※もう一つのジクエルバージョンです!





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「うまく、評議院に潜りこめましたね」
「ああ、これでまた一つ理想に近づいた」
「ええ・・・ただ、お気をつけくださいね。ここは魔道士の出入りが激しいので」
「単なる魔道士など、いくらいようが関係ない。俺たちは秘密裏に動けば気づかれないさ」
「だと、いいですけどね」

くすりと笑い、言葉を投げかけるウルティアの瞳にはいたずらぽい光が宿っていた。

ジークレイン、いやジェラールというべきだろうか。
楽園の塔建設の協力者であるウルティアと二週間前に偽名を使い、評議院に潜りこんだ。

「なんだ。ずいぶん思わせぶりな言い方をするじゃないか」
「いえ。ただ、不測の出来事が発生する可能性は考えておかないといけないでしょう」
「起こってもいないことを考えても仕方ない。何か問題があったら、改めて対処すればいい」

ウルティアとの会話を切り上げ、廊下に出る。

廊下で妖精の尻尾のマスターマカロフが評議員であるヤジマに愚痴を零している現場に遭遇した。

「まったく、S級魔道士になったと思えば、すぐに始末書を出しおって・・・」

会話の内容から察するに、S級に昇格した魔道士が早速始末書を提出する事態になってしまったらしい。妖精の尻尾の噂はいろいろ聞いている。
この評議院での受けこそ悪いものの、ジークレインはなかなかおもしろいギルドだと思っていた。もちろん、自分の邪魔にならない範囲で、に限るが。
――そして、早速自分の邪魔になるような事態が起こるとはさすがに予想できなかった。

どのくらい、歩いただろうか。突然、怒号混じりの女の声と、それと同時に重い斬撃が降ってくる。
反射的に斬撃を受け止めたジークレインは攻撃を仕掛けてきた相手を見ると固まった。

燃えるような真紅の髪。昔よりかなり雰囲気が変わったものの、その鎧を着た姿は紛れもなく――。

(エルザ!なぜここに!?)

ふと切りかかってくるエルザの腕に、妖精の尻尾の紋章を見つける。
さっき通りかかった時に聞いた会話から察するに、例の始末書を出しにきたS級魔道士がエルザなのだろう。

(まったく・・・世間は狭いもんだ)

ジークレインがそんなことを考えている間に、エルザは遠慮なく斬撃を浴びせさせてくる。

「ジェラール!!貴様っ・・・こんなところで何を企んでるっ!」
「おい。勘違いするな。俺は――」

弁明をしようとしたジークレインの視界に評議院の使者と、妖精の尻尾のマカロフが目に入った。

「ちっ・・・面倒くせえ」

エルザ一人なら、また例のように脅迫して黙らせようと思ったが、ギルドマスターに気取られたらそうはいかない。

(いや・・・逆にこの状況を利用するか)

ジークレインはまず、エルザの剣を持つ腕を捻じりあげ、そのまま投げ飛ばす。
さすがというべきか、エルザはすぐさま受け身をとり、向かってきた。

ジークレインは一瞬だけ魔法を使うと、エルザの背後に周り、首筋に手刀を叩き込む。

魔法の威力を使い、加速した状態で繰り出した手刀。さすがにひとたまりもなかったようで、エルザはそのまま気絶した。

「エルザ!一体何があったのじゃ!?」

エルザが気絶させられた様子を見たマカロフが食ってかかってくる。
それにジークレインは冷静に答えた。

「俺もよく知らん。この女が知らない名前を呼びながら殴りかかってきた。どうかしてるんじゃないか」
「嘘じゃ!理由もないのに、エルザがそんなことするわけがない。何があった!?」
「まあ、どうでもいいが、この女の身柄は少し預からせてもらう」
「何!?」
「いきなり、殴りかかってくるような危険人物をそのまま野放しにはできないからな。ギルドを背負って立つマスターならわかるだろう」

何も言えなくなるマカロフを尻目に、ジークレインはエルザを地下牢に運び込む。地下牢を選んだ理由は主に二つだ。
一つは人目につくことを避けるため。そして、もう一つはエルザとの会話を誰にも聞かれないようにするためだ。

地下牢はよっぽどの重罪人でなければ使用されることすらないため、今現在は誰もいない。

とりあえず、エルザを地下牢のベッドに寝かせると、魔封石を用いた手錠と足枷をはめる。

少しの間、なんとはなしに寝顔を眺めていると、そのうち瞼がぴくぴくと動き、ゆっくりと目を開いた。

「よう。お目覚めか?エルザ・・・と言ったかな」
「ジェラール!何を白々しいことを!」
「残念だが、俺はジェラールではない」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃない。嘘だと思うならこれを見ろ」

