2012年12月31日。



予定通りルーシィは、誘われた友人宅でにぎやかに大晦日を過ごしていた。
人数が多い方が盛り上がるということで、ルーシィ以外にも数名声を掛けていたらしい。


「はい、ルーシィ!」
「ありがとー」


オレンジジュースが入ったコップを受け取る。
ユカはルーシィに渡して、その場で少し話をしてから集団の真ん中にいる彼の元へ戻っていった。

周りでは、ガヤガヤと「お酒飲めなーい、ケーキないの?そのビン空いてる?」…などと騒がしい。

コップに口を付けようとしたところで、ナツと仲が良い友人が隣に座ってきた。


「ルーシィちゃんは、今日、日付が変わるまでいるんだろ?」
「あ、…ううん。あたし、毎年うちで年越しソバ食べなきゃいけないんだよね(…嘘だけど)」

「えー、なんだよ。つまんねーじゃん!」
「でも、毎年恒例で…(ごめんね、嘘なの)」

「ふーん、じゃ、その後は?」
「えっ?」

「初詣行くんだろ?」


“初詣”に反応したルーシィは、顔を上げた。
そんな時、近くで歓声が上がり、そちらに目を向けると、


「見ろよ!ナツの時計!!ユカちゃんからのクリスマスプレゼントだってさ」
「マジ!?見して、見して…」

「うおーっかっこいーじゃん!」


数人の男子の前で、左腕を見せているナツの隣で、照れつつも嬉しそうに微笑んでいるユカが視界に入る。


…二人とも嬉しそうだな。


「ねえ、初詣どうすんのさ?」
「……ううん、今年は行かないんだ」


目を逸らして、自分の隣に座っている彼にそう伝えると、


「……ふーん、」


彼女の返事に、つまらなそうな顔をしている。

ルーシィは大好きなオレンジジュースを口にしても、気が沈んでいるため美味しく感じられない。
隣にいる彼はルーシィから良い返事をもらえなかったが、動こうともせずに前を向きながら、


「オレさー、実は…前からルーシィちゃんのこと、気になっててさ」


―――え?…どうしよう。話がヤバい方向にいってるかも…、うーん…誤魔化せるかな。


「おまえら春くらいから、ナツのこと見てたろ?」
「えっ!?…あ――、そ、そうね…」



…ん?



「でも、ルーシィちゃんとユカちゃんのどっちが好きなのかわかんなくてさ…オレら!」


オレら?………って、ちょっと、待って!


「わかんなくて…?」

「うん。でもさ、てっきりルーシィちゃんだと思ってたから、ユカちゃんが告ってきた時、ビックリした。…マジ、オレ心の中で“やった”とか叫んじゃったもんね。…ナツには悪いけどさ」



―――あれ?…あたし、日本語の読解力おかしいのかな。



今、なんて言ったんだろう…。あ、ダメだ…頭の中ごちゃごちゃしてる……、




「ルーシィっ!!」



……へっ?


「おまえ、顔色悪いぞ!!…大丈夫か?」


良く通る声、ナツくんの声だあ…と、自分の名前を呼んでくれていることに一瞬、夢でも見てるのかも?と勘違いして、両目を擦った。
声が聞こえた方に顔を向けると、ナツの肩越しからユカの顔が覗く。


『ユカちゃんが告ってきた時、ビックリした』





―――『ドラグニルくんに、告られた』って、言わなかった?『告られた』って。





「あたしは、だいじょー、…ぶ」



…あ、ダメだ。ユカの顔がまともに見れないよ。










「私、なんか気分悪いかも…」
「…飲み過ぎたのか?」


今度はこっちかよと周りでは騒いでいるが、


「私、一度家に戻る」
「そうだな、少し横になってろよ!オレ、送るな…」

「えー、おまえら帰っちゃうの?」
「いあ、オレはすぐ戻っけど…」





―――大丈夫かな、ユカ?



「おい!ナツ、時計!?……あー行っちまいやがった。いーな、オレも欲しいよな。…ん?見るか?」


ユカを連れて急いで帰って行ったナツは、腕時計を忘れていた。
それをじーっと見ていたルーシィに気づいたのか、ほい!っと渡される。



時刻は、20:45…。



時計の数字を見つめていると視界が揺れて、指が勝手に動き出す。
カチリとボタンを押していた。






―――ユカが嘘をつくのなら、あたしだって嘘つくよ。






「ふぅ〜、ただいまー!外、さみーから走ってきた!」
「おー、早いじゃん!…ユカちゃん平気か?」

「おう!なんか、平気っぽいぞ」



ユカとナツくんがこれから一緒に過ごす時間に比べたら、全然大したことじゃないわよね?



