プレゼント:ナツルーハピ






もうすぐハッピーの誕生日だ。
相棒への誕生日プレゼントを買いに行こうと、ナツは当たり前のようにルーシィを誘う。
もちろん主役には内緒の為、その日はシャルルに協力を得て二人だけで出掛けることができた。



☆★☆★☆



仕事以外で外出するのは初めてではないが、二人っきりというシチュエーションには、やはりどこかで期待してしまう。
ルーシィは密かにデートのようだと心の中で呟き、頬を染めていた。
隣の様子が気になったようでチラッと目を向けたが、両頬を膨らませて視線を逸らしている。
自分を誘ってきたその人には全く変化が窺えず、不満げの様子を見せていた。
ナツは首を傾げる。

「なんだルーシィ?」
「…なんでもない」

普段は青いリボンがトレードマークの彼女だが、今日は髪を下ろして少しでも大人っぽく見られたら…と考えて、鏡の前で何度も迷いながらおしゃれをしてきた。
そんな彼女とは違い、隣を歩く彼は服装も行動も相変わらずだった。
しかし、ルーシィが気付かないところで、度々彼女の方へと視線を向けているナツの姿が映る。
もし、二人と一匹でいたならば、いつもの如く緩んだ口元に前足を当てている相棒が見れただろう。



☆★☆★☆



ハッピーのプレゼントは何が良いか――

一番に喜んでくれそうなものはシャルルに関係するものだろうと色々迷った。
だが結局行き着く先は、いつも美味しそうに頬張って食べている大好物のもの。
新鮮なそれを箱いっぱいにたくさん詰め込んで、プレゼントしようと決めていた。

「ハッピー喜んでくれると良いわね!」
「おう、絶対ぇ飛んで喜ぶぞ!」
「うん、そうよね」

小さな背中から翼(エーラ)を羽ばたかせて、飛びついてくる青い子猫の笑顔が浮かぶ。瞳を合わせた二人は、同時に笑っていた。
ナツのマフラーが風に靡く。すると、何気なくルーシィの口から自然と零れた。

「そういえば…いまだにナツの歳ってわからないわよね、でも誕生日はわかるの?」
「誕生日?…オレ、知らねえや」
「……」

いつも通り無邪気な笑顔を見せるナツ。
そんな彼から突然笑みが消え、ゆっくりと空を見上げるその人の横顔から察した想い。

――イグニールのこと、思い出しちゃったのかしら。

話題を変えたくて咄嗟に思い浮かんだことは、

「…そ、それじゃあさ、ナツは欲しいもの何かあったりする?」
「んあ?…ほしいモン?」
「うん」
「オレにもくれんのか!?ルーシィ太っ腹だな!」
「ふっ!?…太っ腹って、アンタが言うと違う意味に聞こえるわね」

ナツより一歩前で足を止める。ルーシィは左手にカバンを持ち変えて、振り返った。
風に揺れる金髪を右手で押さえて楽しそうに笑顔を見せる彼女を見ながら、ナツは口を開く。

「ほしいモンだろ。…おっ、あるぞ!」
「高いものはダメだからね!」
「いんや、金は掛からねえし、…ルーシィじゃねえと無理なモノだ!」
「ん?なぁに?なぞなぞみたいね」
「わかるか?」
「…よくわからないけど、お金がいらないってところは助かるわ!良いわよ、それで」
「ふ〜ん、…ホントに良いのか?」
「へ?…う、うん。」

――何だろ?

