大っキライで大好きな七つのこと





「わー、ありがと! グレイ大好き!」

ギルドの酒場にいると、耳触りの良いあの声で、ルーシィがそんなことを言うのが聞こえた。
――その内容が、全くもって気に入らない。

「どうしたんだ?」

オレがカウンターに駆けつけると、憎き変態クソ氷がルーシィの飲んでいるグラスに氷を入れてやっているところだった。

「あ、ナツ。今ね、グレイが氷を作ってくれたの。間違って氷抜きで頼んじゃったから助かったわ、ホントにありがと。グレイって優しいわよね」
「どういたしまして、お姫様。これくらいお安いご用だ」
「ふーん…」

我ながら面白くなさそうな声が出てしまった、と思った瞬間、グレイが耳聡くオレに絡んできた。

「何だよ、ナツおまえ、ルーシィが『大好き』って言ったことにヤキモチ妬いてんのか?」
「え、えっ!? そ…そうなの?」
「ち、違えよ! ヤキモチ妬いてんのはあっちだろ!」

正直言って図星だったが、背中がむず痒くなって何だか居心地が悪くなり、オレは慌てて柱の方を指差した。
怨念のようなものがカウンター一帯を包む。

「こーいーがーたーきーーー」
「ち、違うのよジュビア! さっきのあれは、挨拶って言うかお礼って言うか、べっ別に変な意味は……!」
「まためんどくせーことになった…」

何やら揉め始めた三人を置いて、オレは一人もの思いに耽っていた。

――何だよ、オレには一度だってそんなこと言ってくれないくせに。
グレイなんかより、オレの方が普段よっぽどルーシィのこと助けてるっつーの。

そういえばルーシィは、エルザやレビィなんかにもよく「ありがとー! 大好き!!」と言っている。
なのに、何でオレには全然そういうこと言わねえんだよ?
何だかムカムカしてきたオレは、揉め事が落ち着いてカウンターへ戻ってきたルーシィに、ここぞとばかりに因縁をふっかけた。

「ふざけんなよ…」
「は? いきなり何よ?」
「――おまえさ、挨拶とかお礼で、あんなん乱発すんなよ」
「だから、何の話?」
「さっき言ってただろ、『グレイ大好き』ーって」
「ああ、あれ。さっきも言ったでしょ、ただのお礼だってば。別に深い意味はないわよ」

彼女は赤い顔もせずにケロリと言い放った。オレは余計に面白くない。
深い意味がないんなら、オレにも言ってくれたっていいだろ。オレだって、ルーシィの「大好き」が欲しい。
次に何かしてやったら、「好き」って言ってくれるだろうか。

しかしルーシィは、こっちの思惑も知らず、とんちんかんなことを言い出した。

「あたしは博愛主義なの。世の中は自分の大好きなもので溢れてるって考えるようにしてるんだ。ナツだって、『キライ』って思うより、いーっぱい『好き』って思って口に出す方が、人生楽しいでしょ?」
「んん、意味わからん。どういうことだ?」
「そぉね…例えば、お日様が好き、とか。今日もお天気が良くて嬉しいなーって感じられるでしょ?」
「ふうん。じゃあ雨はどうなんだ?」
「雨も好きよ。だって雨の音って心地いいじゃない。あと、お気に入りの傘差してレインブーツが履けるし、家で読書しながらゆっくりできるから、あたしは雨の日も好きだな。人生を楽しむ秘訣は、何か嫌なことがあっても『やだな』とか『キライ』って考えないことよ」

何となくルーシィの言いたいことは分かってきた。要するに小さな幸せ探しか、カワイイ奴だな。
それより、もっとルーシィの声で「好き」が聞きたくなった。
ルーシィの紡ぐ「好き」を聞くのは気持ちいい。オレはさっきまでの目的も忘れ、頭をフル回転させて、パッといいことを思い付いた。

