天衣無縫の3月
地上に降り立った瞬間地面が揺れたような感覚に襲われた。
周囲であらゆる音が感覚を刺激し、耳を塞ぎたくなる程の轟音が度々響いてくる。
地面を少し踏み締め、なんとなく欠伸をする。
結局ほとんど人間を避けていたように思う。
気配、音、建物の破損具合、これらを考慮すればどこを人が通っているのかくらいはある程度把握出来た。
今まではわからなかったことがわかることに三月は笑った。
「だァれも居ない。薮田は死んだ」
じっと赤い摩天楼を見上げる。
何階で彼は死んだのだったか。
彼が死んだ瞬間のことは覚えているような覚えていないような、記憶が曖昧な状態になっている。
「ん」
歯に挟まった異物を舌で取り除く。
ぺっと勢いをつけて吐き出す。
桃色の肉片が手に吐き出された。
「にく」
三月はぼんやりと記憶を辿る。
いつ肉なんか食っただろうかと。
「わかんないや」
三月は肉片を地面に振り捨て、ゆっくりと歩き出す。
摩天楼は真っ赤に燃え、後には黒い影が濃く落とされていた。

おわり。
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