目の前の炎
下の階層では立ち往生した人がずらずらと並んでいた。
ひとこはにやりと笑い、針を手に握るが、薮田に制止をかけられる。
薮田に針を軽く突き立てながら、ひとこは語る。
「あたしの愛の邪魔をしないで」
「だがしかし、現在の状況を見るにこの階層も瓦礫で塞がれている」
薮田の妙な口調にももう慣れたが、ひとこは不機嫌そうに顔をしかめた。
周囲を見渡せば、争いを起こしている者は数人居るが、全員瓦礫の撤去にあたっているように見える。
「火、くる」
先程抜けた上階からは火が舐めるように向かってくる。
蛇のようなその動きに三月が見とれていると、男が目の前に立った。
やや緑がかった黒髪の男は手袋を外すと、壁を掴み、瓦礫で道を塞いだ。
「あーー」
残念そうに三月は呟くが、男は無視して、周囲に他の瓦礫も持ってくるように指示する。
きびきびとした動きで一時的に火の手が回るのを防ぐが、おそらくそう長くは持たないだろう。
「三月、まだ腹は減ってないのか、と算哲は苛立ち気味に問いかける」
「まだ」
ゆらりと三月が揺れ、上階が少しずつ崩壊する音が響いていた。

つづく
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