「じゃあ、ルーシィにはこの世にキライなもんなんかねえんだな?」
「ふふん。そんなもの一つもないわよ」
「じゃあ虫は?」
「う…いきなりそう来たか。いあ、でも虫も好きよ? 小さくて可愛いでしょ」
「ホントかよ」
「ホントよ。どーお? 苦手なものでも少しでもいいところを見付けようと、日々あたしは努力してるんだから」

あたしって殊勝でしょ、と得意げにそう言い切ったルーシィは、完全にオレの術中に嵌ってくれた。ホントに単純な奴だ。
オレは内心ニヤリとしつつ、口を湿らせた。これでルーシィの「好き」がいっぱい聞ける。

「じゃあ、ゲームな。オレが一つずつ名前を挙げてくから、ルーシィは好きかキライか、理由も付けて言ってけよ。好きな理由が言えなかったりキライなもんがあったりしたら、オレの勝ち」
「な、それって勝ち負けとかあるの!?」
「負けたら罰ゲームだからな!」
「ちょ、何よそれ、あたしまだやるとか言ってないわよ!」

強引に押し進めれば、ルーシィを罠にかけるくらい朝飯前だ。何たってこいつは、押しに弱い。
彼女の意思などガン無視して、オレはサクサクと話を進めた。

「じゃあ、一問目。仕事はどうだ? 十秒以内に答えないと負けだぞ」
「し、仕事? そりゃあ好きよ。お金は入るし、冒険できてワクワクするもの」
「相変わらずガメツイ奴だな。じゃあ、次いくぞ。えーと…」
「――それじゃあ、私から二問目ね。ルーシィは、お使いも大好きよね?」

いきなりカウンターの向こうから、オレ達の話を聞いていたらしいミラが割り込んできた。
え、と押し黙ったルーシィに、畳みかけるようにニッコリと言い募る。

「だってキライなものなんか、この世に一つもないんだものね? ルーシィ」
「あ…あい、あたし、お使い大好きです…」

だってお出かけできるから、と慌てて付け足したルーシィの目には、キラリと涙が光っていた。







お使いの途中、オレはルーシィを手伝いながら、まだゲームを続けていた。
後で「手伝ってくれてありがとう、ナツ大好き!」と言ってもらう算段だが、オレはすっかりルーシィの紡ぐ「好き」の中毒になっていた。

「じゃあ、空は?」
「空も好きよ。季節や時刻によっていろいろ色を変えて、見てるだけで気持ちいいもの」
「あー、何か分かる気すんな。だったら、雲は?」
「雲も好き。空と同じ理由もあるけど、何か、あの上にはもしかしたら天国があるかも…って空想すると楽しいじゃない?」
「はは、ルーシィらしいな」

単に「好き」って声を聞くだけじゃなくて、ルーシィが何かを「好き」な理由や、考え方を知るのは気持ちいい。
ゲームを中断するのがもったいなくて、オレは目に付いたもの全てを題材にする。

「んじゃ、次な。花は?」
「花も好きよ? 可愛いし綺麗だし、癒してくれるし。風が吹いても雨が降ってもメゲずに咲いてるのを見ると、励まされる気がするもの」
「草もか?」
「うん、草も好き。人間に踏まれても自力で起き上がって、たくましいでしょ。あの根性は見習わなきゃね」
「ふうん…何か、ルーシィみたいだな」
「女の子に『たくましい』って、それ全然誉めてないからね?」

――何だよ、おまえが可愛くてオレの力の源で、何事にも一生懸命で、強い意志を持ってて絶対に諦めない奴だ、って誉めてんのに。
全く、本好きのくせに行間を読む能力に欠ける奴だな。

ルーシィはプリプリと「失礼しちゃう」とか「どうでもいいけど重い」とかボヤキながら、紙袋を右手で抱え直している。おいおい、重いのは全部オレの袋に入ってんだろ。
人に持たせといて、これは後で「ナツ大好き」を三回くらい言ってもらわねえと割が合わねえな。
まあ、手伝いを申し出たのは他でもないオレ自身なんだが。

