煙る花の匂い



勝手に森を歩き回っては、静かに絵を描いた。リヴィエールの友人だから、と特別に許してもらっている。やはり、この森は外とは違う。木々も、空気も、空も、他とは違うのだ。
神秘的な被写体をキャンバスに描いていく。
そのなかにいきなり現れたのは、剣を携えた聖女、フォンテーヌだった。
「ここで何をしているの、人の子さん」
「見ての通りだよ、絵を描いている」
絵描きの真似事は、森を離れていた間に始めた。今は趣味のひとつだ。
物珍しいのか、フォンテーヌはパレットからキャンバスまで、しみじみと見ていた。なにやら気恥ずかしい気分になる。
「……あなたには、こう見えているの?」
「そう、だな。僕の画才じゃ、この程度だけれど」
「……きれいだね」
ポツリ、と小さな声で呟かれたそれはフォンテーヌの本音らしかった。
「そっか……、美しいのね」
「きみには、どう見えている?」
フォンテーヌは草花を見つめながら、考え始めた。剣も放り出して、真剣に考えているようだ。その後ろ姿が小さく見えた。
愛らしい花に、蝶が止まった。

「森の景観なんて、見てなかった」
聖女になって以来、彼女のすべては御神のためにあった。御神を第一に、剣を握り、清らかな森を汚すな。森の姿をその目に映すことができなかった。
彼女の目に映っていたのは、御神の、それも外の姿だけだったのだ。
「先姫様も、美しいって言ったんだっけな……」
「今は、どう見える?」
「変わらないよ、あたしにはやっぱり御神だけだからね」
「……そっか」
「ありがとうね、ひとつ勉強になったよ、ええと……」
「フランソワだ、フォンテーヌさん」
「フランソワね、覚えたわ」
こうして、フランソワは現聖女フォンテーヌと繋がりを得たかと思えた。しかし、世界はそんなに単純ではないのだ。
フォンテーヌは突然、妖しい笑みを浮かべると、鞘に収まった長剣を担いだ。
「ひとつ、教えてあげるね」
ぞくり、と肩が震えた。

「先姫リヴィエール様を直接亡き者にしたのは、あたしだよ」





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ちなみに、リヴィエールもフォンテーヌも仏語。興味がある人は意味を調べてみてね。このネーミングにあまり意味はないけれどね




 

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