「ねえ…ママ。ホントに?本当にナツが、あたしをおんぶして帰ってきたの?」
「何度もそうだって言ってるでしょー!」
「…だって、全く記憶がないんだもの」
「ルーシィに何かある度、昔からナツくんがおぶって来てくれたのよねぇ」
ルーシィはまだ寝起きで、頭がボーっとしていた。髪はボサボサで、パジャマ姿のままウロウロと動き回る。
掃除機をかけている最中の母親に、彼女は同じ質問を繰り返して、困らせていた。
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴る。
「あら、お客さんだわ。ルーシィお願いね」
「…はーい」
――きっと、「おまえ太ったんじゃねえかー」と失礼なことを言われるわ。
ナツにはあとでからかわれると考えながら、玄関の扉を開けた。
「どちら様ですか…。って…な、ナツっ!?」
「あ、…ぉはよ、つってももう夕方だけどなー」
頭の中で浮かべていたその人が、目の前に居る。
放心状態のままルーシィは、ナツの声に耳を傾けた。
「おまえあれからずっと寝てたのか?」
「え、うん…」
思いがけない訪問者に戸惑いつつも、ジーっと自分を見てくる彼に、疑問符を浮かべる。
笑ったナツの顔を視界に入れて、小首を傾げた。
「渡したいモンがあってきたんだけど、…んじゃ、屋上で待ってっから着替えて来いよ!」
「え、着替えてって…?」
「オレは構わねえけどな」
自分の姿を確認して、ギョッとする。
――あたし、パジャマ!?恥ずかしいー!
「す、すぐ行くから待ってて!」
笑いながらナツが玄関から出て行く。扉を閉めて、ルーシィは自分の部屋へ直行した。
急いで着替えるとボサボサだった髪を整えて、青いリボンで結ぶ。普段通りにきちんとセットすると、鏡の前で最終チェックをした。
不意に昨日のカスミとの出来事を思い出して、段々と頬が赤くなってくる。
顔を左右に振り、両目を閉じた。
――大丈夫、あたしは…いつものルーシィよ。
パンと頬を叩き、目を開ける。鏡に向かって笑顔を見せた。
屋上に続く階段を、一歩一歩上って行く。扉を開く前に深呼吸をして、足を踏み入れた。
ナツが居る方へと駆け寄ったルーシィは、彼の肩を叩く。
「ナツ、お待たせ!」
「おう」
背を向けていた彼が振り返った。
「渡したいものって…?」
「ん、…コレ、ルーシィにやる!」
「え?」
ナツが足元に置いてあった大きな袋を手に持つと、きれいに包んであるそれをルーシィに手渡した。
「開けて良いぞ!バイト料溜めて買ったんだ」
「う、うん」
受け取ると手が震えて緊張気味のルーシィは、落としたら大変だとしゃがむ。
注意しながら、ゆっくりと包み紙を破った。
箱を開けてみると、中に入っていたものは――
「…コレ、地球儀!」
「おう、良いだろ!」
「でも、どうして…」
あたしにくれるのか、と見上げる。ルーシィと視線を合わせて、ナツもしゃがんだ。
彼はニッと歯を見せて笑い、彼女との距離を縮める。
「前に、オレの地球儀にさ、ルーシィの好きな国一コだけやるっつって、マジックで名前書いたことあったろ?」
「うん」
「あん時は自分で買ったモンじゃなかったけど、今度は自分の力で手に入れたから、おまえに…ルーシィに全部やる!」
「えっ!?」
ルーシィは、両目を大きく見開いた。そして、ナツを見つめる。
笑顔でいた彼の表情が急に変わり、真剣な瞳を向けられた。
「…オレ、世界中を回って恐竜の骨を探す夢を絶対ぇ叶えるから。ルーシィ、ずっとオレのそばにいてくれ!」
「…ナツ」
両手を伸ばして、ナツがルーシィの肩を掴む。若干引き寄せて――
「オレ…ルーシィが笑った顔見ると負けねえって、何でもやってやるぞって思える。…だから」
「うん。…うん」
頷いて微笑む彼女に、ナツも笑顔を返す。彼はスーッと息を吸い込み、吐き出した。
「オレは、ルーシィの笑顔を守りたい!」
ルーシィはナツの言葉に涙を浮かべたが、ゴシゴシとそれを拭う。
そして、満面の笑顔を見せて――
「…あたしも、ナツの笑顔を守るから…もう泣かない。ナツが笑ってくれるなら…ナツの一番近くにいられるなら――あたしは泣いたりしないから」
拭ったはずなのに、涙がまたすぐに零れ落ちる。
「おまえ、言ってる側から泣いてんじゃねえか」
「ち、ちがっ…泣いてな――」
頬に伝った涙を拭き取るフリをして、ナツはルーシィの頬に顔を近付けた。
チュッと、ナツの唇がそこに触れる。
「…え、ナツ!?」
「もう、泣かさねえ」
ルーシィを自分の腕で包み込むと、柔らかい弾力にナツは頬を染めた。
ギュっと抱きしめられた彼女は、真っ赤な顔をして彼の服を握る。
それが合図のように――ナツの声が耳に届いた。
「好きだ」
「…っ」
恥ずかしいのかルーシィは、ナツの胸に顔を埋めた。
二人の間に沈黙が流れる。
何の反応も見せない彼女の身体を放してみると、俯いて目を逸らすルーシィに、ナツは問い掛けた。
「…おまえ、もうオレのこと好きじゃねえのか?」
寂しそうな顔を向けて、彼は、気付くのが遅かったのか…と呟いた。
溜め息を吐くナツに目が点のルーシィは、フルフルと肩を揺らせて叫ぶ。
「どうして、そうなるのよ!」
「はあ?おまえが、何も言わねえからだろー!」
「だって…胸がいっぱいで、苦しかったから」
「なんだよ、それ!好きだって言ってもつらいのか!?わけわかんねー」
桜頭をガシガシと乱暴に掻くナツを見ていると、可笑しくなり、ルーシィは笑い出した。
「ナツらしいって言うか…」
「バカにしてんのか!?」
「あはは…」
一度、距離を取った二人の身体が、また近付く。ナツはルーシィを引き寄せて、彼女の首筋にスリ寄ってきた。
「ナツの髪、くすぐったい!」
「我慢しろよ…」
「もう…」
幼い頃から、一緒に居ることが当たり前になっていたあたし達。
自分の想いに気付いていなかっただけで、本当はお互いを大切に思っていたなんて――。
「…ナツ。あたしね、気付いてなかっただけなんだ。…あたしはずーっと前から、ナツが好き」
「オレもだ、ルーシィ」
きっと勇気がいっぱいいると思う。
大好きだって想い続けていくこと――
それでも、いつまでも一緒に居られるなら
あたし、
笑顔でがんばるから。
(終わり)
☆★☆★☆
書き始めていた時は、10話で完結する予定だったのですが…参考にしていた漫画から逸れてしまい、自分の妄想が膨らみ過ぎた結果、オーバーしてしまいました。
纏める力もなく、どんどん方向性が危うくなってしまって焦りましたが無事に完結出来てホッとしております。
意味不明な部分もあるかと思いますが…飽きずにここまでお付き合いくださり、私の文章を読んでくださって、本当にありがとうございました!
練習とはいえ、改めて自分の未熟さが良くわかって、恥ずかしくなりました(>_<)
もっともっと創作しないと上手くならないですよね。
私が書いたナツルーでも、楽しんでくださる方が居ると思って、また挑戦していきたいと思います^^
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