「んじゃ、今もらうぞ!」
「今!?…って、ちょ、…ちょっとナ、…っ!!」

一回り大きなナツの左手が、ルーシィの右手を強く掴んだ。
突然のことで驚きを隠せない彼女の身体が勢いのまま傾いた瞬間、ナツの右手はルーシィの腕を掴んで離れないように自分の胸元へと引き寄せる。
「ナツ」と、目の前に見える彼の名前を呼ぼうとして顔を上に向けた途端、桜色が視界いっぱいに溢れた。

「……んぅ、」
「……」

ナツは閉じていた瞼をゆっくり開き、重なっていた唇を放す。
大きな瞳を開けたまま放心状態のルーシィ。

「ほらなっ!金、掛かんなくて、ルーシィじゃねえとダメなモン、…だろ?」
「な、何言って…」

まさかナツにキスされるなんて、予想外であった。
ルーシィは唇を押さえながら耳まで真っ赤に染めて、涙目で戸惑っている。
けれども、白い歯を見せて満面の笑顔を見せるナツには逆らえない。
恥ずかしいのだろう、俯くルーシィの頬に手を添えて上を向かせながら、もう片方の手で金髪をそっと撫でた。

「ルーシィが髪下ろしてると、…思い出すな」
「…へ?」
「S級試験の…、天狼島の戦い」
「あ、…あの時ね」

戦闘中、ルーシィは危険な状態であった。そんな辛い時にも微笑んだルーシィの姿を、ナツは目の前にいる彼女と重ねて見ていた。
その出来事だけではない。たくさんの想いが甦ってくる。

「オレ、――やっぱ、…いあ、なんでもねえ」
「…な、何よナツ?言いなさいよ!」
「あー…、だからな、あん時のこと、思い出しちまうんだよ」
「ナツ?」
「傷付いたおまえも…、よくわかんねえけど。いつもの髪形の…、ルーシィが、オレは良い!」

そっと目線を逸らしたかと思うと、金髪を撫でていた手が後頭部へ回され距離が再び縮まった。
ルーシィは慌てて押し返そうとナツの胸元へ両手を置く。
それと同時に――

「…つーか、もっかいしてえんだけど」
「……へっ?」
「もっかいしてえの!」

耳元で叫ばれ驚いたが、恥ずかしそうに頬を染める彼に一瞬、胸が高鳴った。
しかし、素直に放たれた望みのものを二つ返事で簡単に捧げるのは、

――面白くない。

それならば、


「だから何を?」
「っ!?…おまえ、わざと言ってねえか?」
「ん〜?よくわかんなーい」

人差し指を唇に当てて、小首を傾げて見せた。
今の彼ならどんな反応を見せてくれるか楽しみで、わざと可愛い仕草をして遊んでみる。







「ルーシィ…今日はいつもと違って可愛いね、ナツ!」
「…そうだな」
「いつもと違うって、失礼ね!――え?」

桜色の髪から見え隠れする青い尻尾が、白い羽が――突如現れた。

「「ハッピー!?」」
「あい!」





☆★☆★☆


「…二人とも何してるの?オイラには内緒のこと?」
「ち、…違うわよ!」
「でもシャルルから、今日はデートだから邪魔しないであげなさいって言われたんだ、オイラ」
「デートじゃな、」
「おぅ、デートしてたんだ。なっ、ルーシィ!」
「ナツっ!?」
「くふふ、…やっぱり、でぇきてぇるぅ……。あれ?」

上手く誤魔化したように見えたが、誤魔化しきれるハズがない。
好物の匂いに敏感な子猫の目が輝いた。
大きな箱に興味を示すハッピーに、ホラっと渡した。箱を開けて嬉しそうに頬を染めている。
驚かせようとしていた計画は狂ったが、予想通りハッピーは飛び跳ねた。
そして、くるりと宙を回る。

「ルーシィ、このお魚たち焼いてー!」
「今日はオレも魚で良いぞ!」
「えーこれは全部オイラの!!」
「ちょっと喧嘩しない!…ナツには肉があるわよ」
「ルーシィ…オマエ良い奴だよな!」
「あい!」
「もう仲直りしたの!?」
「腹減ったし…早く帰ろうぜ」
「あいさー」
「…もう、勝手なんだから」

翼を休めて腕の中で甘える青い子猫の頭を撫でているルーシィは、怒りながらもすぐに笑顔を見せてくれた。
ナツはそんな彼女を見つめて自分も笑う。


二人にとって――今はまだ、この距離感が自分達らしいのかもしれないと、そう思っているように感じた。









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