ところで唐突だがここでオレに問題が発生した。
これまで、いちいち一言何かしら感想を入れて時間を引き伸ばして来たが、そろそろネタがなくなってきたのだ。

「じゃあ、次は…、うーん……」
「そろそろネタ切れなんじゃない? あたしの勝ちね」
「――あっ、じゃあフェアリーテイル! これはどうだ!」

ルーシィの右手のピンクの紋章のおかげで閃いた。ギルドの人間の名を一人ずつ挙げていけば、まだしばらくはネタが持つ。まずはギルドだ。
これでルーシィの「好き」がもっと聞ける。そう思って内心ほくそ笑んだオレに、ルーシィは予想外にも満面の笑みで答えた。

「フェアリーテイル!? 大好き!」

ニコニコと、本当に大好きだと伝わってくるような笑顔に、オレは完全にノックアウトされた。
ルーシィを罠にかけているつもりが、自分の方が罠に嵌められた気分だ。

「家族みたいにあったかいし、皆いい人ばっかりだし。本当にあたし、毎日が楽しくて仕方ないの。―――全部、ナツのおかげね」

――ちょ、それは反則だろ…!
彼女はまだニコニコしながら、「あの時ナツ達に会わなかったらギルドに来ることもなかっただろうし」などと言っている。ダメだ、それ以上はオレが死ぬ。

「そ、そりゃ良かった。じゃあ、次の店、行くぞ」
「あ、ちょっと待ってよナツー!」

ルーシィが買い物袋を抱えてトコトコと付いてくる。オレはルーシィの先を歩きながら、赤い顔を悟られないようマフラーを口元まで上げた。
しかし必死にギルドのメンバーの顔を思い浮かべようとしても、頭に浮かぶのはさっきのルーシィの笑顔だけだ。
オレは相当こいつに参っているらしい。どうしようもなくなって、時間稼ぎにとりあえず口を開く。

「つ、次はギルドのメンバーでいくからな」
「ああ、ハッピーとか?」
「そ、そうだ。ハッピーはどうだ?」

思わぬ助け舟を向こうから出してくれて、オレはやっと正常な思考に戻ることができた。

「ハッピーも、もちろん好き! だって、何だかんだ懐いてくれて、可愛いんだもの」

ルーシィにそんな風に言われて、ハッピーめ、羨ましい奴。そんなオレの気持ちも知らず、この後もルーシィは延々とギルドのメンバーを一人一人「好き」と言い続けた。







全ての買い物が終わって、ギルドへ帰る途中でも、まだゲームは続いていた。

「じゃあ次は…ガジル!」
「ガジル? そぉねえ、んー…」
「お、理由見付かんねえか、それともキライなのか?」
「ちっ違う! 昔は色々あったけど、今は仲間だし普通に好きよ? ギター弾いて歌ったり、結構あれで面白いとこあるし」

ガジルには昔ひどいことされたってのに、ちゃんと今は「好き」だなんて、こいつは本当にいい奴だな。
何だか、オレの方がルーシィに「好き」って言ってやりたい気分だ。
ルーシィはこっちの気持ちは露知らず、隣でふふんと鼻を鳴らした。

「ナツ? どうしたの。もうこれで全員言ったんじゃない? 次は何ネタが来るかしら」
「いあ…ちょっと待て、今考えるから」
「早くしなさい? じゅーう、きゅーう、はーち…」

そういえば、こいつはオレのことどう思っているんだろう。そりゃゲームだし「好き」って答えるだろうけど、その〈理由〉を、どうしても聞きたくなった。
オレは、トッと大股で足を一歩踏み出し、ルーシィの正面に立った。
彼女が、顔を上げる。

「じゃあ、――オレは?」
「え、………っ」

本人から聞かれるとは思っていなかったのか、ルーシィが一瞬で赤くなる。
オレは、尚も問いかけた。

「オレのこと、好きか? ルーシィ」
「………っ、ナ、ナツは、あたし、――す、好き…だ、けど」

最初からこれが――これだけが聞きたかったような気がする。オレは満足してニッコリした。
ルーシィは今や、照れているのか耳まで真っ赤になっている。

オレの時だけ、赤くなったとことか、妙に間が空いたとことか、目をそらしたとことか、語尾が消えるように小さくなってったとことか。
何だか他の奴らと反応が違うような気がして、オレだけ「特別」と言われたように思えて、嬉しくなった。
もっとルーシィの「ナツが好き」が欲しくて、ウキウキと問い重ねる。

