心配しないで…って言ったら嘘になるけど。
自分で解決しないと前には進めない。

でも、どうしたら良いの?
ナツにはどんな風にしたら、いいんだろう――。



放課後、ルーシィは委員会の準備で忙しくしているレビィを待っていた。
キリがついたとのことで、一度、教室に戻ってきてくれた彼女から、今日は予定外に時間が掛かると聞かされ、少し迷ってしまう。
帰ろうかとも考えたが、本でも借りてこようと図書室へ行くことにした。
静かな校舎の中、ゆっくり階段を下りて行く。

「…ナツ」

何をしていても桜色の彼を思い出して――
モヤモヤした気持ちのまま、無意識に彼の名を口に出していた。
夕日がルーシィの髪を照らしてくる。
窓ガラスに映る自分を見て、その姿に情けなくなった彼女は肩を落とした。
そんな時、透明感のある歌声が耳に届く。


――誰だろう…キレイな声ね。


吸い寄せられるように足を向けた。
すると、普段、生徒が立ち寄らない場所――立ち入り禁止と書かれてある看板を背にして、歌っている女生徒が居ることに気付く。
一瞬、見間違えかと目を擦ったが、間違いない。
あの子だ。

「…カスミちゃん」


うわー、こんなきれいな声で、

それに初めて見る。

…あんなに素敵な表情をするのね。

あたしってば何を見惚れて――


しばらく見入っていた自分の行動にハッとして、引き返そうと背を向けた。
俯いていた為、廊下の隅に置いてある掃除用具入れが目に入らず、鼻と額を強打した。

「いった…」
「え、何の音?」

ボゴンッと大きな音が響き渡り、すぐ側で歌っていた彼女が振り向く。

「あらら、衝突音のする所に必ずいる人だね、アンタ」

カスミはルーシィの元に寄り、しゃがんだ。
呆れたのか、右手を額に当てて息を吐き出している。

「…先輩、大丈夫?」
「うぅ…大丈夫じゃない、かも。痛い…」
「たくっ、もう世話が焼けるなー」

近くにある水道で、カスミはスカートのポケットからハンカチを取り出して、躊躇なく濡らしていた。

「はあ…こんなマヌケな人がライバルかと思うと情けない」
「あ、あたしは、もうライバルじゃないから…」
「それって…どういう意味?」
「……」

ぶつけてしまったところが熱を持ち、じわりじわりと痛みが増してくる。
ルーシィが涙目になっていると、

「はい、冷やしておいた方がいいよ、真っ赤になってるからさ」
「…うん、ありがと」

ハンカチを額に当てて、何度も冷やした。
赤みが多少薄れてきたことで、ルーシィはホッと胸をなでおろす。
横を向くと、本を読みながら待っていてくれた彼女に、再度お礼の言葉を掛けた。

「…カスミちゃん、ありがと。これ洗って返すわね」
「いいよ、別に」
「でも…」

目の前に右手を差し出され、早くと催促される。
ルーシィは渋々そこにハンカチを置いた。

「汚しちゃってごめんなさい…本当にありがとう」

笑顔を向けられたカスミはポリポリと頬を掻く仕草をすると、今度は頭を掻いて金髪が乱れた。

「あー、もうっ調子が狂う!!」
「え!?」
「私はねー、アンタをいじめて楽しんでるんだから!お礼なんか言わないでよねっ」
「…カスミちゃん?」
「それに、もうライバルじゃないってことは、…ナツ先輩からあの話聞いたってことでしょ?」

じーっと見つめられたルーシィが、キョトンとする。

「あの話って何かしら?」
「え、まだ聞いてないの?」
「何を?…あ、ううん、ナツは悪くないのよ。聞こうとしなかった、あたしがいけないの…」

ルーシィの発言に、カスミは疑問符を浮かべた。
どこか、かみ合っていないように感じつつも彼女が口を開く。

「ナツ先輩って自覚ないからねぇ。ルーシィ先輩も大変だ」
「…え?」
「もしかして、ルーシィ先輩…気付いてないわけ?」

腕を組み、そう話してくるカスミにルーシィは戸惑っているが、顔を左右に振った。

「…大丈夫よ、ナツはカスミちゃんのこと大事にしてるもの」
「……は?」
「あたし…何やってるんだろうね」

首を傾げているカスミを前にして、自分のことで精一杯のルーシィは、彼女の変化に気付かない。
「ルーシィ先輩?」と、自分を呼ぶ声にも全く反応を見せなかった。


カスミちゃんのことが怖くて、嫌な存在だったが、初めて見る彼女の優しさ――

それを知ったから、今はウジウジしてる自分がイヤになった。

あたし、強くなりたいよ。




だからもう逃げたくない。


弱虫のあたしを卒業するんだ。








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