「…はい、時計」
「悪ぃ、ありがとな!…ルーシィも、ホントに大丈夫か?」
「…うん、平気よ。心配してくれて、ありがと」
「おう!」





ほんの20分だけ遅らせた腕時計を、彼に渡した。





それから再び、騒がしさを取り戻して、終始笑い声が絶えなかった。



「あ、オレそろそろ行かねえと…」


腕時計で時間を確認してから、コートを取りに部屋を出ていく。


「…あたしも、そろそろ行かなくちゃ」


他のメンバーはまだ残っているとのことで、ナツとルーシィだけ先に抜けることになった。


「じゃーね、よいお年を!」


玄関先で挨拶をしてから手を振り、ゆっくりと歩を進める。


「おまえ、家こっち?」
「あ…うん」

「んじゃ、方向一緒だな!」
「…うん。そうだね」


お互いの口から出る息が白く、空気もひんやりしている。
雪はないが、気温の低下で地面が凍ってきているようで、ツルツルしていた。


「うおっ!!…滑ったー、あっぶねえ」
「あはは・・・・・!!」


転びそうになって、咄嗟に身体を戻したナツの反射神経に“すごーい”と感心して、また滑りそうになっていた彼を見て、ルーシィは自然と大きな口を開けて、笑っていた。


その笑顔を見たナツは、


「やっと、笑ったな?…今日、ずっと一度も本気で笑わなかっただろ?」


後ろを歩くルーシィに振り返りながら、そう口にする。


「良かったな!」


彼も楽しそうに笑ってくれた。
寒さも兼ねて、頬を赤くしているルーシィはナツの背中を見つめて名を呼んだ。


「ナツ…くん!」
「なんだ?」

「向こうの通りにライトアップされたキレーなスペースがあるんだけど…あとで、ユカを連れて来れるから、い、今ちょっと行ってみない?」




―――心臓、破裂しそう。





時間を気にしているようでチラッと手首を見て確認しているが、ルーシィと目を合わせて、


「いいぜ、まだ時間あるみたいだし…」


ルーシィはホッとしたが、一層顔を赤らめていた。


「ちょっと、急ぐか?」
「すぐ近くだから、大丈夫よ!」



―――ユカ、ごめんね。ほんのちょっとだけ、…ちょっとだけで良いから、ナツくんを貸して欲しいの。






「わあ!キレーイ!!」
「おおー!!―――ん?…他に人、いねえんだな?」

「もったいないねー!すごい、キレイなのに…」


上下左右に顔を動かして、すっげえ…と何度も口に出し、ニカッと笑うナツを見て、胸が高鳴る。


―――あたし、この笑顔に惹かれたんだっけ。また、見ることができて良かった。…でも、


「おっ!そろそろ、行かねえと」
「…あ、…もうちょっと、いたいなー」



ルーシィは自分の時計を見て、

時刻は、23:53。……てことは、ナツくんの時計は、




「まだ、33分だから時間あるよ…」




ルーシィの声を耳に入れて数秒経った後に、スーッと時計を付けている左腕を、ルーシィへ向けてくる。


時刻は、23:53。


「さっき、時計が遅れていることに気づいて、直したんだ…。こっちの方が正しい」
「……………」



―――気付いてたんだね。


ルーシィは呆然として固まるが、同時に顔を赤くして俯いた。
目を合わしていたナツも、彼女が俯いたことで一度口を開きかけたが、グッと唇を噛み締めて、


「―――オレ、…行くな。よいお年を…」
「…………」


ルーシィに背中を見せて、離れて行く。


時計を見ると、

23:55。


―――おしいな。あと、たったの5分だったよ。





『2013年のカウントダウンは、ナツくんと一緒に…』





ルーシィは顔を上げて涙を流しながら、前を行く彼に向かって言い放つ。

















「ず―――っと、好きだったよ!!」








彼女の声とその告白に驚いたようで、ナツはその場で足を止めたが、振り返りもしない彼にルーシィは涙を拭いて、彼とは逆方向に走り出した。

拭った涙もどんどん溢れて、止まらない。





―――あ、2013年の抱負考えてなかった。



えーっと、もうちょっと真面目に勉強しよう。


迷ってたけど、検定受けてみようかな。


あ、ダイエットしなきゃ。…それから、











新しい恋、しなくちゃ。








ぱあーん!!




年が明けたことを告げる花火が上がったのか、その音に驚いて立ち止まった。






2013年1月1日、〜A HAPPY NEW YEAR〜














心の痛みが癒されないまま過ごした冬休みがようやく終わり、今日から新学期が始まった。

「おはよー、ユカ!」
「…あ、おはよう、ルーシィ」


―――あれ?…なんか、ヘン。どうしたのかな?