「じゃあ、オレのどこが好きなんだ?」
「ど、どこって…」

ゲームのルールに従って〈理由〉を聞いただけなのに、何故か赤い顔で瞳まで潤ませ始めたルーシィに。
オレは懲りずに更に一歩近付いて、至近距離で顔を覗き込んだ。

「ちっ、近い!」
「ルーシィ。オレを好きな理由は、何だ?」
「〜〜〜〜っっ…」

面と向かって言うのが恥ずかしいのか、ルーシィは首まで赤くなってしまった。
このままだとオレの勝ちだが、もうそんなのどうでもいい。早くルーシィの口から、オレのどこが好きなのかを聞きたい。

「おい、ルーシィ?」
「………っ、」

早くルーシィの言葉が欲しくて催促すると、彼女はキッとオレを下から睨みつけた。
そして、よりによって真逆のことを叫びだした。

「ナ、ナツなんか、やっぱ大っキライ!!」
「―――へっ!?」

オレは天国から地獄へと突き落とされた気分だった。やっと、ルーシィの「ナツが好き」を聞けたとこだったのに。

「な、何でだよ!? 他の奴らは皆『好き』って言ったじゃねえか!」
「だ、だって他の皆のことは普通に好きだもん! でもナツは、やっぱりあたし、キライ!」
「何で! さっきは『好き』って言ったのに、何でオレだけ『キライ』なんだよ!? 『やっぱり好き』って言えよ、取り消さねえとおまえの負けだぞ!?」
「もっもお、何でもいいでしょお!? もうあたしの負けでいいから!」
「そこまでキライなのかよ!?」

大きな目に涙を浮かべながら自分だけ「キライ」と言われて、オレの方こそ泣きそうだった。
ギルドの中で自分が一番、ルーシィに近い位置にいると思っていたのに。よりによって、泣くほど嫌われていたなんて。
ルーシィは尚も涙目で応戦してくる。

「だ、だからもうこの話はおしまい!」
「ちょっと待てルーシィ、負けたら罰ゲームあんだぞ? おまえ、ホントに負けでいいのか!?」
「いっいいもん、既に罰ゲームみたいなもんなんだから、それくらい受けて立つわよ!」
「オレのこと『好き』って言うのが罰ゲームかよ!?」

オレは本気で泣きたくなった。
どんだけ嫌われてんだ、やっぱあれか、不法侵入したり下着で遊んだり風呂場に乱入したりベッドに潜り込んだり乳を生で鷲掴んだりしたのが悪いのか。

「わ、分かった。じゃあ罰ゲームでオレの好きなとこ、一個でいいから言え」
「ちょっと! 罰ゲームになってないじゃない!!」
「いいだろ、おまえオレだけ『キライ』とか言ったんだから、キライな奴の好きなとこ探すのが罰ゲームで」

ルーシィ に少しでも誉めてもらわないと、面と向かって言われた「キライ」の威力から立ち直れそうになかった。
彼女は少し迷う素振りを見せた後、赤い顔のまま小さな口を開いた。

「…やっぱナツなんかキライ」
「おい!?」
「キライな理由なら何個でも挙げられるわ! それでいいでしょ!?」
「よくねえ! 罰ゲームになってねえじゃねえか! 好きなとこ一個くらい言えよ!」

オレは涙目で何とか「キライ」を取り消させようと躍起になった。
やっぱこいつは残忍な奴だ。何でこうなるんだ、これ以上オレを地獄に落として楽しいのか。
ああ、でも、こんな残忍なルーシィでさえも、オレは好きなんだ。それなのに、何でこんな目に遭ってるんだろう。

――神様、オレ、何かしましたか?



――神様、あたし何かしましたか?

