意外と不器用



春。たとえば北欧諸国など寒さの厳しい国では、春は恋に積極的になる季節らしい。寒さから抜け出して、あたたかさとともに情熱的に愛す。
 ――しかしここは日本だから。
昭子はキャンパスの食堂のテラスで、カフェオレを飲みながら睦月を待っていた。食堂には二限が空いている学生が集まって、早めのランチをとったり、課題に取り組んでいたりする。そのなかに、いた。男女二人、仲睦まじくお弁当を食べる学生が。別に、だからどうというわけではない。ただ、ふと、気になっただけだから。
だいぶ温くなったカフェオレを飲み干して、昭子は二人から目を背けた。
まだ、来ない。もうそろそろ。いや、まだまだ来ない。
「昭子ちゃんやないか」
断りをいれるより先に、目の前に座る同級生は、昭子のよく見知った景人だった。学部は違うのに、いつからか話すようになった景人が、断りを入れるより先に、昭子の前に座った。そこは睦月の座る席だったと、ぼんやりと思った。
「あえて嬉しいわ、昭子ちゃん、数日ぶりやんな」
笑みを絶やさずに喋る景人に、昭子は適当に相づちを打つだけだった。とくに興味を抱くようなこともなかったと思う。心ここにあらず。まさにそれ。景人も気づいているだろうが、構わず話を続けていた。よくも、まぁ、話が切れないことだ。

「…………」
何なんだよ、と睦月は顔を歪めた。遅れたから、急いで、食堂に駆け込んだ。息も絶え絶えで、足も疲れた。昭子は景人とお喋りをしていた。あそこは、俺が座るとこだろう。何で、拒否しないんだ、と睦月は睨み付ける。それでも、昭子を、景人に対しても、怒るのは筋違いだった。約束に遅れたのは睦月だし、それに。心は急に冷めていく。いいや、帰ろう。時間になれば、彼女だって教室に向かうだろう。問題ない。
踵を返す睦月に、昭子は気づかなかった。

 ――約束、忘れられた。
すっかり陽が暮れた食堂で、昭子は空のカップを握っていた。








 

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