」

怒りからくるのか、顔を赤くして両手の拳を握っている。

「卑怯なのよー、あいつも遅刻してたくせに!!」

今度は両腕を振り回して、キーッと叫んだ。
ルーシィの言葉を聞いているのかいないのか、どことなく上の空の親友レビィは顎に両手を添えて応える。

「うん、そーだね」
「ちゃんと聞いてる?レビィちゃん?」
「きっ聞いてる、聞いてるよ。1組の桜色の髪をしてる変人でしょ?いっつも猫を肩に乗せてる人!」

慌てる様子を見せながらもきちんと応えているが、

「そーなのよっ、話したの。初めてだけどね、ズルい奴なのよー!!」

ほけーっとどこを見ているのかわからないレビィの様子にルーシィは、

「……レビィちゃん………やっぱりあたしの話聞いてない――」
「え、そんなことないよー!もう、ズルいよね。許せないよ!」
「もー、レビィちゃん!!」

まだなんにも言ってないよー。
グスンと拗ねて席を離れる。

「わわ、ルーちゃん!?ごめんね、ちゃんと聞くから戻ってきてー」



ガラガラ…
わ、先生がきた。

「きりーつ」

ガタガタ―――号令の合図に立ち上がる。






“わかっているんだ。
今のレビィちゃんの頭の中は、“ガジルくん”でいっぱいだってこと。

つまんなーい。
最近、会話がいつもすれ違う。
この間までのあたしたちのノリはどこに行っちゃったんだろう――”

『なんで、レビィちゃん…ガジルくんなんかにホレちゃったのよ〜〜〜』




――空気の換気を心掛け、休憩時には窓を開けて―――。
窓側の席のルーシィは外を見ていて、先生の声をまともに聞いていなかったが、

「…それと、ハートフィリア!」
「…はい?」
「罰掃除の区域だが、おまえだけ外庭になったからな」
「そっ、外ですか!?」

この寒い時期に…

「当然だ!今日の遅刻で10回目だぞ。4・5回の連中と同じ罰では割にあわんわ!」

それは、そうですけども。だからと言って……。




「うわあーん、レビィちゃーん!!」
「よしよし」

HR終了後、泣きつくルーシィを慰めているレビィ。
自業自得とはいえ…ルーちゃん可哀想だから――、

「よーし、じゃかわいそうなルーちゃんの為に、帰りにケーキのやけ食いってのはどうかな?」
「えっ…」

思わぬ提案に顔を上げる。

「だって、…放課後はガジルくんの観察しないの?」
「…ルーちゃん、観察ってそんなんじゃないよ!!」

顔を真っ赤に染めて、否定する彼女に本心じゃないだろうと思いつつも、嬉しかった。

「どこが良いかな…、この前ルーちゃんが行こうって言ってたお店にしようか?」

レビィちゃん…。
ジーンと感動して、彼女の優しさに浸っていた。






うふふ、やっぱりレビィちゃんはやさしーわね。あたしのこと元気づけてくれようとして。

外で罰掃除をしているが、寒いことも忘れて浮かれていた。
サッサと済ませて終わらせなきゃね。
レビィちゃんとケーキ、楽しみー。
さかさかと箒を持つ手が早く動いていく。

