「ルーシィ!ちょっと良いかしら?」
「ん?なんだ?」

微笑みながら手招きをするミラジェーン。
ルーシィは首を傾げながら、そちらへと身体を向けた。

「お買い物、頼みたいんだけど…」

小さなメモ用紙にいくつか文字が書かれている。
それにパーッと目を通すと、どれも重いものばかりであった。

「…べつに良いけど、コレ全部今日必要なのか?」
「ええ、必要よ〜!お願いできる?…あ、ひとりじゃ大変よね。ナツに魔導四輪で連れてってもらいましょう!」

パンと響かせて両手を合わせた。
ナツ!と、呼ぼうとしたミラジェーンの声を遮り、

「あたしひとりでも行けるから、大丈夫だ!」

ほんのりと頬を染めているルーシィを見逃さない。
その言葉は本心からくるものではないと悟ったことで、ルーシィの言い分を聞き入れず、グレイと仲良く話しているナツに向かってその名を呼んだ。

ミラジェーンの頼み事だ、彼も快く承諾して車を取ってきますねと伝えて、その場から離れた。
ルーシィは小さな声で、

「ミラ、わざとじゃねえよな?」
「何のことかしら?」

にこにこと笑って受け応える彼女を見て、何を言っても無駄だとルーシィは深く溜め息を吐いた。
忘れ物を取りに戻ってきていたナツが、そんなルーシィの姿を見ていることに気づかず――。







「久しぶりだな、一緒に出掛けるのは――」
「ああ…、そうだな――」

窓を開けて車内に吹き抜ける風が、金髪を揺らす。
外を見ている彼女をちらりと見ながら、ハンドルを握る手に力を込めて前を向いた。


――なんで、こんなに静かなんだ?ナツの奴。
車に乗ると大抵あたしをからかうくらい話すようになったってのに、
…あたし、何かしたか?


二人きりの空間も以前までは気にならずにいたが、あれから心身ともに成長したルーシィもナツ自身も変化があったようで、いざ二人きりになると、ぎこちなくお互い目を合わせずにいた。
ギルドの仲間もそのことには気づいている様子であった。

ナツを見掛ける度に全身で絡んでいたルーシィはあの頃のように触れるようなことはしなくなり、ナツもまたアースランドから来た自分のように男らしく目の前にいる彼女よりも強くなりたいと思うようになっていた。



沈黙が続く中、ようやくお店へと到着。
ルーシィは恥ずかしさもあり、車内での雰囲気に耐え切れず、すぐさまドアを開けて降りて行った。

「先に行ってるよ、ナツ!」
「ルーシィさん!ちょっと待ってくださいよー」

ナツの声を背中に受けて、足早に目的の場所へと向かう。
渡されたメモを見ながら要領よくお店を廻って用を済ませていった。







「よし!ミラに頼まれたものは、これで全部買ったよな?」
「はい。これで全部ですね」

ナツはお米を抱えているルーシィに近づいて、

「ルーシィさん、それはボクが持ちますよ!」
「え?良いよ!コレ重いし、おまえには持てないぞ」
「そ、そんなことありません!ボ、ボクだって一応男ですから……」

軽々しく抱えていたルーシィから受け取り、彼女が手を離したと同時にナツの足元へ落ちていった。
再度、持ち上げようと力を込めてどうにか持つことができたが、フラフラと不安定。

「無理しなくていいよ!あたしが持つから、こっちをナツが持ってくれればいい!」
「…はい。ごめんなさい」

ルーシィが渡した紙袋を抱えて、彼女の後ろへついて行く。
男らしくなりたいと思うけれど、自分にはなれないのかと、ひどく落ち込んでいった。

「ルーシィさんは…」
「ん?」
「ルーシィさんは、男のボクから見てもカッコいいです。…ボクってルーシィさんからどんな風に見えていますか?」

魔導四輪へと向かう足を止めて、前を向いたままのルーシィの背中を見つめるナツ。
ギュッと目を瞑り、大きな荷物に顔を埋めた。
そして、恐る恐る一歩前を行くルーシィに目を向けたら――

――ルーシィさん?

ナツの方へ振り返り、笑っているルーシィが口を開く。

「ナツはあたしのことそんな風に思ってたんだな…カッコいい、か。あたしは男っぽいからなー」
「いえ、そんなつもりじゃ…」
「うん。わかってるよ!ナツは褒めてるんだろ?でもなー、あたしだって本当は…」





――可愛いって言われてみたいんだ。





…おまえにな。






「ナツはそのままでいいよ。あたしは変わって欲しくない。
…あーでも、そうだなーおまえの目を見てると惹きつけられる。あたしはすきだ!もっと自信もちな!」

思いがけず聞かされたルーシィの想い。
ナツは嬉しかったのか真っ赤な顔を見せて、強く頷いた。







魔導四輪に荷物を詰めていると、袋から丸い何かが転がって出てきた。

「あ、そういえば口紅もらったんだ。試供品とか言ってたけど、あたしには必要ないものだな…」
「えっ、そんなことないですよ!ルーシィさん…つけてみてください!」
「いーよ、誰かにあげるから」
「そんなこと言わずに…それじゃ貸して下さい!ボクがルーシィさんにつけてあげます!」

