※carpio:たにしさんより、頂戴いたしました。

『夏祭り:ナツルー』







去年行ったらしいマックスは、仏頂面でどっか遠くを見てた。

『とにかく人が多くて財布すられるし、辛いだけだっての。可愛い子はみんな男連れだしよ』

人が多いのは嫌いじゃねえ。財布すられたのは油断してたからだろ。最後のはどうでも良いし。
オレは楽しくなると思ったんだ。
ルーシィと一緒なら、楽しいに違いねえって思ったんだ。
でも。

あんな辛いって、有りかよ。






“夏祭り”









暗くなり始めた空には雲ひとつない。一番星が輝く下で、ナツは唸った。

「嘘だろ……」

人が多すぎて匂いがわからない。ルーシィの金髪も見当たらない。

――はぐれた。

人混みの流れを遮ってその場に立ち止まる。肩に浴衣の男がぶつかりかけて、小さく舌打ちして行った。
ここはマグノリアから駅七つ離れた街。そこそこ大きいのだが、今日一日だけ、大通りにも裏路地にも全てに屋台が溢れる、大規模な祭会場となる。
五年ほど前から始まったと、ナツは話だけは聞いていた。毎年ちょうどこの時期は、興味を引かれる仕事が多い。気にはなっていたものの、なかなか様子を見に来ることが出来ないでいた。
それが今年。ハッピーがエクシード隊だけで行きたい、と告げた仕事の日程が、この祭の日と重なった。

これはチャンスだ、とナツは思った。柄にもなく、神様って居るんだ、と思った。

ルーシィだけが『特別』に感じるこの感情に、気付いたのはごくごく最近。
どうして良いかわからない、持て余すだけの想い。それに、ナツはデートが――彼だけがデートと思っているのかもしれないが――ふさわしいと感じた。
一緒に二人きりで出かけることで、この停滞した気持ちを前に進ませられるんじゃないかと思えた。
浴衣の彼女は、いつもと雰囲気が違ってまた可愛らしくて、ドキドキして。

それが、来た早々、はぐれるなんて。
二週間も前から言いかけて止めてを繰り返し――当日になって、やっと誘えた祭なのに。

立ち並ぶ夜店はどれも楽しそうで、また、良い匂いがしている。さっきまでは確かに、心が躍る風景だった。しかしルーシィが居ない今、ナツにとってはただの背景でしかない。

「やっぱ、手ぇ繋いでおきゃ良かった」

冗談なのか本気なのか、ルーシィがはぐれそうだし、と差し出してきた手を、ナツは恥ずかしさから握れなかった。今、彼女の姿はなく、どちらに進んで良いのかもわからない。そんなんしなくてもすぐ見付けてやるよ、とはどの口が言ったのか。

