反逆の判別式
第一回公式イベント2

室内の空気はやや乾燥気味である。
簡単な身体検査と軽い質問をされてから今まで小一時間ほど放置されているだろうか。
幸い切断されっぱなしになっていた腕は止血をされ、鎮痛剤を摂取したため、微かに残る痛み以外支障はこれと言ってない。
真っ白なこれといって装飾のない室内なのだが、どこか不安定な気持ちになるのはやはり何もないからなのだろうか。
扉の方を見やると、まるでそれを待ちわびていたかのように扉が開かれる。
先刻見た男だったか、長い黒髪を正面で二つに結んだ色のない男は無遠慮に、白の中に踏み込んだ。
先ほどと服装が違うが、特徴的な髪型ですぐに判別が効いた。
後ろからついてくるのは小さな少女だった。
まだ年端もいかない、と形容するのが適切な少女だがどこか機械的で年齢が読めない。
ぼんやりと侵入してきた二人を見つめていると、男が口を開いた。
「お目覚めですかぁ……?随分お疲れのように見えますがぁ……」
間延びした声がどうにも気味が悪い。
そして、なぜか楽しそうに微笑んでいるのも理解しがたいものを感じる。
白い室内が一点の墨で汚されたような心地だ。
「あの」
小さく言葉を発するが、意味はこれといってない。
「……大丈夫そうですねぇ…………腕は痛くないですかぁ……?それが心配なんですよねぇ……」
意外な言葉に少し目を丸くする。
思い出した、あの時の状況を。
ぬいぐるみ、ダミアン、鈴木、ゆるさない。
脳内でぐるぐると言葉が渦巻く。
極度に集中したせいか、先ほどの腕の痛みが振り返し軽く身を屈める。
「ダミアン、鈴木、絶対許さない……ッ!」
思わず口をついて出た言葉は呪詛である。
眼前の男の少し困ったような無機質な笑顔がまたしても癪に障る。
「あのぉ……話が見えないのですがぁ…………古式さん、ご存知ですぅ?……今の名前」
男の背後で椅子に腰かけた少女がぽつりぽつりと言葉を発する。
どうにもこの二人は言語が不自由であるように感じる。
「…………本職、記憶してません。はいじま涅槃、今一度聞き直してみては」
ガタン。
それだけ言い切ってから、少女は口を閉じる。
男はううん、と小さく口ごもってからもう一度口を開く。
「お嬢さん……もう少し詳しく腕について教えてくれませんかねぇ……えへ……」
へらへらとした男にのせられるままに語る。
混乱していたはずなのに、なぜか明確に相手の特徴を語ることができる。
口を開き、経験を吐き出すごとに少女が小さくうなずく。
服装、容姿、名前、声色、あの瞬間に感じたあらゆる感覚が呼びおこされる。
それから先のことはよく覚えていない。
いつの間にか二人組は部屋から消えており、また一人になっていた。


終わり。
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