「ルーちゃーん!!」
「レビィちゃん?」

左手を上げて、駆け寄ってくる姿に一瞬、首を傾げた。

「た、大変。大変なの!」
「ん?どうしたの。そんなに慌てて」
「さっき…ね、わたし、…ガジルくんに呼び出されちゃったの!!」
「へっ?」

な、何?どういうこと。

「話があるから、16時に一棟の裏で待ってるって…」

疑問符を浮かべているルーシィを余所に頬を赤らめて、嬉しそうに続ける。

「話って…なんの話かなぁ」

ソワソワと、落ち着かない様子。





キーンコーンカーンコーン――。


16時のチャイムが鳴った。

「ああっ、時間だ…。ルーちゃん、わたし行ってくる!ごめんね。ケーキまた今度食べよーね」
「…レビィちゃ、」

慌てて走り出して行く姿を見送ってから、箒をポンッと置き、

「残念…レビィちゃんと一緒に食べたかったなあ。…んー、なによぉあたしのことなんかー」

興奮して、側にあった木に八つ当たりをしていると、

「ぐみーん」

猫の鳴き声が聞こえてきた。
そちらへと目を向けると、あのナツという少年が魚を持って、寄り添ってくる青い猫にあげている姿を見掛けた。

「あ――!!ナツっ!!!」

突然声を張り上げて名前を呼ばれたことで驚きを隠せずにいたが、食事中のハッピーの方が震えて魚を落としてしまった。
そんなことはお構いなしにルーシィは今朝の出来事に腹が立っていたので、どんどん近づき距離を詰めていく。

「今朝はよくもー!!あんたのせいで、あたし罰掃除よ!!この寒空の下!!」

ルーシィの足元でフーフーとご機嫌ななめのハッピー。

「いあ、ちょっと待て、今ハッピーにエサやってるから…」
「だから、何よ!!」
「ハッピーは神経質で、うるせえと食えねえんだよ」

うるさい…?
――…ってあたしのこと!!?

またしても腹が立つことを言われたが、我慢。
大人しくその場に腰を下ろし、ナツがハッピーにエサをあげているところを見させてもらった。
ハッピーの目の前には、お皿に入ったミルクが置いてある。
それを一度、ナツが指で舐めてその様子をじーっと見つめてから自分もじゅぴじゅぴと飲み始める。

「へんなことするのね」
「オレがこーやっていちいち食べて見せねえと絶対食わねーんだ」

ふぅーと息を吐き出し、背中を伸ばすナツを見て、へぇーと頷く。

「人間のこと全然信用してなくて、気難しくて…ハッピーには飼い主のオレでも手をやくんだぞ」

飼い主の苦労も知らずにじゅぴじゅぴと美味しそうにミルクを飲み続けるハッピー。
その猫を見ながら、ルーシィが口を開く。

「でも、ナツのことだけは信じているのね」

金髪の少女の発言にあれ?っと目を大きく開いた。

「変な気ーするな…、いきなり“ナツ”ってこられると」
「憎たらしーから“くん”づけになんて、してやらないわ!」

べーっと舌を出して、頬を膨らまして怒っていることを表して見せた。

「そりゃ、勘違いってもんじゃねえの?」

桜色の髪に手で触れて、ガシガシと掻き不満げな様子を見せてくる。

「もとはと言えば遅刻してる方が悪ぃんだぜ!」
「そ、そーだけど…そーゆー、ナツこそ遅刻してたくせにっ!!」
「そーだっけ?オレはハッピーに襲われている奴を助けに駆け付けただけだぞ!」
「なっ…。ご同類って…、壁越えたのって聞いたら“まーな”って言ったじゃない!!」
「そんなこと言ったっけかなー」

すっとぼける少年に、ズルーいと顔を赤くして訴える。
そんな少女の顔を目にして、おまえ面白れえなと歯を見せて、笑った。

「んもーっ!いつか絶対、仕返ししてやるんだからね!!」

スクッと立ち上がり、掃除の続きをしなくてはと、一人と一匹の前から離れて行く。

「そりゃ、楽しみだ」

膝の上にハッピーを乗せて、ヒラヒラと片手を振った。

少し離れた場所で、まったくどいつもこいつもと独り言を言いながら、ざかざかと落ち葉を掃いているルーシィを見ながら一言呟く。

「巻き散らかしてんじゃねえのか、あれは」

ナツの膝から離れて、じーっと少女を見つめる青い猫に気が付いた。他人を気にすることは珍しい。ナツはそれが面白くなりちょっと、からかってみた。

「何、ハッピー…ひょっとして、あいつ気に入ったのか?」

フーフーと“違うよ!”とでも言っているかのように――。
お腹を抱えて笑い出す飼い主の膝に前足を置き、鳴き声を荒げて何かを訴えていた。










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