何が悲しくて気になる人に面と向かって「ナツが好き」だとかその〈理由〉を言わなきゃいけないの? 途中まではナツの感想にあたしの考え方を肯定してもらえてるみたいで、――まるでナツに「好き」って言ってるみたいで、夢中でこのゲームを楽しんでたっていうのに。
ああ神様、彼への気持ちを素直に認める勇気がないあたしへの、これって意地悪ですか?
あたしは〈ナツを好きな理由〉から逃げるように言葉を放った。

「…やっぱナツなんかキライ」
「おい!?」
「キライな理由なら何個でも挙げられるわ! それでいいでしょ!?」
「よくねえ! 罰ゲームになってねえじゃねえか! 好きなとこ一個くらい言えよ!」

ナツは涙目になっている。泣きたいのはあたしの方だわ。ホントはナツの好きなとこなんて、一つだけじゃなくて七つは考えなくてもスラスラ出てくる。
でもそれを本人に言うなんて、何の罰ゲームなのよ。
あたしは必死にこの話題を終わらせようと、勢いに任せてナツの「キライ」なとこを並べていった。

「だってナツなんか、単純だし、直情型だし、喧嘩っ早いし」

ダメだ、心の中に何だかんだで「そういうコドモみたいなとこも好き」って思うあたしがいる。
これじゃ〈好きな理由〉を述べさせられてるみたいじゃない…!

「熱血バカだし、人の気持ちにドカドカ踏み込んでくる自分勝手な無神経だし、いつもワイワイギャーギャー騒がしいし。えーと、あと…」
「ま、まだあんのかよ?」

ナツは次々に〈キライな理由〉を挙げていくあたしを見ながら、半泣きになっている。
でもホントにキライなとこなんか、探したところで一つも見付からない。
だって、正直あたしは、ナツのことキライだなんて思ったこと、一度もないもの。
ああは言ったけど、ナツが単純だけど本当は素直で、直情型だけどまっすぐで、喧嘩っ早いけど実は仲間想いなヤツだってこと、あたしはちゃんと知ってるもの。

(あたし、ナツのこと、もしかしてホントに好き…なのかな)

ずっと一番近くにいて気になる存在ではあったものの、さっき「好き」って口に出した途端、こういう風に考えてしまう自分の恋愛脳を自覚して何だか恥ずかしくなった。
ナツは熱血バカだけど本当はあったかくて、無神経だけど時々残酷なくらい優しくて、騒がしいけど一緒にいると、楽しい。

(――うん、好き、なのかも)

こんな気持ち今まで知らなかった。ナツを好きって思ったら、何だか心がポカポカしてきた。
なのに、意地っ張りで素直になれない自分がつくづく嫌になる。
いいとこを思い浮かべながらも、あたしは悪い言い方しかできない。あたしが本当にキライなのは、ナツに向かって残忍な言葉を吐くあたしだ。
でも、口から流れ出す言葉が止まらない。

「一番キライなとこは、…あたしをこんなにしたとこよっ」

全てをナツのせいにしてしまいたかった。恋って残酷だ。
ナツのこと好きなのに、素直なルーシィはどこ行っちゃったんだろう。これじゃ、あたしの方こそ嫌われちゃう。
視界が真っ暗で、息ができない。

でもナツは、嫌うどころか実にナツらしい言葉をあたしに返してくれた。

「??? こんなって、何が。ルーシィはルーシィだろ?」

――ほら、そういうとことか。あたしをありのまま受け入れてくれるとことか、大好きなんだ。ナツの何気ない一言が、あたしの心を溶かして、温かくしてくれる。

「…ありがと」
「何がだ?」

やっぱり自分の言葉があたしを救ったことなんて、全然分かってない。
そういうとこも好きだなあ、と思った。今は恥ずかしくて本人にそんなこと言えないけど。
でもナツの言葉に勇気をもらったあたしは、少しだけ素直になることにする。

「ね、ねえ、さっきの罰ゲーム、やっぱりやるわ。ナツの一番好きなとこ、教えてあげる」
「いいのか!?」

ナツはぱあっと顔を明るくした。あたしの言葉一つでそんなに喜んでくれるなんて。
いつか「大好き」って言ったら、どういう反応してくれるんだろう。
まだそこまで素直になれない代わりに、あたしは今の自分にできる精一杯の告白をした。

