ニヴルヘイムの娘
黒い服の女のことは何度か見たことがある。
ややくすんだ桃色の髪は明らかに染めているのだろうが、なんだかあまり違和感は無い。
一見すると可憐な少女なのだが、彼女の狂暴性については噂に聞く。
出来れば接触したくない。
薮田はほとんど白に近い瞳をぐるりと回し、女を背後から見た。
途端に女がぐるりと振り返り、針を投擲してくる。
「あらあら、隠れてないで出て来てくださる?」
気配でバレているらしい。
薮田は角から女の方へ身を乗り出した。
針をこちらに投げてくることは無かったが、少しびっくりしたような顔をしている。
「薮田算哲、だった?」
フルネームに疑問符でぼんやりと尋ねられる。
なんだか奇妙な感覚である。
後ろに居る三月が女をじろりと見ている。
「如何にも」
「ふーん。そう」
じろじろと二人のことを見てから女はくるりと踵を返す。
「じゃ、あたし急ぐから
じゃらりと足元の鎖が音を立て、女は階段を下っていった。
女の名は愛善ひとこ。
自称愛の使者だとか、色々と話は聞いているが、厄介な女であることは間違いない。
彼女が先に居る敵を一掃してくれることを期待し、算哲と三月は階段を下り始めた。

続く
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