憐れみを撒き散らす蝶々

数年の後に、村の青年は森に足を踏み入れた。かつて彼が森の聖域で出会った少女と再会するために。
その森には村を守る神とその使い、そして聖女が住まう。
この森へ入ることは禁止されている。そこは髪の領域だからだ。しかし好奇心のせいか、青年はそれを気にしなかった。
いくら探しても聖域にはあの聖女(リヴィエール)も、騎士(バーム)も見つからなかった。
そしてフランソワは、新たな聖女に出会った。細腕に長剣を構えた銀髪の少女。可愛らしい容姿に似合わない覇気があった。
「ここは御神の地、許可なく出歩くことは、聖女であるあたし、フォンテーヌが許さないぞ」
明るい少女の声、鈍く光る鋼の剣。フランソワは立ち尽くした。
「お待ちを、姫様」
「む、なんでパピロンがここにいるの?」
白い衣をふわふわっ靡かせる人物が、フォンテーヌとフランソワの間に立った。瞬時に現れたこの白もまた、神に仕える存在なのだろう。
「こちらは御神とリヴィエール様の客人、傷つけることは許されないのです」
「……本当なんだよね?」
いかにも不服そうな顔をして、フォンテーヌは剣を下ろした。しばしフランソワを睨み付けてから、この場を去った。静かな森に、フランソワと天使が残された。

「はじめまして。御神の三常恃、パピロンと申します」
常に神の側に仕える天使、パピロンはフランソワを森の奥の小さな石碑に案内した。そこには可愛らしい花が手向けてあった。
「さっそくで申し訳ありませんが、あなたの求める姫様はもうおられません」
石碑にはリヴィエールと記されていた。彼女が消滅したことを知った。おそらくは、騎士のバームも森にいない。
ここ数年、彼は村を離れていた。それゆえこの森に近づくこともなかった。何が起こったのかも知らない。気にならないと言えば、嘘になる。
「リヴィエール様は聖女の任を放棄なされたので、御神の判断で朽ちていきました」
「放棄?」
「自ら聖女を否定されたたのです。騎士も姫様を尊重したのか、ともに消えてしまいました」
してはいけないことなのだという。フランソワには理解のできないしがらみのようなものが、リヴィエールを苦しめていたのかもしれない。
「姫様も、バームも、愚かだったのですよ」
もっと己を可愛がればよかったのに。フランソワが背の高いパピロンを見上げれば、その顔に哀愁を浮かべていた。そっと石に触れる手は優しげで、いっそ近寄りがたい雰囲気だ。
「……あなたは、リヴィエールが好きだったのか」
思い付いたようにフランソワが尋ねた。パピロンはわずかに笑っただけで答えなかった。
静かな色使いの蝶が、ひらひらと舞っていた。




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