ありがたいことに…快く引き受けてくださり、理乃さんにジェラエル執筆をお願いしました。そちらに合わせて、ナツルーを書かせていただいた作品です^^
※ジェラエル:理乃さん執筆
その日、ジェラールたちは、マグノリアの街へと立ち寄っていた。時刻はやや、薄暗くなり始めた頃。
そんな時、前方に両腕一杯に荷物を抱えた女性の姿を見かけた。
「エルザ」
ウルティアがその女性を視認すると同時に声をかける。
「ウルティア。こっちに何か用事でもあったのか」
「ちょっと、必要な魔法アイテムを買いによったの。エルザは、買い物の帰り?」
「ああ。少し買うつもりが想像以上に買いすぎてな」
エルザが少々照れくさそうにそう言う。彼女の両手に持った荷物からは、洋服、雑貨物、夕飯に使うのだろうか、食材などが覗いていた。
ウルティアがそんなエルザを見てから、ジェラールの方へ視線を移すと、にんまりと笑う。
ジェラールを嫌な予感が襲う。
「ジェラール。運ぶの手伝ってあげなさいよ」
「い、いや。予定もあるだろうし、それは悪い――」
「遠慮しないで。結構重そうだし。ジェラールもこんな暗い夜道を女の子一人で帰すなんてできないわよね〜」
「・・・そうだな。送るよ。エルザ」
「だ、だが――」
ウルティアに先手を取られたのは気に入らなかったが、薄暗くなり始めた道を、両手に溢れんばかりの荷物を抱えたエルザを一人帰すのは気が進まなかったため、エルザの荷物を半ば強
引に奪い取ると歩き出す。
「じゃあね〜。野宿の場所は予定通りだから」
ウルティアの明るい声を背後に聞きながら、エルザが慌ててジェラールの後を追いかけてきた。
「・・・すまない。予定もあっただろうに」
「いや、特にないし、気にしなくていい。女がこんな暗い夜道を一人で歩くなんて、妖精の尻尾のやつらだって、絶対させないだろ?」
ジェラールがそう言うと、エルザはなぜか面食らった様子で答える。
「い、いや。何というか、他の女子ならそういう扱いかもしれんが、私の場合は、放っておいても大丈夫みたいな感じだから」
「・・・・・そうなのか?送ってもらったこととかないのか?」
「まず、ないな。普段から、女扱いもされないし。そもそも、そんなこと言われたこともない」
「そうか」
「・・・・・なんか、微妙に嬉しそうに見えるのは気のせいか?」
「気のせいだ」
そうは言いながらも、実は彼女がこういう扱いを受けたことがないというのは、ジェラールにとって、嬉しいことだった。何せ、彼女を女性として見ている人間が妖精の尻尾にはいない
ということなのだから。
(・・・・駄目だな。エルザには幸せになってもらいたいのに)
自分では幸せにできないから拒んだというのに、エルザが誰のものにもならないという事実を喜んでいる自分を叱咤する。
「ジェラール。重くないか。私も半分持つぞ。私の荷物だし」
「全然重くないから気にするな」
エルザが遠慮がちに荷物を受け取ろうと手を差し出してくるが、ジェラールは優しく微笑むだけで、荷物を放そうとはしない。
その時、バイクがジェラールのすぐ横を通り過ぎて行く。
エルザはふと、彼がさりげなく車道側を歩き、エルザを守るように歩いていることに気づいた。
(何だろう・・・こんなの初めてだな)
今まで、こんな紳士的な扱いを受けたことなど皆無に近いと言っていい。
普段の自分の言動が原因なのはわかっているし、それに不満を持ったこともないが、いざ女の子扱いをされると、何だかドキドキしてしまう。
「ありがとう。ここで大丈夫だ」
「そうか。荷物部屋にいれるまで手伝うか?」
「いや、大丈夫だ。だが、助かった」
「次からは、遅い時間に買い物しない方がいいぞ。女の子なんだから」
「あ、ああ。気をつける」
ジェラールがそう言ったとたんに、妙に頬が赤くなったような気がしたが、気のせいだろうか。
ジェラールはそのまま、エルザの部屋の電気が無事につくのを見届けた後、仲間の元へ帰るために踵を返した。
☆★☆★☆
※ナツルー:かおり執筆
いつでもそばにいてくれるから、自分にとって大切な人だと思ってる。
その人のことを他の誰かと比べたりはしたくない。
ナツらしさも…もちろん彼の良さも理解しているつもりだ。
それでも憧れてしまうのは仕方のないこと。
誰にだって抱いてしまう気持ちよね。
あたしとあいつにないもの。