ルーシィの手元にある試供品を奪い、自分の指にピンク色のそれをつけて、近づいてくるナツを凝視した。

「ちょっと、ナツ!?あたし、イヤだ!こんな女っぽいもの…それに、似合わねえし」
「絶対、似合いますから!ボクは見たいです!!」
「う、」

抵抗しつつも、目を閉じて身をナツに委ねた。
唇に彼の指が当たる感触が伝わってくる。
その指が離れて、ナツからの息遣いも感じられなくなったことでゆっくりと目を開けた。
すると、満面の笑顔を見せるナツが映った。

「…ジロジロ見んな!!」
「ルーシィさんかわいいなーと思いまして…、やっぱり似合いますよ!」

唇を拭うように手首をあてたが、ナツの言葉が耳に入り、照れくさそうにしてそっと腕を下ろした。

「ナツ…」
「はい!…ルーシィさん、なんですか?」
「今度、また一緒に出掛ける時にだけ…コレ、付けていくから…だから、」
「は、はい!」
「――だから、買い物じゃなくて、どっか連れてけ!」
「…えっ!?は、はい。わかりました!!」

視線を逸らして、強く拳を握りながらそう言い放つルーシィ。
ナツはそんな彼女の金髪に手を添えて、ぐっと引き寄せた。
珍しく積極的な行動にビックリしたのか、目を丸く見開いて見上げると、ナツは嬉しそうに笑っていた。

相変わらず赤い顔を見せて――





ふと頭に過ったことがあり、ルーシィはその疑問をぶつけてみることにした。

「そう言えばナツ、車の中で不機嫌だったよな?」
「え?……あ、それは…ルーシィさんが溜め息を吐いていたところを見てしまって」
「溜め息?」
「ボクと出掛けるのが嫌なのかと思って…」
「あ、いや…あれはそういうことじゃなくてだな――…」

慌てて違うよと否定するルーシィを見て、ナツはまた微笑んだ。
何笑ってんだよと、口を尖らせて自分を見てくる彼女の肩に手を置き、

「帰りましょうか…」
「ああ、そうだな」

エンジンをかけて、ルーシィが乗り込んだのを確認してから、トレードマークになっているゴーグルを掛ける。

そんな彼に、一瞬ドキッとしたルーシィは不自然にならないように、そっと窓の外へ視線を移した。


――なんか、行きよりも帰りの方が緊張するな。


もうすぐギルドへ着く手前で、ナツはブレーキを踏みエンジンを止めた。
眠気を誘う揺れにうっかり眠りそうになっていたルーシィは驚き、隣にいる彼の方へと身体を向けたことで、思い切り目が合ってしまった。

「あ…」
「……ルーシィ」

突然ナツが、距離を詰めてくる。

「良く考えたら、今日は二人きりなんだぜ?」
「…そ、そうだな」
「このまま帰ったらもったいねえと思わねえか?」
「いや、あたしは買い物疲れで早く帰りてーから」

ルーシィの返事に、ムッとしたナツは腕を伸ばしてルーシィの座席の横にあるレバーを回し、背凭れを倒した。

「うわー!?ちょ、何してんだー!!ナツ!!!」
「コレつけてると、何かルーシィじゃねえみたいだな…」
「おまえがつけろって言ったんだぞ!何言ってんだ!!?」
「あー、またオレがつけてやる!だから…」

ルーシィを押し倒しているナツの顎をグイッと持ち上げて、

「簡単にさせねーよ!」
「うぐっ、ルーシィ…放せ。ギルドの連中には見られたくねえだろ?」
「……、ナツはあたしと……、そういうことしたいのか?」
「おまえじゃねえなら誰とすんだよ!」
「…っ!?きょ、今日はダメだ!…我慢しろ!!」

車に乗っている時のナツには勝てない。
彼の迫力に押し負けそうで、そんな自分に限界を感じたルーシィは隙を見て逃げようと身体を捩った。
しかし、肩を掴まれ不意に顔へ影がかかったことで、ナツが近寄っているんだと頭では理解しているが、身体が動かない。
その一瞬、頬に温もりを感じてナツの唇が触れていることに気付いた。

「ルーシィ、…――」

耳元で囁かれた言葉に、強く身体が反応した。

片手を使ってゴーグルをはずしているナツに思わず見惚れつつも、目の前で笑顔を見せる彼に安心したのか、ルーシィは肩の力を抜いていく。
押し倒されていたルーシィは、いつの間にか絡んでいたナツの指をそっと握り返した。







その頃、ギルドではミラジェーンを中心に、まだ戻ってくる様子のないふたりの話題で盛り上がっていた。

「誰かが背中を押してあげれば、あの子達の距離はグンッと縮まるわ!」

進展のないナツとルーシィを応援しているようにも見えるが、何よりも楽しんでいるのはこの人なのかもしれない。






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