「くそっ、やっぱ神様なんて居ねえ」

こうしていても仕方が無い。ナツは注意深く目を凝らしながら、人混みを急いで走り抜けた。



「あっ、居た!」
「ナツ!」

わたあめの屋台の横で、ルーシィはきょろきょろと辺りを見回していた。
――リンゴ飴を齧りながら。

「お前……」
「あ、これ?ナツも食べる?」
「要らねえ」
「イカ焼きもあるよ。はい」
「……」

受け取りはしたが、食べる気力が湧かなかった。彼女の頭には何のキャラクターだかわからないお面もくっ付いている。両手には食べ物と思われる袋を提げていた。

全身全霊で、満喫している。

「随分祭を楽しんでんじゃねえか」

オレが居なかったのに。

ナツはルーシィが居ないだけで、楽しもうという気になれなかった。きっと彼女も、同じように自分を探しているのだろうと思っていた。

それが。

口に出したらさらに自分が惨めになるように思えて、ナツはイカ焼きの串を握り締めた。
ルーシィは知ってか知らずか、くすりと笑った。歯形の付いたリンゴ飴が揺れる。

「だってナツが見付けてくれるんでしょ?」
「あ?」
「そう言ってたじゃない。信じてた」
「そっ……そう、かよ」

思いがけない言葉にどきりとして、ナツはイカに齧り付いた。耳がかぁ、と熱くなる。
自分の存在が彼女の不安を取り除いていた。あんな些細な一言で。

やっべ、嬉しすぎる。

にやにやとだらしなく緩む頬を、イカ焼きの咀嚼で誤魔化す。そうそう、とルーシィが手に持ったビニール袋を漁った。

「ナツ用に買っておいたのがあるんだ」
「オレ用?」
「はいっ」

良い笑顔で、彼女は白い袋を手渡してきた。中には、野菜や肉の詰まったピタパンが入っている。

「お、美味そう!」
「でしょ!」

魚介類よりやはり肉。ナツは嬉々としてそれに噛み付いて――

ぼふ、と虚空に火を吐いた。

「きゃあ!?」
「かっ、辛ぇ!」
「あれ?ナツって辛いの得意だったわよね?」
「くっ、はっ、こ、こういうのじゃねえ……!」

熱に強いためか、ナツは刺激物は大体平気だった。しかしそれは唐辛子系の辛味であって、これは。

「ふはっ、ふっ、ワサビ、入れ過ぎだろ……!?」

レタスに目立たないように、薄緑色のソースがたっぷりと忍ばせてある。疑いもしなかったせいで、普段と同じように一口が大きかった。吐き出すよりも飲み込んでしまったことに後悔する。

「調整できるって言うから、一番辛くしてもらったんだけど……ダメだった?」

つきつきと鼻が痛む。抑えられない涙が目の端に浮かんだ。
思わずぽい、と放り投げた袋を、ルーシィがキャッチした。それを覗き込んで、彼女はごくりと喉を鳴らす。

「……そんなに辛いの?」
「やっ、止めとけ!」

興味が人を破滅させるのを、ナツは間近で見た。
リンゴ飴は地面に勝てずにパリンと割れた。悶絶したルーシィの手が、助けを求めるように空中でもがく。

神様は居ない。かも、しれない。なら、自分がなっても良いだろう。

ナツは今度こそ、それを握って。

甘い飲み物を探しに、人混みの中に飛び込んだ。







☆★☆★☆

うわーん><たにしさん、ありがとうございます!欲しいですと、わがまま発言してしまったのに…感謝いたします!
夏祭りで変換すると…ナツ祭りと出るパソコンにニヤける(笑)

私はマックスの言葉に頷きながら「最後のはどうでも良いし」を目にして、ナツらしくて面白いなーと感じて思わず笑ってしまいました。
そして、読み進めていく度、心がどんどん弾んでいきましたね。

…嬉しすぎる。ルーシィに対してナツの心の声、私がたにしさんに感じた想いと一緒。

ルーシィのセリフに私が倒れそうな勢いでヤラレマシタ!かわいいなぁ、もう。
ルーシィに恋するナツもすっごく可愛いですし、応援したくなりますね^^ドキドキ感が伝わってきますよ!
勇気がいる…、やっと誘えたのに…その気持ちを思うとグッときます。
神様は……きっといるよ、ナツ!(私はたにしさんもナツルー界の神様だと思う。うふふ♪)

辛い思いをしたナツ…でも変わらず最後には愛しい彼女の手を取り、繋ぐんだ。
そんな行動に私はキュンとしますね。
一緒にいると楽しいんだよね、いないとつまんないんだ。うんうん。
けれど、今回のルーシィの言葉には、心が温かくなる魔法の言葉がありましたね!たった一言なのに……ルーシィが持っている不思議な力。ナツにだけ通じる。

こういう雰囲気のふたりを見ると、微笑ましいですね。…二人のストーカーになっちゃいそうなほど、惹かれております。だいすきです!
今後も何度も読ませていただきますね^^
たにしさん、本当にありがとうございました!




戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -