無法空転
足が遅い。
先を歩く男は普段あまり外に出ないせいか非常に動きが遅い。
基本的に頭脳派、本来ならばこういった抗争に出てくるような人材では無いのだ。
「…………」
その後ろをつけていくエプロンの青年もあまり足取りは早く無い。
前方を進む男に付き従っているのだから仕方ないと言えば仕方ない。
先程、瓦礫で塞がれた階段を抜けた。
他の人々のおかげで突破できたのだが、人が一斉に雪崩れ込み、後ろからゆっくりついていくことしかできなかった。
「ねえ薮田。まだ前、進まない?」
男に問いかけると、ぼそぼそと返答が反ってくる。
「前方の階段で抗争、渋滞が起きているらしい。エレベーターを使って降りるのが良いのかも知れないが、そのエレベーターも人でごった返している」
「いちいち説明を冗長にしなくてもわかる」
足首の辺りに蹴りを入れ、少しだけ男は前に身を乗り出す形になる。
「愛善、危ない」
じろりと細い目で此方を見てくるが構うことは無い。
「……ちょっとしゃがんでもらっていいかしら?」
指示通りにしゃがむ男の背を踏みつけ、高く跳躍する。
周囲の人々は唖然と飛び上がった様子を眺めている。
一瞬時が止まったかのようにふわりと浮いてから、揉み合いになっている男と男の頭を踏みつけて先に進む。
「あたし先に急ぐから!」
エレベーターの隣の非常階段に入ったあたりで女の声は途切れた。
背中を踏みつけられた男は微妙な顔をしつつ、なんとか渋滞を越えることを決心した。

続く
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