それをエルザとジェラールはもっているんだもの。
あたしは憧れるし、…羨ましいよ。
当然のように居座る大食漢な彼とその相棒のおかげで、大量の食材を買い出し中。
その帰り道、見慣れた後ろ姿が目に入った。
自分と同じように、大きな荷物を両腕いっぱいに抱えているエルザ。
(エルザも買い物の帰りだったんだ)
声を掛けようと思ったその時――、
隣にいる男の存在に気が付いた。
「あっ…」
二人が一緒に居るところを見掛けることはめったにない。
だからこそ興味も湧き、以前エルザと二人で話していたことが頭に過ぎった。
『あのね、エルザ!…あたしね、エルザとジェラールみたいな大人の雰囲気に憧れているんだ!あたしとあいつだと絶対そんな雰囲気にはなれないもの。…いいなぁ、エルザ』
あたしの言葉を耳にして、微笑んでいたね。
その後に、遠くを見るようにしてエルザの口が開いた。
『…私はルーシィの方が羨ましいぞ』
少し切なそうに俯き加減で、そう応えてくれた。
ルーシィは二人の様子が気になり、気づかれないように細心の注意を払って距離を置きながら、後を付けて行くことにした。
何を話しているのか声を聞きたかったが、さすがにこれ以上近づいては気づかれてしまうだろう。
悪いなと思いながらもこんな時は滅竜魔導士の耳を借りたいと、つい思い浮かべてしまった。
すぐに思い出せるあいつの笑顔。
少しばかりか頬を赤く染めるルーシィ。思わず荷物に顔を埋めて俯いてしまった。
目を逸らしていた一瞬の間に、エルザが抱えていたものが今は前を行く彼の腕の中にあることに驚き、
「え…荷物、持ってあげたんだ」
そう呟きながら、不意に自分の手元を視界に入れ大きな溜め息を吐いた。
(あっエルザ達行っちゃう、待って…)
足早に追いかけていく。
長身な彼を見上げているエルザ。緋色の髪を風に靡かせて、とてもキレイだと感じた。
(お似合いよね…。ミラさんがいたら、カメラ借りるのに残念だわ)
二人が並んでる姿を見られるのは貴重なことだと、カメラで撮っておきたかったのは正直な気持ちだったし憧れだからこそ、それなら目に焼き付けておこうと思った。
二人にしかわからない過去での出来事、自分には理解できないことも多いのであろう。
エルザがどのような想いで過ごしているのか、彼に対しての気持ちを考えると“二人に憧れているんだ”と、つい口から出た言葉を今更ながら申し訳なく思い始めた。
しかし、ギルドでは見せない彼女の微笑みは…あの人といる時は安心しているように感じるから。
エルザにとってあの人は特別よね。
何か見えない部分で繋がっているような…そんな風に感じるんだ。
うまく言葉にできないもどかしさがあるけれど。
小説家を目指しているのに何故だろう。まだまだ勉強が足りないわね。
ルーシィが首を傾げている時、横をバイクが通過した。
(きゃっ、もう!あのバイク飛ばし過ぎよ!危ないわね)
金髪と短いスカートが勢いよく揺れた。危なく当たる所だった。
危なかったと、前を向いたところで、
(ん?…あ、気づいちゃった。…エルザのこと、わぁ〜いいな…)
二人の立ち位置に、ルーシィは目を細めてうっとりした。
あたし、エルザに何度助けてもらったかわからないし、妖精女王って呼ばれているけど…エルザだって一人の女の子だもの。
たまには甘えても良いんだよ。ね、エルザ。…でも、大事なことは“彼”だけにね。
これ以上邪魔しちゃ悪いわよね。気づかれていないとは思うけど。
…そろそろ帰ろっと。
まだ見ていたかったが名残惜しくも二人の方に背中を向け、顔だけ二人がいる方へと傾けて―――
やっぱりお似合いだよ、エルザとジェラール。
…それに憧れる気持ちは変わらない、ううん…益々強くなったわ。
いつかはあたしも二人のようになりたいな。
軽い足取りで、自宅へと歩を進めて行った。
「それにしても重いわね、安売りだからって買い過ぎたかしら」
ちょっと休もうかなと思いつつも、既に周りは真っ暗。街灯だけが唯一の明かり。
夢中で二人をつけていたため、気づかなかった。
「…早く帰らなきゃ」
荷物を抱える腕に力を入れて、走り出そうとしたところに、馴染みのある声が聞こえた。
「ルーシィ!!こんな所にいたんだね」
「やっと見つけたぞ」
膝に両腕を置き、肩を揺らして息をするナツと翼を下ろして彼の頭に乗るハッピー。
…もしかして迎えにきてくれたの?
