赤を運ぶ黒蝶



「メル、見てちょうだい、きれいな薔薇が咲いていたのよ」
漆黒の羽で翔ぶ妖精が、聖女の前に紅薔薇を差し出した。一輪の夜露を纏ったその花は、確かにきれいで、美しい。
蒼い髪の聖女メルは、紅薔薇を受けとると、妖精に笑いかけた。
悪戯好きの妖精がなついているのは、この聖女だけだった。孤独なメルも、妖精ノワールが唯一の気を置けない友達だった。
最近の聖女は、いつにも増して憂鬱な顔をしていた。森の主たる御神との関係が歪みつつあるらしい。そんなメルを励まそうと、ノワールもまた気を配っている。
「ノワール、私、御神といさかいをしてしまったのよ」
聖女と御神の不仲は、良くないことだった。御神は森の外の村を守る存在でもある。そして聖女はその村の少女だった。村を守るために捧げられた少女が御神に逆らうなど、あってはならない。妖精はそう教わっていた。村では突風が吹いたそうな。
「元気を出してちょうだい。私、また花を摘んでくるわ」
美しいものが聖女の心を癒してくれることを願って、ノワールは黒い羽で空に浮かんだ。

 ――メルを悲しませることは、許さない。
それから数日後、聖女のもとに押し掛けた客があった。御神の側近である三常侍の一人だった。ノワールは遠目に見ていた。三常侍が聖女と何を話していたのかは知らない。ただ、聖女がずっと悲痛な顔をしていたことは、よくわかった。
「メルを苛めることは、許さない」
妖精が、三常侍、神の使いに、あろうことか、危害を加えた初めてのことだった。敵うはずがないと妖精を侮っていた三常侍は、傷を負った。ノワールの力は、妖精のそれに収まらなかった。妖精ではあるけれど、そこから外れた特殊なものだったらしい。それが現れたのが、他と異なる、漆黒の羽だ。
このことは、もちろん問題になり、三常侍によって御神の耳に入り、お叱りを受けることになるだろう。何があろうと、森の聖の存在を傷つけてはならないのだから。
「ノワールの羽はきれいね。赤が映えるわ。まるで星が輝く夜の色だわ」
ノワールはまた、紅薔薇を一輪、聖女に渡した。






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空想アリア

メルから、本編のリヴィエールの話へ繋がっていきます。



 

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