「一番好きなとこも、…あたしをこんなにしたとこよ」

全てをナツのせいにして、あたしは満足した。恋って素敵だ。ナツを〈好き〉って思うだけで、何もかもがキラキラと輝いて見える。
自然と笑みがこぼれた。いつかナツに、こんなあたしを好きになってもらえますように。

「だから、あんたなんて大ーっキライ」
「…はぁ??」

顔中に疑問符を並べたナツを残して、あたしは颯爽と歩き出した。多分あたしの顔は真っ赤だろう。

アイツはあたしに汚い感情も綺麗な感情も教えてくれる。
ナツのキライなとこも好きなとこも、結局は同じだった。それはあたしをこんなにしたっていうとこ。

――あんたに恋する乙女にねっ。







「だから、あんたなんて大ーっキライ」
「…はぁ??」

赤くなって満面の笑みでそんなこと言われても、オレには全く説得力がなかった。
だって他の奴らのことを言ってる時は、「好き」と言いつつもあんな花の咲くような笑顔じゃなかった。
やっぱりオレだけ言葉とは裏腹に「特別」だって言われてるような気になって、

「ん、じゃあキライでいいや」
「え?」

オレは大股で、振り返ったルーシィとの距離を詰めた。紙袋の中の、ニンジンが揺れる。
目の前のルーシィは、キライな相手に対してとは思えないほど、赤い顔のまま少し潤んだような綺麗な瞳でオレを見上げた。

「ナツ…?」

じっとオレを見るその視線の熱っぽさは、さっき柱の陰からグレイを見つめてたジュビアのものと同じで。
いつものルーシィの、オレ以外の奴と話す時の瞳じゃなかった。

(――やっぱこいつ、「特別」な意味でオレのこと〈好き〉なんじゃねえの?)

オレは空いている方の手で、ルーシィの頬をそっと触った。彼女の身体が、ビクリと跳ねる。
人より敏感なオレの感覚に、トクントクン、からドクンドクン、と音を変えた、ルーシィの心臓の揺れが伝わってくる。

「キライでいいから、その代わり、」
「な、何よ」

その瞳の熱さが、その頬の赤さが、その鼓動の速さが教えてくれてる。
ルーシィは、今オレに全身でドキドキしてるって。口では何て言ってても、身体までは嘘吐けねえよな、ルーシィ?

(必要ねえか、オレ達の間に明確な言葉なんて)

「オレのこと『キライ』って言った罰ゲームな」

そう言うが早いか、オレは。
行動で自分の気持ちを伝えるために、その生意気な赤い唇を、思い切り塞いでやった。


〜And the 7th thing I hate[like] the most that you do〜
それから七つ目の、あたしがあんたの一番大っキライ[大好き]なとこはね
〜You make me love you〜
あたしを恋する乙女にしちゃうとこよ



出典:Miley Cyrus『7 Things』

☆★☆★☆
Milestone:miles-to-go(マイルズ)さまより、頂戴しました。
一番のお気に入りの小説なんですよね〜恋みくじと迷いながら、こちらを投票させていただき…。興奮しながらメールを送ってしまった覚えがあります…汗。
許可をいただいたのでお言葉に甘えてお持ち帰りした…遠慮の知らない、私。ふふふ*^^*
Pixivで投稿されていらした時から、マイルズさんが執筆したナツルーのファンになりまして!いつも素敵だなーとウットリしておりました。
ナツの想いとルーシィの想い…そちらに感情移入しながら、惹き込まれていきました。
ここが好きな場面だとか、台詞とか…色々書き込んだものを送ってしまったような…、今思うと落ち着いてから送らなきゃ…とお恥ずかしい気持ちです(笑)
ナツとルーシィの二人らしさが感じられる、すごく好きな作品です!何度も読もうっと。
マイルズさん、ありがとうございます。
今後も素敵なキュンキュンする二人を見させてくださいませ^^応援していますね!





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