「あっ!あたし甘いもの食べたいなー。…ドーナツにしない?」
「ヤダ」
「えー、ケチ!」
「バーガー屋にも甘ぇモンあんだろ?」
「それなら、ジャンケンしよう!」

真剣な瞳で右手を構えている少女を目に入れて、ぷっと吹き出すナツに首を傾げる。

「な…何?」

ジャンケン、とルーシィが声に出すと、右手を前に出した。

ナツがグーを出して、ルーシィはチョキを出す。

「オレの勝ちー」
「あたし、ジャンケン弱すぎかしら…」

前にもこんなことあったような…と思いながら、ドアに手を掛けたナツを見てお店の看板を確認すると、

「ん?…ナツ、バーガーは向こうよ」
「いーよ、ドーナツ食べるぞ」
「えっ、…う、うん。ありがとう」

何にしようかなと迷うが、ナツはすでに注文していた。
ルーシィは横目で少年を見ると頬を染め、心の中で想いを告げる。


――ナツ、…好き。


「ルーシィ?」

ナツを見ていたルーシィは声が聞こえた方へ顔を向けると、セーラー服を着た女子二人が手を振り近づいてきた。

「さっちゃん達だ…」
「……」
「久しぶり!…あ、ナツくんも一緒?」
「…あ、うん」

ルーシィの隣に見える桜色の髪に気付いて、頬を染めている。

「うそー、こんな所で会えるなんて…ここ寄るの?いいなあ」
「…さっちゃん達も寄る?」
「いいの?」
「う、うん…ねえ?」
「……いいんじゃねえの」

喜ぶ声が聞こえてくる中で、ルーシィは眉を下げた。
トレイに載った飲み物とドーナツを手渡され、席を探していると、奥にあるソファ掛けの四人用が空いていた。
ルーシィが先に奥へ入り、その隣にナツが座る。
ナツの正面にくるようにして、さっちゃんが向かい側に座った。
予定外に四人で話すことになってしまい、ナツのことが気になるルーシィはドーナツに齧り付きながら隣を窺う。


――さっき一瞬、怒ったように見えたけど、笑ってる…大丈夫かな。


「ナツくん、手どうしたの?」
「あー、コレ?この間、体育で張り切り過ぎちまった」

数ヶ所に、切り傷の跡が残る左手を見せて笑っている。

「転んだの?」
「ひっかいた」
「あ、ここも!」
「生傷だらけだろ?」
「この手首の傷は?」

笑顔を見せていたナツは、右手を重ねて急に口を閉ざす。手首を隠すようにしているのが見え見えだ。


――あれ、今のって…。


「ねえ、ちょっとコレって…」
「…んだよっ」
「これ…」

左腕を掴んで見ていると、ナツがそこに力を入れてルーシィの手から放した。

「うっせーな、暴力教師に殴られたんだよ!」
「…でも、あれってペンの跡じゃなかった?」
「知らねえよ。…ペンの上に当たったんだ。それで刺青みてえに赤く残ってんだ!」
「……」
「だから、生傷みてえだけど、古傷だな」
「そうなんだ」

向かいに座る二人が頷いている。


――あの時の、先生に仕返ししてくれたやつ…


「……」

目を伏せて、急に静かになったルーシィをナツは覗き見ると、

「なーに、暗くなってんだ?」
「…ごめんね、ナツ」
「バーカ!ふざけんな、自惚れてんじゃねえぞ」

ムッとした少女は、眉を上げた。

「なんで、アンタはそういう言い方するのよ!」
「あ?…んじゃ、責任とってくれんのか?」

上目遣いで、距離を詰めてくる。肩が当たりそうだった。


…責、


…任?


見つめられると頬が、熱を帯びていく。

「ぷっ、本気にとんなって、バーカ!」
「……っ」

大きな口を開いて笑うナツから視線を外し、息を吐いた。



――もしかして、仕返ししてくれたりとか、かばってくれたりとか


今日、誘ってくれたりしたことも、

ナツにとっては、大して意味のあることじゃないのかもしれない。



あたしだけ盛り上がってるだけなのかも。



「あ、ねえ…まだ時間あるし、もし良かったらこれからカラオケ行かない?」

さっちゃんからのお誘い。ルーシィは言葉に詰まり、ストローへ口を付けているナツに声を掛ける。

「な…ナツ、あの」
「…あ?…オレか?」

ナツは、腕時計を見て確認した。ルーシィの方を見ず、視線を下げたまま口を開く。

「おまえは、どうしたいんだ?」
「えっ?…あたしは、」


――全然二人きりになる時間、ないみたい。


「……ナツ、決めて良いわよ」
「…ふーん」


行かないって言って、…欲しいけど。


「んじゃ、オレ今日はもう帰る」


――え、


「そんじゃ、悪ぃけど…」
「そっか…」

向かいの席の二人は残念そうにしているが、ナツは立ち上がって出口へと向かう。


やだ…待って、ナツ。


「…ごめん、あたしも!」

鞄を持ち、追い掛けた。
もし、走って行かれてしまったらきっと追いつけない。急いで桜色の髪を探した。
人が行き交う中に桜色を見付けて、

「ナツっ!!」

はあはあと乱した息を整え、立ち止まってくれたナツの背中を見る。
振り向いた少年の目は、大きく吊り上がっていた。

「おまえさ、一体どうしたいんだ?」
「…ナツ?」
「ルーシィは、オレとアイツをくっつけてえの?」


――ち、違う。


「ムカつくんだよ!!!」
「…ナツ」
「なんでそんな余裕あんのか全然わかんねえー」

少年は、背を向けて歩き出す。
俯いた少女はすぐに顔を上げて、今までの想いをぶつける。

「…ナツだって、ズルいじゃない」
「……」

ナツは足を止めた。振り返る少年に向かって、強く吐き出す。

「肝心な時にいつもはぐらかして…、あたしだってわからないわよ!」
「…ルーシィ?」
「ナツが、何考えてるのか全然わからないっ!」

言い切ったルーシィは背を向けて、駆け出した。









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