「あたしのこと捜してたとか?」
「おぅ!」
「あい!」
「…そっか、ごめん」
ガサッと大きな袋が傾いた。
それに視線を向けているナツの様子を窺いながら、ハッピーが彼の頭上で、
「ルーシィの荷物持ってあげなよ、ナツ!」
「あ?…良いけどよ」
「えっ!?いいの?重いわよ」
「ナツなら片手でも持てるよね?」
「おう、持てっけど…」
ナツは大きな袋を片手で受け取る。
そして、ルーシィの手に触れようとしたが、荷物が離れた途端腕の中にいる、青いものが目に留まった。
「ハッピー気が利くわね、ありがとー」
握ろうと予定していたその手は、目の前にいる相棒の頭の上。
「おい!持つのはオレだぞ!!…って、なんでルーシィがハッピー抱えてんだよ!オレが持つ意味ねえだろうがっ!」
口を尖らせて、睨んでいる。
「…なんで?」
「うっ…なんでもねえよ!!」
ナツの言っている意味が分からないと、疑問符を浮かべるルーシィの腕の中から前足を口元に当てているハッピーが口を開いた。
「クフフ、ナツはルーシィと手を繋ぎたかったんです、あい!」
「えっ!?」
「ちょ、待て、ハッピーおまえ!?」
「二人ともすぐ顔に出るから、からかい甲斐がありすぎだよー」
居心地のよい特等席を仕方がないなぁと抜け出して、肩へと移動した。
「ほら、ルーシィ!ナツが待ってるよ、オイラ相棒想いの良い猫です。あい!」
気を遣うその相棒と目を合わせて、段々と赤くなる頬を指で掻く。
「ねぇハッピー、待ってるって、どういうこと?」
「ルーシィ…おまえ、いい加減気づけよな!」
はぁ〜と深いため息を吐かれたからか気に障ったらしい。
なによ!とルーシィの方からナツに近寄ってきたことで、腕に伸ばしてきた彼女の手を掴み、ギュッと握った。
「わっ!?ちょっとナツ?」
いきなりなに?…嬉しいけど、顔が赤くなっちゃうじゃない。
ナツが手を握ったのを見届けて、
「やっとだね…オイラ疲れちゃったぁ」
「…何よ?ハッピー…え、ナツ引っ張らないでよ!」
こっち見ろよとばかりに、グイッと自分の方へ引き寄せる。
「…いいだろ、ルーシィがまたどっかいかねえように、手繋いどけば危なくねえしな!」
「…あ、あたしは迷子にならないもん!」
ぷいっと視線を外して顔を逸らした。
「いあ、ルーシィだぞ?どうだかな…」
あははと大きな口を開けて、ハッピーと笑い合う。
「クフフ…(ルーシィ顔真っ赤だね、ナツは気づいてるのかな…)」
エルザ…今ならわかる気がする。あの時エルザが言ってたこと。
些細なことだけど、あたし達を見てそう思ったのは…
あたし達にしかないものがあるから…、
そうなんだよね。
ナツがすること、…憧れって人それぞれ感じ方が違うんだね。
大人の雰囲気には程遠いけど、ナツにされることにはあたしドキドキするんだ。
今はそれだけで十分なのかな。
それでも、あたしの中での憧れは…
――エルザだよ。
魔導士としても、一人の女性としても…。
そんなあなただから…あの人は変われたんだよね?
今の彼が微笑んでいられるのは、エルザがいるから。
あたしは二人の関係がなんであろうと…応援したいな。
それを言ったらエルザはなんて応えてくれるかしら…。
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