ウルティアによって作られた偽の経歴と身分。もし、過去を怪しむ者がいた場合の保険だったが、思わぬところで役に立った。

目の前に突き付けられたそれを黙って見ていたエルザは唇を噛みしめる。

「・・・だが、その顔はどうみても」
「双子だからな。無理もない」
「双子?」
「ああ。俺も最近知ったんだがな。驚いたよ。生き別れの弟がいたなんて。しかも、その弟が楽園の塔を建設しようとしているなんてな」
「・・・もし、おまえが本当に兄だとして――止める気はないのか?」
「止める?何を?」
「ジェラールのしようとしていることだ!」
「おいおい。勘弁してくれよ。大体俺だってジェラールのことがばれたら、職を失うかもしれないんだぞ。ろくにあったこともない弟のためにそんな危険は犯せん」
「貴様・・・!」
「まあ、わざわざこんな地下牢におまえを連れてきたのは、話があるからだ」
「話?」
「ああ。ジェラールのこと・・・誰にも言うな。俺は今の地位を失う気はないんだ」
「・・・断ったら?」
「妖精の尻尾がどうなるか約束できんな」

エルザの表情が歪む。しばしの沈黙の後、絞り出すような声を出した。

「わかった・・・今後、ジェラールの話はしない」
「話の分かる女で良かったよ。エルザ」
「・・・やっぱり、兄弟だな。やってることがそっくりだ」

その言葉に確かな失望と軽蔑を感じたジークレインはぴくりと眉を上げる。

「言ってくれるじぇねえか。俺が一言ジェラールに話せば、おまえの昔の仲間はすぐに死ぬことになるぞ」
「やめろっ!それだけは――」
「黙っててやるよ。今回はな。だから、おまえも黙ってると約束しろ」
「・・・・・・約束する」
「よし。契約成立だ。といっても契約書なんてないからな。誓いの印にキスでもするか」
「っ!ふざけるなっ!やめろーーっ・・・!」

喚くエルザの言葉も聞かずにその唇を強引に奪った。
エルザは必死に暴れるが、魔力を封じる手枷、足枷をされていてはどうしようもない。

「この・・・よくもっ」
「キス程度でそんな怒るなよ。むしろこの程度で済んで幸運なくらいだろ。ここはちょっとくらい叫んだって誰も来ないんだぜ」

エルザが青ざめて口をつぐむ。

「まあ、もう少ししたら、出してやる。次からはいきなり殴りかかってくるなよ」

ジークレインは冷笑を浮かべながらエルザに言い捨て、地下牢を出ていく。
後に残されたエルザはじっと怒りを押し殺した表情でその後ろ姿を見つめていた。

最初はただ、嘘をついて誤魔化し、脅迫して口を封じるつもりでしかなかった。

だというのにキスしたのは、エルザの最後の発言――そこに込められた侮蔑に腹が立ったからに他ならない。

分かっている。エルザの侮蔑はある意味当然のものだと。それでも、それがエルザからのものだったから、ジークレインは腹を立てた。

(汚してやる――)

瞬間的に起こった攻撃衝動は収まることを知らず、キスをした時ようやく我に返った。

(エルザが相手だと思うようにいかないな)

だからこそ、危険分子なのだろう。

ジークレインは自分でもわけのわからない苛立ちを抱えながら長い地下牢の階段を上っていった。

 

 

END



☆★☆★☆
理乃さんより、いただきましたー!
妄想120%とのこと…良いですよ〜絶好調ってことですもの!ふふふ♪
ジクエルは妄想力がないとなかなか書けないので、私からしたら理乃さんを尊敬します!

評議院で初めてあった時のジクエルのお話。…二人は初対面なんだ。どきどき。

心ではわかっていても、いざ目の前にエルザが居ると…ゴクリ。
レビィちゃんが以前、ガジルのことを「ヤな奴」(だったかな)…そう言ってたように、私もジークレインのことをそんな気持ちで見ていた時もありました。
ですが、彼の本当の想いは別にあったのかなと妄想し始めていたら、ジークを振り返って見た際に…、「あ、なんか違う」と感じましたね。
理乃さんが描く出会い方をしていたら、二人にどんな展開があったのかなと…。

確かにエルザのあの一言は、ジークレインにとってはキツイ言葉ですよね!心が痛い(>_<)
楽園の塔のために偽りながら潜り込んだとしても…彼女と会ってしまったら、自分自身をコントロールできなくなるんですよね!
それが本心なんだなってちょっと安心感が芽生えた部分でもありました。
お話の流れとしては暗いですが…しっくりくるのが、ジクエルなんだなと^^

…すごいなぁ、理乃さん。お忙しい中、本当にありがとうございました!




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