カンッ!!!!……カラン、カラン。

モノサシを振り上げてそれを下ろす瞬間、何かに触れた。回転しながらナツの足元へ落ちていく。
ルーシィは、肩の力を抜いてからナツに目を向けた。
その先には、少年の左腕が上げられた状態で、教師と視線を合わせている姿が見えた。
ナツは腕を下ろし、頬杖をつく。

「反抗する気か!?」

表情一つ変えないナツに、教師は眉を吊り上げて声を張り上げる。
すると、左隣の男子が指を差した。

「血が出てる…」
「あ?」
「て、…手首」

腕を曲げて言われた箇所を目の前に向けると、左手首の切り傷に気付く。
それを目にした教師は、額に汗を滲ませた。

「……」
「……」

腕を戻して、動揺している彼に言い放つ。

「大丈夫です」
「……」

何も言わない教師を一度、見上げてから表情を確認して、視線を落とす。
普段、生徒達には見せない。困ったような顔をして眉を下げる教師。
ナツは、自身のツリ目を一層吊り上げて、再び口を開く。

「…大丈夫、です」
「……」

低い声で、ゆっくりと感情を込めて言葉にする。
教師は、ナツと目を合わせずに背を向けた。
見慣れているはずだが、少年に鋭い瞳を向けられたことで、若干焦っている様子が窺える。


――…ひ、ひやひやさせないでよ。


ルーシィは、胸を撫で下ろす。
数分の出来事であったが、とても長く感じて心臓がどうにかなりそうだった。





授業が終わると、ポーチから一枚取り出して、桜色の髪の元へと走り寄る。

「バンソーコ!」
「…んあ?」

後ろから声を掛けると、ナツは顔だけ動かしてルーシィを凝視した。
絆創膏を右手に持ち、それを向ける。

「…ち、血ぃ出てたでしょ?」
「いあ、あー、…ぷっ」

真剣な眼差しでそう口にする少女を見ながら、ナツが一瞬、目を見開く。
同時に肩を揺らして、吹き出した。マフラーが振動で靡く。
ナツは大きな口を開けて、豪快に笑っている。


――え、なっ、何よ!人が心配してるのにー!


突然の反応に疑問符を浮かべて目を逸らすと、ナツの笑い声が治まった。









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