もしかして:恋に落ちた


あれは高三のときだった。今までまともに話したことのなかったクラスメートと、いきなり、親しくなった。
黒髪のショートカットで、高校生にしては落ち着きすぎた感じの、それでも信頼されたクラスの中心人物だった。一言で言うなら、清楚な美少女。偶然にも三年間、ずっと同じクラスメートだったが、見ているだけで、話しかけられなかった。三年に進級しても、たった38人しかいないクラスでも、睦月には近寄りがたい人物だったのだ。何かこう、遠い存在のように感じていた。
それが、進級して一月経ったか経たないかの頃、いきなり接点ができた。
放課後、睦月は忘れ物を取りに教室に戻った。ほんのりと明るい教室で一人、彼女がぽつんとたたずんでいた。
『……あぁ、北山くん』
薄く笑った彼女は、たしかに睦月のことを呼んだ。ずっとクラスメートだったのだ。名前くらい知っていたって当たり前なのだが、それが妙に嬉しかったのを、覚えている。

涙と歓声で騒がしいのは、この時期のよくある光景だ。しかし、いざ自分がその場にいると、緊張が隠せなくて、落ち着いて余裕ぶるなんてことは、無理だった。ずっとそわそわして落ち着かない。
貼り出された合格者一覧を目の前に、たしかにあった番号を何度も確認した。
「睦月、結果は?」
「あ、あった、俺、受かってた……!」
「私も。また同じ学校に通えるな」
学生服の上にコートを着て、マフラーを巻いて、いつも清楚できれいな彼女が、やんやりと笑って喜んでいた。また一緒に、彼女と過ごせる。そう思うと、睦月もたまらなく嬉しかった。

合格祝いに彼女の家に立ち寄って、ホットミルクをごちそうになりながら、睦月は緊張の糸を解していた。
「なに、睦月センパイは姉さんが好きなわけ?」
にたにたと笑う彼女の弟にそんなことを言われて、睦月は顔が一気に赤くなった。好き、だとか、そんなことを意識したことはなかったのだ。ただ、いつの間にか親しくなって、勉強を頑張って、専攻は違えど同じ大学を目指してきた。彼女に並んでいたくて、頑張っていた。
これが、まさか。
「俺が、恋、とか、」
「ははっ、おもしれぇ。あの女帝に、かぁ」
けらけらと笑い続ける年下のことは、もはや意識の外だった。
好き、彼女のことが好き。だとしたら、初恋と言っても過言ではないほど、睦月の恋愛経験は乏しい。恋は、文学のひとつのキーワードみたいなもので、人魚姫は王子さまに恋をして泡になるし、光源氏は数多くの美女を愛し愛された。睦月にとっての恋愛はそういう物語のなかで起こるようなもので、たとえクラスメートや友達が可愛い彼女を作っても、あまり興味もなかった。それなのに、今になって、しかも彼女に恋をしている、とか。
「睦月、お菓子を持ってきたが、どうした」
「姉さん、知ってたか。睦月センパイはだいぶヘタレだぞ」
鞄とコートを掴んで、ごちそうさま、と叫んで睦月は飛び出した。
彼女の顔を直視できなかった。

「昭子ちゃんが、好き……」





レイラの初恋



 

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