縫い止めるもの
広間に入り込むと、やはりここも人がまばらだった。
やはり出遅れたのは大きく響いているらしい。
ひとこはつまらなさげに舌打ちし、硬質のブーツで床を叩く。
がらんとした室内に妙に大きく音が響く。
「つまんないの」
足元の鎖が掠れた音を立てるごとに、残っていた人間もどんどん下に降りていく。
「走らなきゃダメかなぁ」
鞄を開いて、針を投げつける。
チャリンと小さく音が響き、その直後には鞄が閉じられる。
大きな鞄はひとこの動きを縛るが、重要な武器でもある。
しっかりと握りしめてから、ひとこは下の階層を目指して、階段を飛び越える。
常人ならば痛みを伴うであろう動きをあっさりとしてみせ、踊り場をひらりと走り抜け、ほとんどの階層を無視して下に、下にとひたすらに降りていく。
「ん!?」
天井の蛍光灯がチリリと嫌な音を立てた。
ぱりんと蛍光灯が割れ、火花が散る。
咄嗟に避けるが、火花は大きな火となり、ゆっくりとフロアを侵食していく。
「あぁんもう、急いでるのに!」
付近に消火栓のようなものは見当たらない。
意外と火の回りは早く、スプリンクラーで消えるレベルではない。

「あつい」
少ししてから追い付いた三月は薮田にそう告げる。
煙がこちらに向かってくる。
薮田は目を凝らし、下の階層を見る。
火が回っている。
「下の階層への階段は瓦礫によって塞がれている、算哲は厄介だと呟きながら三月の手を引くのであった」

つづく
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