もっと人生を楽しんだらどうだい

繰り返して言おう、三島牡丹は腐女子である。男の子と男の子が並んで仲良くしていると、萌える。二次創作におけるボーイズラブも嫌いではないが、今ではもう、オリジナルのBLものに心を奪われていた。最近好きなBL小説は、『愛欲、世界の果てに』だ。尊敬していた同人小説家がついに商業雑誌で本格にデビューし、人気を得ているシリーズ小説だ。これはいい。エリート会社員×男子高校生、つまりは年の差カップリング、萌えます。
三島牡丹、チャットルーム『文学史上の何たら』ではユキオ、その前は、花守という。花守のハンドルネームは、もうチャットルームでは使っていない。それを使う場は、三島の個人サイト、及び同人イベントだ。ペンネーム、花守はサークル『芥丸』で活動する同人小説家だ。主にオリジナルBL小説を書いて、地元のイベントで売っている。人気は、それなりに高い。
以上、三島牡丹の知られざるプロフィールだ。

教室で、注目もされずにぽつんと一人、読書に勤しむ彼女は、ときおり、隣の席の友人に視線を向けた。それも繰り返していれば、相手だって気づくものだ。
「牡丹、どうしたの」
「いえ、ただ、何をしていたのかな、と」
「ただのメールだよ」
そう言って、彼女はまた指を世話しなく動かす。メールが終わったら、またチャットルームかな。

あなたの楽しみはなんですか?
LHRは担任のその質問から始まった。学校への学習調査書を記入しなくてはならないらしい。わら半紙に印刷されたペラペラの紙が回された。得意教科、生徒会活動趣味、特技、エトセトラ。
そういえば、みんなの趣味とか、意外と知らないなぁ、と思った。
担任が話し続けている。三島はシャーペンの芯を出して、記入を始めた。得意教科、古典、苦手教科は生物、生徒会活動、特になし。はて、趣味とは。
ちらりと隣の彼女を見た。なかなか書き進まないのか、シャーペンを指でくるくると回していた。
「夕陽ちゃんの、趣味はなんですか」
「チャット、とは書けないよね。牡丹は?」
「読書かな」
「だよね。まぁ、そうだよね」
牡丹も、さすがにボーイズラブの文字は出せない。
みんな若いから、夢をもって、頑張れるから、いいと思うよ。
見た目四十代の担任が言う。若い、そう、私たちは若いのである。やろうと思えば、何でもやれる。人生がもっとも楽しい時期なのではなかろうか。
二十歳未満で、ちょっと大人になった気分で飲酒して、二輪の免許を取って、教室でさわいで怒られてみたり。これは大人になって、社会人になったらできないことだ。
「進路希望、ねぇ」
「私、四大に行きます、そして経験を積んで、文学者になります」
「そっか、牡丹は夢があるんだね。ちょっと、羨ましいかな」
そんな顔をしないでください。
「慌てなくたって、夕陽ちゃんの夢も、すぐに見つかりますよ」
悩んでいる夕陽ちゃんも可愛らしいです。

帰宅した三島は、部屋に入り、制服も脱がずに、パソコンの電源を入れた。サーバにログインして、画面に文字を打ち始めた。
タイトルは『夢の話』。花守には初めての、純粋な女の子の恋のお話だった。がんばってください、夕陽ちゃん。三島は好きな彼女の名前を呟いた。





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レイラの初恋




 

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