幸せを願う



人は、幸せになるために、生きている。
いつだったか、師匠は、そんなことを言っていた。では、剣を振るって相手を斬ることも、幸せのためですか。そう聞いたところ、師匠はこう返してくれた。
彼らも私たちも、これが幸せに繋がるのだと、信じていたいのだ。
要するに、私たちは、必ずしも幸せになれるとは限らないということなのだ。そもそも、私は、幸せに興味がない。幸せどころか、何にも興味はない。人の生死も割りきっているし、剣を振るうのも、それが仕事だからという理由だけぢ。
「仕事だぞ、早く並べ」
「はいはい」
そういえば、つい最近のことだ。「外」で師匠が死んだ、との知らせが届いた。骸は見つかっていないらしい。ならば、なぜ死んだとわかったのか、私は不思議で仕方がない。ひょっとしてひょっとすると、どこかでのうのうと生きているのではなかろうか。生きているかもしれない、あの人のことだから。生きていてほしいのに。しかし、書類上は、もう死んだことになっている。師匠は死んだのだ。まぁ、現実を見れば、結論はひとつ、師匠は殺されたのだろう。上の管理者たちは、育成係である師匠を、よく思っていなかったことだし。
私は思うのだ。師匠は、誰よりも、幸せになりたかったのではなかろうか。それと、私にも、幸せを見つけてほしかったのだろう。正直に言うと、私は師匠のことが嫌いではなかった。むしろ、好きだった。私の人生、世界にあの人がいてくれれば、それで十分だった。そんな師匠の願いならば、幸せになろうとしてみようかな、とも思えたのに。
「ほら、お前の番だ、血を流してこい」
「はいはいはい、わかってるってば」
でも、師匠。私は、幸せになんかなれないよ。死合うことはできるけれどね
「……私も、師匠のところに行こうかな」
人の命に、興味はない。ただ、飽きてきたのだ。師匠がいないのならば、わざわざ闘う意味も見出だせない。

剣を放り出した私。最後に見たのは、叫びながらサーベルを振り回す、下衆男の断末魔か。





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Pochi





 

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