高3ってこんな感じ

『私、将来は小説家になるんだ!』
などと言っていた頃が懐かしい。懐かしいといっても、ほんの数年前の話だ。あの頃はそう、厨二病だったのだ。
将来の目標を、夕陽は考えていた。彼女は高校三年生、大学受験生だ。
『目標は直木賞受賞なんだから!』
思い出す度に恥ずかしくなった。あの頃の彼女を知る生徒がいないことが、幸いだ。中学時代は思い出したくない、ろくなことがなかった。高校に入って心機一転、とくに目立った失敗もない安穏な日々を送ってきた。京極夕陽は世渡りがうまいらしい。

最近になって、友人ができた。愛の告白してくれた、少し複雑な関係だが。
「何か、悩みでもあるのですか」
「…………そんな感じ」
夕陽のクラスでの隣人、三島はいつも通り読書をしていた。
「……また、アレ読んでるの?」
「いえ、茂森健二郎さんの評論です。私立大学の問題に採用されやすい学者さんですね」
「私立大? 国公立じゃないの?」
「第一志望は国公立ですよ。ただ、この方の評論は、おもしろいので」
評論を自主的に読んでおもしろいと言える三島を、すごい人だと思った。つまり内容を理解できている、ということだからだ。
将来の目標も、やるべきことも、そのための大学も、しっかりと見えている。そんな三島に、夕陽は引け目を感じずにはいられなかった。

その日の夜、チャットルーム『文学史上の何たら』に夕陽はログインしてこなかった。
吉田(仮):ユウヒ嬢、テストでもあるの?珍しい
原白:テストがなくても、勉強は忙しいものだろう
吉田(仮):へ?
ばしょん:あへ顔?
吉田(仮):ちげーよ^^^^
原白:高3って、受験生だろう
ばしょん:男の間抜け顔は見たくねぇな
吉田(仮):俺、専門学校志望だから、大丈夫さ
原白:ばしょん、今日は静かだな
原白:専門か、目標がはっきりしているんだな
吉田(仮):そんなに、立派なものでもないけどね
ばしょん:ばしょんは恋人にフラれました
吉田(仮):恋人いたのか(笑)
原白:初耳。失恋乙
ばしょん:二次元のカレのほうがマシ、と言われた
原白:笑うしかない
吉田(仮):あー、うん、御愁傷様
ばしょん:2次元に負けた。というか、あいつ、隠れオタだったのかよ……
吉田(仮):気づけなかったのか
ばしょん:たしかに、発言がどこかドリーマーだった
原白:隠れオタか、なるほどな
吉田(仮):ただの厨二病っぽい
ばしょん:……恋したいな
原白:男ばかりで悪かったな
そうして夜は更けていく。

夕陽は帰宅してから、着替えずにクローゼットの奥を漁っていた。段ボールを一箱取り出し、ガムテープを剥がした。なかには過去の教科書やノートが入っている。その中から、夕陽は水色の表紙のリングノートを探し出した。夢見ていた頃の、産物だ。意を決して、最初のページを開いた。タイトル『虹の国』、恥ずかしい限りの小説だ。内容はしいていうならば児童文学で、文章自体は読みにくくてしかたがない。「〜は…した」の繰り返しだ。病室の窓と雲を繋ぐように虹がかかって、そこから主人公は虹の国を訪れる。
「……厨二病だよ、ほんと」
夕陽はくすくすと笑った。



 

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