「ユカ?…何かあった?」


窓の外を見ているユカの様子が気になり、彼女が口を開いてくれるのを待ちながら、そっと側に寄ってみた。









「―――…別れたの」
「……へっ?」


「初詣の日、会うなり…」
「な、…なんで?」

「理由は言ってくれない。…けど、好きなコがいるんだと思う」




―――なんで、どうして?




「…ルーシィのことかも」
「あ、それは違うと思う……」


首を傾げるユカに続けて、


「…実は、もうフラれてるんだ。あたし31日の日、告っちゃった…の。ごめん、ユカ、“応援する”とか言っといて…」

「――ううん、…おあいこ」


ルーシィの側で、微笑んだユカは「あーあ、二人ともフラれちゃったのか…」と、背伸びをしている。


「あたし、わかったよ。好きなこと言えないのってどんな気持ちか…。ユカがどんなに辛かったかって、」

「…ありがとう、ルーシィ」


眉を下げて涙目になっているルーシィの手を握って、

「ねえ、ホントにあたしのこと気にしなくていいから…もう一度、がんばってみたら?」








『もう一度、がんばってみたら…』







放課後の教室にひとり。
彼女の言葉を思い出して、机に突っ伏している。


―――がんばるって、これ以上何をがんばればいいの?



顔を上げたルーシィは、はあ〜と溜め息を吐いて何気なく、廊下の方へ目を移すと、





―――あ、



全開にしていた窓を勢いよくピシャッと、閉めた。



「…っ!?…………なんで、閉めんだよ」



廊下を歩いていたナツは足を止めて、目の前で閉められた窓を、彼女の顔が見える程度に開ける。


「…オマエ、すっげえ感じ悪ぃなー」

「あたしの視界に入らないでください。……離れてれば、やめられるんでしょ?」

「………。…おー、それは悪かったな」


ナツはルーシィから顔を背けて、窓に寄り掛かる。ガラス越しに、うっすらと彼の背中が映っていた。


「今日は、チョコ食ってねえじゃん…」
「おかげさまで、今年に入ってから一口も食べてないのよね〜…できるだけ、近寄らないようにしてるから…」

「意外と、簡単にやめられるのかも…」
「―――オレの言った通りじゃねえか…」

「…そうだね」


お互い、視線を落として瞳を閉じる。




暫く沈黙が続いた後、ナツは寄り掛かっていた窓から一度身体を離して、ルーシィがもう少し見える位置までガラッと開けた。
そして、先に口を開いたのは、ナツであった。


「…でもよ、近寄らないでいるのも、結構大変だよなー」
「………」


「食べろよ、コレ好きなんだろ?」


ルーシィがよく口にしていたポッキーの箱を覗かせて、ホラよと彼女の頬にそっとあてると、
ナツを見上げるルーシィの顔は真っ赤に染まっていた。
そんな彼女を見つめて、彼もまた赤くなっている。



―――もしかして、照れてるの?

笑った顔だけではなく、色んな彼を見てきたつもりでいたが、……初めて見る一面。



「そもそも、我慢する必要なんてねえじゃん?」
「そ、そうだけど…」


コクリと頷くが、


「―――あたしが欲しいのは…、チョコ、じゃない……」

「…………」




俯き小さな声でそう口にするルーシィを見て、口角を上げたナツは、


「もったいねえなー、…せっかくおまけ付きなのによー」





―――えっ、


彼は、親指を自分の顔に向けて、二度指した。

本当に?と、不安な顔を見せてくるルーシィに笑いながら窓から身を乗り出して、距離を詰めていく。
金髪に触れるナツの左手に、あっ…と思わず声が出てしまった。
それを誤魔化そうとして、

「………えっと、…い、いただき…ます」




目の前に見える大好きなお菓子と、それを持っている彼の右手を一緒に掴んだ。







(終)

☆★☆★☆

この後の妄想として…

・龍のキーホルダーがユカからのプレゼントだと思っていたナツは、後々それがルーシィからのだったと聞くことになる(ユカから告げられる)

・彼女になったルーシィからは、いまだに『ナツくん』と呼ばれるので、「ナツ」と呼んでほしいと言うが…
ルーシィは顔を真っ赤にして「ナ、…恥ずかしくて、言えないわよー」って照れる、そんなルーシィが、かわいい。

・ユカが告白してきた時に、ナツは…なんでその告白を受け入れたんだろ?って妄想していたのですが…難しくて。私の妄想力ではダメらしい。

他にも一コマごと表情を見て妄想シチュは増えていき、纏まらず…。
その為、こちらは短編ですが、予想外に自分の“ナツルー妄想部分”が多くなってしまった結果…長くなりました。
(言い訳…(-_-))

ここまで目を通して下さり、ありがとうございました^^




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