Perfume of love   


※恋人未満ナツルー







くんくん、とソファに座るなりナツは鼻を鳴らした。甘い香りが近くから――横に座るルーシィの顔から、フワフワと漂ってくる。

「何だこの匂い? シャンプーは変えてねえよな?」
「ちょ、近い近い!」

いきなり至近距離で顔を近付けてきたナツに、ルーシィは赤くなって身を退けた。
ふう、と息を整えると口元をぴっと指し、得意げに彼に向き合う。

「新作のイチゴのリップよ、可愛いでしょお」
「はいはい可愛い可愛い」
「超ムカつく…どうせリップサービスすんならもう少し感情込めなさいよ!」

ひとしきりプンスカ怒った後、彼女はすぐに機嫌を直してウキウキとリップの説明を始めた。

「これね、香りが付いてるから空腹の時にもいいのよ。イチゴ食べた気分になって節約にもダイエットにもなるし、あたしってば天才ね」
「自己暗示なんて悲しい奴だな。つーことは美味いのか?」
「うん、ちゃんと味もするわよ」

よほど自慢したかったのか、ルーシィはツッコミを投げて「いいでしょ」とツヤツヤした唇をナツに見せつけた。
ふうん、と呟いた後、匂いを確かめるようにナツが顔を寄せる。確かに彼女の唇からはイチゴの匂いがした。美味しそうな、甘い香りが。
そこで彼の意識は途切れた。

「じゃ一口くれ」
「え」

そう言うとナツは無遠慮にベロリとルーシィの唇を舐め、おまけにご丁寧にちゅっと音を立てて離れていった。
彼女はたった今自分の身に何が起こったか分からず、呆然とした。唇に残る、柔らかい感触。――今のは。

「ん、美味え」

ナツが味わうようにペロリと自分の唇を舐めるのを見て、ルーシィはやっと我に返った。かああ、と真っ赤になりギャンギャン喚き始める。

「ばっ…ばか! 何すんのよ!? しかも美味いなんてあんた、一体何考えて…」
「何って、味見?」
「……ムカつく」

相変わらずの肩透かしに、ルーシィはガクリと項垂れた。
大切なファーストキスを、こんな形で奪われてしまった。ナツはとんでもないことをしでかしておいて飄々としている。
彼にとっては恐らく果物屋の試食と一緒なのだろう。こんなの、キスなんかじゃない。ナツは全くそんなこと意識していない。

(――そうよ、こんなドキドキ、気のせいよ。ちょっと嬉しかったなんて、絶対に気のせいよ!)

犬にでも噛まれたと思って忘れよう。そう自分に言い聞かせて、ルーシィは文句を並べ立てた。
ナツは自分の行動がどんな意味を持つかなんて、100%確実に分かってない。彼女は一般常識の観点から彼を責めることにした。

「あのねえ、恋人でもない女の子に、勝手にこんなことしていいと思ってんの? こういうのは特別に好きな子にしかしちゃダメなの!」
「何言ってんだよ、ルーシィだからするんだろ」
「な、何それ…」

彼はどこまでも自分の領域に踏み込んでくる。不法侵入に始まり、どんどん距離を詰め、遂にはこれだ。
あたしってそんなに何でもありだと思われてるのかしら――惨めだ。
涙目で肩を落としたルーシィに、ナツはそっぽを向いて言い放った。

「こんなこと、おまえにしかやんねえよ」
「え」
「したいからしたのに、何か文句あんのかよ?」
「ちょっと、何開き直ってんの!? あるに決まってんでしょ! 大体ね、あたしにしかしないって、したいからしたって、どう…いう……」

自分の言葉で彼を責め立てる気持ちが削がれた。
キスは、ルーシィにしか、しない。キスしたいから、した。確かにナツはそう言った。――それって。

(え…、えぇ……!?)

意味を理解した彼女が、ゆっくりと耳まで赤面していく。ナツは横目で確かめて、ポソリと言い添えた。

「ルーシィが嫌なら、もうしねえけど」

彼女は顔を下げて赤くなったまま、きゅっと膝の上で両手を握り締めた。
こんなファーストキス、ありえない。昔から憧れてたのと全然違う。
それなのに――悔しいけど嫌じゃなかった、なんて。もう一度ナツとの初めてのキスをやり直したい、と思ってるなんて。

「…ルーシィ?」

一向に返事をしない彼女を、ナツが焦れたように覗き込む。
ルーシィは今や全身赤く染まっていた――先ほどリップクリームを舐め取られた唇が、燃えるように熱い。
意を決して顔を上げると、不安げな表情のナツと目が合った。途端に胸がキュンと鳴る。
――ええい、女は度胸だ。決してこんなこと、ナツとだけしたいわけじゃないけど。
恋とかそんなの、絶対違うけど。でもこれは、あたしからの“リップ”サービス。

「い、嫌なんて言ってないでしょ!」

彼女は思い切って顔を上げるとナツのマフラーを引き寄せ、ぷちゅっと自分から口付けた。




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Milestone:miles-to-go(マイルズ)さまより、頂戴しました。
こちらを見させていただいた時、沈んでいた時だったので一気に浮上しましたね〜
すっごく嬉しくて「欲しい」と言ってしまったのです。自分のサイトにお持ち帰りできるのは、有難いことですね。
しかも、めっちゃ可愛い二人ですし!私の名前から…『意味が“恋の香り”』のお話ですものね!(口元が緩む)
『恋のパルファム』私は一夜さんも好きですので、問題ありませんよ!ふふふ。

読む度にキュンキュンしちゃいます!
さらりと言い切る火竜さん…ルーシィは毎回大変ですね。
でも、それが一番楽しいんです!(第三者にとっては(笑))
最後には積極的なルーシィ。そんな一面も可愛くて愛おしいです!

側で見たいくらいドキドキしちゃう二人の姿…素敵なナツルーをいただけて本当に嬉しいです!感謝します^^
ありがとうございました!






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