自分を見つめるナツの瞳に惹きつけられる。
ルーシィは、頬を赤く染めていると、
「ナツー!ドッジボールしに行くけど?」
「…おう、オレも行くぞ!」
ボールを持った男子に廊下から声を掛けられたナツは、そちらに振り向いて返事をしている。
椅子から立ち上がり、駆け寄って行った。
ボールを受け取り笑っているナツの横顔を見つめて、
――ナツと、
同じ学校で良かった。
同じ学年で良かった。
同じクラスで良かった。
好きになって、――良かった。
もっと、もっと…いっぱい思い出、作ろうよ。
桜色の髪を揺らして、笑顔を向けるナツ。
そんな少年の背中を見つめて、心の中で呟いた。
S高校入学試験、合格発表の日。
「受かったー!」
「やったね、ルーシィ!!」
親友と喜びを分かち合っていると、視線の先に桜色が目に入る。
――ナツも?
合格したのだろう。
大好きなその笑顔が、一段と眩しく見えた。
卒業式の当日。
卒業証書を受け取り、式も終わりを告げる。
廊下を歩いていると、目の前で泣いているさっちゃんに気付いた。
ルーシィの視線から察したようで、隣に居た親友が口を開く。
「さっちゃん、制服のボタンもらえなかったんだって」
「…ボタンなんて欲しいかな」
「ルーシィは同じ高校だからね。さっちゃん、もう会えなくなっちゃうんだよ」
――そっか、会えなく…
たくさんの涙を流している姿を見て、ルーシィは少女の肩に両手を置いた。
「さっちゃん、もう一度もらいに行こうよ!あたしが奪ってくるから!!」
「えっ…でも」
「あたしに、任せて!」
「……ううん、もう他の子に取られちゃったの。だから…」
「…へ?…そ、そうだったの」
予想外であった。
そのことに驚きつつも、ルーシィはそれならと前を向く。
風に靡く金髪と青いリボンが、元気に跳ねた。
ルーシィを先頭に数名の女子は、気付かれないようにそっと桜色の頭を追い掛けている。
少年たちはゲームセンターで寄り道をしていた。
お店の中に一歩踏み出すと、自動ドアが開き、耳が痛くなるような音が反響する。
「さっちゃん、ほら話し掛けてきなよ」
「せっかくここまで来たんだから」
「ん、でも…」
少年らはクレーンゲームで遊んでいるのだが、恥ずかしいのかナツ達が居る方へ背中を向けてしまった。
ふと休憩所のソファに目を向けると、
「あれ?…誰のかしら」
自分たちが持っているものと同じ筒が置かれてあった。
ルーシィは、開いて名前を確認すると、口角を上げる。
“卒業証書、ナツ・ドラグニル”
それを両手で持ったまま、上へ掲げて凝視した。
――好きだなー…この名前。
ルーシィ・ドラグニル。…ふふ、なんてね。
折れないように大事に丸めて、筒にしまった。フタを閉めて、
「ちょっとー、ナツ!」
「…おう!ルーシィじゃん」
「卒業証書、こんなところに置いたりして…」
「おお、悪ぃ…」
「失くしたらどうするのよ!」
「…いあ、別にどーもしねえけど?」
ルーシィは怒ったような口調で筒を渡すと、ナツからの思わぬ一言に眉を下げる。
「…でも、こういうのはちゃんと大事にしないとダメよ」
「ん?」
「忘れたりしないで…、ね」
頬を染めて俯く少女の手から受け取った。
ナツは、それをギュッと握ってルーシィに視線を移す。
「どれが欲しい?」
「えっ?」
突然言われて顔を上げると、クレーンゲームの方を見ているナツの横顔が目に入った。
言葉に詰まる。
「……」
「好きなの取ってやる!」
ガラス戸に手を添えて、中を覗いている二人の姿がそこに映っていた。
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